芋虫
江戸川乱歩の作品の一つです。
芋虫を読んだという感想を見るとアンチテーゼだとか人間の欲などの感想を色々見るのですが、私の見解としてはこれは「純愛」だと思っている。
相互依存でもある時子と須永中尉。
須永中尉は肉体的に時子に依存するしかなく、そんな須永中尉に時子は心身で依存しているんだろうな、と。
描写的にはすごくグロいわけではないけれど、エログロな世界感の小説であるのには間違いない。
戦争によって両の手足、人間としての尊厳を奪われた須永中尉の唯一残った視覚を奪った時子に、須永中尉が最後に残した言葉が「ゆるす」の三文字。
心が震えましたね。
化け物じみた旦那である須永中尉を献身的に介護し、そこから産まれた加虐心、残忍な物言い。
それでも、時子は須永中尉を捨て置くことは無く、そしてまた、須永中尉も自身の唯一残った感情を伝える手段の目を時子に潰されてしまうが、最後には「ゆるす」と書いて死ぬ。
私には、なんて深い愛情だろうかと思ってしまう。
誰も見舞いに来ないほど気味の悪い容貌になってしまった夫と共に居続ける時子は本当に自分の欲を満たす為だけに共に居たのか、世間体を気にしているだけで側に居続けたのか。
また、須永中尉は本当に自分の矜持を保つためだけに時子を許したのか。
私は、そこに深い愛情が無いと無理なのではないかと思っている。
だからこそ、この作品を「純愛」だと思った。
江戸川乱歩の作品は人間の狂気を幾つも書いているが、私はこの芋虫ほど深い愛情を感じた作品は無い。
とは言え、まだ読んでいない作品も幾つかあるため、一概にこれだけがとも言えないのだけれど。
しかし、私にとって深く感銘を受け、思い出して心を打ち震えさせるのは江戸川乱歩の「芋虫」と、遠藤周作の「海と毒薬」の一文、それも登場人物のセリフ(芋虫の場合は走り書きであるが)だけだ。
物語として読み、何度も読みたい、面白い、感動する、恐怖するなど様々な感情をもたらす小説は幾つもあるが、たった一文で此処まで衝撃を受けた作品はこの二つの作品以外に今は無い。
どちらも長い小説ではないので、このステイホーム期間に一読するのは如何でしょうか?
その際は、この作品をどう感じたかを教えて頂けると嬉しい。
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