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助けてくれたのはひよこクラブ禁止令

本屋に並ぶ、マタニティ向けの雑誌や育児雑誌。
いつか手に取る日が来るのを楽しみに待っていた。
そして結婚して、子供を授かった。
妊娠期間も今まで通り仕事を楽しみ、子供を産んでも保育園に預けてすぐ復帰する、などと、ワーキングマザーになる夢を描いていた。子を産み仕事に復帰するまで、何の問題もなく過ごす、つもりで。


無事に子供が生まれたが、初めての育児、戸惑う事ばかり。マニュアル通りになるわけがないのに、あの頃はすがる思いで、育児雑誌を手に取って、なめるように読んでいた。
私は、神経質な子育てを、知らず知らずのうちにスタートしていたのである。

神経質の塊になった私は、育児雑誌の付録の赤ちゃんの様々な便が乗っている下敷きを片手に、今日はこの便だった、こんな便でてないけどどうしよう……。などと、毎回チェックをし、雑誌に載っている「1週間目の赤ちゃん」「2週間目の赤ちゃん」を比べては一喜一憂していた。育児雑誌じゃ飽き足らず、ヤフー知恵袋にも自分の不安をぶつけていた。

「元気な赤ちゃんの育て方について。2か月の娘がいます。いまのところ、元気に育っていますが、病気をした時のためにいろいろ調べています。そうなると、とても不安になってしまって・・・。元気な赤ちゃん・子供にするためにされたことなどありましたら、教えてください!」

今見ても、おいおい、大丈夫か、とその頃の私に声をかけてあげたい。
ヤフー知恵袋の回答はこうだ。


「何事も「過剰にしないこと」です。寒いからといって着せすぎない。母乳やミルクを飲まないからって一回の授乳に何時間もかける、とかしない。また次泣いたらあげよう位の気持ちで大らかに見守る。何でも口に入れる時期に過敏に反応し過ぎない、とか。なにより、お母さんが悪い事ばかり想像して心配して不安になっているのが一番よくありません。子供は敏感でお母さんの不安を感じ取ります。いつも笑顔でお子さんと向き合っていて下さい。

そんなことを書いてもらっても、もう頭の中は「わかってる!」と少しヒステリックになっていた気がする。今なら、産後のホルモンバランスの仕業かともとれるが、その時の頭の中は、娘を死なせてはいけないという気持ちで、必死だった。


そんな、ホルモンバランスに振り回され、ちょっと違う方向に走りそうな私を見て友人が一言言った。

「ひよこクラブ禁止ね」

育児雑誌が悪いわけではない。育児雑誌の情報をすぐ鵜呑みにしていた私側の問題だ。ああいうメディアは普通の情報ではなく、華やかなことを書いているのだ。


キラキラと育児を楽しんでいるお母さんとにこにことご機嫌な赤ちゃんがいるのだ。
雑誌の中のお母さんと、髪振り乱しお化粧すらできない、余裕のない自分とを比べ、にこにこと笑っている赤ちゃんと、あやしてもあやしても泣き止まない娘を比べ、私の心はどんどんすり減っていった。


そんな私の性格や、産後の状況を鑑みて友人は「ひよこクラブ禁止ね」といってくれたのだと思う。はっとした。すぐに育児冊子は捨てた。

神経質で不安な性格はすぐに治るわけではなく、今度は違う場所を求めた。

ツイッターだった。

ツイッターはリアルで楽しかった。
顔も見えない、だれかわからないけど、文字の向こうに私と同じ「新米お母さん」がいて、同じ悩みを抱えている。そんな「新米お母さん」のために「ベテランお母さん」が答えてくれている。仲間がいる!そう思った。
それから私はツイッターにのめり込んでいった。
会社復帰をして娘も保育園へ行き始めてすぐ、娘が熱を出した。小児科に行って薬をもらったが飲まない。どうしよう。
私はツイッターに助けを求めた。すぐさま、顔は知らないけど、いつも言葉を交わしているお母さんから「アイスに混ぜたらどう?」「脇を保冷材で冷やすといいよ」とアドバイスが来る。文字の向こうに心強い仲間が見える。それだけで、安心し、私は冷静に対処することができた。

ファッション雑誌のモデルさんに憧れることはあっても、自分を重ねることはまずないだろう。それが、子を産み、産後のホルモンバランスの乱れから、不安の塊と化した私は育児雑誌の通りに育たないことに不安になり、自分を責め、心が病んでしまう一歩手前だった。


生後間もない赤ちゃんを殺めてしまう事件がある。
わが子に手をかけることはもちろんやってはならないことだけど、私もあのまま不安の塊で邁進していたら、他人ごとではない。

新米お母さんは、いろんなことが不安でたまらないのである。身内にだって頼れないことだってある。うちの母は、生後1週間の娘が、哺乳瓶でうまく飲めないときに、キリで哺乳瓶についている飲み口の穴を広げて、娘にミルクを飲ませようと、口の中いっぱいにミルクが溢れ出て大変なことになったこともある。忘れもしない私のホルモンバランスを刺激した事件の一つだ。

新米お母さんが、不安に、孤独に子育てをしているなら、ぜひツイッターで自分の不安を吐き出してほしい。ツイッターならスマホがあれば、誰だって見られるし投稿できる。

私が助けてもらったように、今度は私が不安なお母さんを助けてあげたいと思う。

《おわり》

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