アメリカ南部郵便屋 これまで これから 1〜5
20数年のアメリカ南部での郵便配達生活とこれから始まる大学院生の生活
53歳で人生の転機を迎えているおばさんの記
1)The Pillow Book
「はるはあけぼの」今の高校の教科書にも入ってるのだろうか?
30年以上前に国語の授業で読まされたのは素敵な情景を素敵に書いてある素晴らしい日本の随筆。へえ、そうですかで終わってたこれが秋から始まる大学院のクラスの課題のひとつにあるらしい。
学校が始まるまでの時間があるうちにやれる事はやっておこうと指定された英語版を直ぐ注文した。何せ50超えての学生生活だ。衰え始めてる頭では周りの若者のスピードには敵わないし、英語だって日常生活には困らないけど講義に耐え得るかはわからないのだ。
で、読んでみると枕草子、面白い。カツラがズレてる女の姿を見て男がその場を去ったとか、子供が騒いでるのに何もしない母親は超ムカつくとか。で、清少納言、本人も面白い。才があって機転が効いて、でも気難しくて相手をばっさり切り落としたり。格調高い所だけ選んだ教科書にはこんな話は出てくるはずもなく、古典が好きになってたかもしれないチャンスを逃してたんだなと思わずにいられない。
世に出すつもりは無かったと清少納言は平安時代の宮廷での生活で思いついた事を思いつくまま綴っているのだが、凡才の自分がと言いながら賢い即答で周囲を驚かせたエピソードの数々を嬉々として書いたり、謙遜しながら自尊心が見え隠れしてるのも興味深い。というのも自分もこれから書こうとしている物はこんなふうになるんじゃないのか?と感じたからだ。思いついた事をそのまま、誰かに読んでもらうためにじゃなく、ちょうど人生の転換期にある私のこれまでとこれからを備忘録のように書きながら、たまに出してしまう自尊心。
というわけでこれから少しずつアメリカでの生活について書いてみようと思います。自分の初めてのnoteと日本三大随筆を並べるなんて、超おこがましい。ははは。
2)アメリカでは 日本では
アメリカではとか、日本ではとか、大きな括りが使われてるのに出会うと、おいおいおいチョット待ってと構えてしまう。先日も短期留学で日本から来ている学生さんに「アメリカでUFOは信じられてるんですか?」と質問されたのだが、おいおいおいを超えてポカンとなってしまった。「いや、それってアメリカではどうのって答えられるものじゃないでしょ。逆に日本ではどうなの?って聞いたら答えられる?」と返したら「日本にはUFOの情報があまり入ってきてないので信じている人は少ないです。」だそうだ。一体どこから得た情報を丸呑みに信じてしまっているんだろうか。
上の例は極端だとしても意外と軽く大きな括りで語られてる情報は多い。海外生活での経験を「この国では〜です。」と紹介しているありがちな投稿は、ひとりの経験を気軽に一般化すると誤解が生まれてしまう可能性を書く側も読む側も分かっているのだろうか?
アメリカで生活している日本人の方々のツイートなどを私も読んだりするが、住んでいるエリアや生活レベルによって同じ国でも全く違う!というごく当たり前のことに何度も気付かされてきた。大きな自宅で豪勢な結婚式を催したアメリカ在住日本人の経験をウェブ記事で読んだ時も、この国の文化だからというより富裕層だからと思える内容でありながら、記事のタイトルが「アメリカの結婚式」であるがために「これがアメリカか!」と感嘆する読者もいるんだろうなと余計な心配をしてしまった。
と言いつつ私もここにアメリカ生活のハッシュタグを付けてしまっている。正直に言ってしまうと、そのタグがあれば興味を持つ人がいるかも知れない!と思ったからだ。「誰かに読んでもらうためにじゃなく」と前に記したにも関わらず、やはり反応を見られるなら見てみたいと思ってしまった訳だ。
そこでひとつ。ここに書かれてるいるのを読む時は少し気を付けて欲しいのです。私が書いているのは私個人のアメリカでの生活経験であって、これがアメリカですよという姿を伝えているのではないのです。よろしくお願いします。
3)とりあえず郵便屋
タイトルがアメリカ南部郵便屋で始まってるから、とりあえず少しそこに触れておいた方がいいのだろう。
USPS(United States Postal Service)は郵政民営化された日本とは異なり現在も公営、だから国家公務員ではある。USPS内でも職種は人事、システム、窓口業務、その他と幅広いが、私が採用された郵便配達はブルーカラー、超肉体労働だ。もちろん600世帯ぐらいある配達区域内の情報を把握したりする能力が高ければ仕事が効率的にこなせるから頭が使えるに越したことはない。が、明記されてる条件は年齢などの基本以外では70パンド(約32キロ)までを扱える体力ぐらい、だから簡単なテストをパスすれば誰にでもできる仕事なのだ。
まあでもだから簡単だと言うわけでもない。仕事を始めて3日ぐらいのOJTトレーニング(職場内訓練)が終わると、慣れた配達員が普通に日々こなす仕事と同じ量をドカッと、ハイじゃあ今日は一人で区域の配達全部よろしくね〜と任されてしまう。意外と知られてないのは配達前に仕分けもしてる事。機械仕分けの際弾かれてしまった手紙に加え、封筒より大きいサイズの雑誌や小荷物は全て手作業で配達できる状態に仕分けなきゃならない。スピードのない初心者はその時点でマゴつき、配達に使う時間がどんどん減ってしまう。もちろん配達でもモタついて焦る気持ちをよそに日は暮れていく。そんなんで一人デビューの日を乗り切れず辞めてしまう人は結構多い。
ただやる事は毎日一緒なので慣れてしまえば楽になる、いや、アマゾンがUSPSをやりたい放題使い始めるまではそうだった。ここでは詳しく書かないが、手紙を扱う量が激減している中、アマゾンの小包の扱いで生き延びてるUSPSは、どんな理不尽な要求でもアマゾンの言うことにはハイと応えなきゃいけない。もはや郵便配屋ではなく宅配屋となりつつも、他の宅配業者のように大きな車両は整ってなく、その皺寄せは私ら郵便配達員にのしかかり、労働環境はは年々過酷になっている。
ハッキリ言ってこの仕事はつまらない、同じことの繰り返しだし。ただ国家公務員だけに福利厚生がいいのだ。それがあるから例のデビューの日を生き残った配達員は頑張っている、いや、正社員に到達した時の手厚い福利厚生を励みに耐えている。もともと私は子育ての隙間時間に週一でどう?と言う軽い誘いに乗ってこの世界に入ってしまったのだが、気が付いた時には抜けられなくなり、長くいればいるほど自分のモチベーションを保つのが難しくなっていた。そこで上の写真に繋がる。都市部の配達とは異なり田舎の局ではユニフォームの着用が必要なく私服で仕事ができるのだが、私はある時からお気に入りのアディダスに毎日身を包むことにした。毎日の仕事を自分のトレーニングであると心に決め、そうすることで単調な動きも無料のジムに通ってるようなものだと思うようにした訳だ。
そんなこんなで23年を超えた郵便局勤め。だけどここ数年身体がキツくなるし周辺視力の衰えも感じ初め、そろそろ潮時かなとは思っていた。そんなタイミングで昨年色々とあり、ああ人生の転換期が来たなと。これだけ長いこと局勤めしたし、というより実は今現在も愚痴らずにはいられない状況にあって、郵便屋については書くことが山ほどある。それはまた、少しずつ。
4)アパート探し
秋から通う大学は自宅から片道車で90分超のお隣の州にある。
今の勤めを辞めての学生生活になるのだから費用はなるだけ削りたいと、進学先を探している時も通える範囲というのが重要な要素だった。実際に一番自分の興味に近い学科のある学校は遥か遠くの北部の州にあったため出願を断念している。なので車通学する気満々で、書類審査後の面接でも教授たちに堂々と「車で通います!」宣言をしたら、えええええっと驚かれてしまった。「やめた方がいいよ。授業を取るだけでも忙しいのに、教えるクラスは朝イチのもあるかもしれないし、凄く疲れると思うよ。」
実はTA(Teaching Assistantship)と言う教えながら自分の授業を取ることで授業料が免除になるシステムがある。今回の大学院行きは何か目標があってそのために必要だからと言うのではなく、人生の転機を迎えて何をしていいか分からないからとりあえず前に進もうと決めたことだ。だからTAが出来ないなら進学はしないつもりでいた。まだ漠然と出願手続きをしてた頃は車通学一択で特に何も考えてなかったが、実際に入学手続きが進み具体的になってくると1日往復3時間の重みをひしひしと感じ始め、教授たちの言う通りかもなとアパート探しを始めた。日本いた時は往復3時間は当たり前だったんだけどなと思いつつ。
自分でも損な気質だと思うが、とにかく細部に渡って調べなきゃ気が収まらない。ネットに溢れる情報に溺れて発狂しそうになるというのがお決まりのパターン。しかも教授には「近頃大学周辺は物件が足りてない様だからなるべく早く決めた方がいいよ。」と言われたのもあってストレスは増すばかり。
そして分かっていることながらネットの情報は鵜呑みにできない。アパート検索サイトに載ってる情報はオフィシャルサイトとの情報と違ったり、オフィシャルサイト内でも深掘りすると次から次へと隠れ料金や規定が出てくる。
TAだと少しお給料も貰えるから、それで賄える範囲のアパートをと思って探したがお手頃な物件が全くない。キャンパス周辺で一部屋バストイレ付きはひと月850ドル(12万円弱)ぐらいから。シェアハウス形式のバストイレ付き一部屋は650ドル(約9万円)ぐらいから。大学の寮なら治安もいいし安いかもと調べたら、かかる費用は外と変わらず。そして「バストイレを他の若い学生達とシェアになるから静かに勉強したいなら避けた方がいいよ。」と大学からのアドバイス。その通りだよ、ハッキリ言ってくれてありがとうと感謝。
またどこまで信じていいのかがわからないのがネットのレビュー。ひと月1200ドルを超える様な所じゃない限りちょっとヤバそうなレビューはどの物件にもある。水漏れ、騒音、カビだらけ、修理対応の遅延、各種ぼったくり。そして同じ物件なのに「人生で最悪。ヤバいから避けろ!」の隣に「料金並みでまあ満足してる。」があったりもする。
実は教授から勧められて気になってた物件はほぼ全てが悪レビューで、「隣人と友達になった。いい所だよ。」とポジティブと呼ぶには微妙なのがひとつあるだけだった。もう何をどう判断していいか分からなくなって「自分の通う学部の建物まで歩いて行ける」という教授からの推しポイント以外はもうどうでもいいやと、それ以上の思考を停止してその物件に決めてしまった。
決めてからアパート契約に漕ぎ着けるまでまた色々あったのだが、それはまた今度。で、上の写真は先日旅行先で泊まったホテル。ベットで休んでたら、トイレにいた旦那が突然奇妙な声をあげ、ドボドボっと変な音がし始めた。覗いてみたら天井の電気のケースの隙間から臭い水が!チョロチョロじゃなくてドボドボ。慌ててゴミ箱を空にして下に置いてフロントに電話。すぐに荷物をまとめて新たに貰った部屋(最上階を要求)に移動。ああ、これがアパートレビューに書いてあった上の階からの水漏れってやつか!話には聞いてたけど実際にあるんだなぁと妙に納得してしまった。でもこれホテルだからすぐ部屋変えられたけどアパートだったらどうなるんだろう?自分のアパートでデジャヴになりそうな嫌な予感がしてきた。
5)無職 バンザイ
6月が始まった。実は5/31で郵便局を正式に離職したから、この月替わりは大きな大きなひと区切り。ここでは詳しく書かないが、去年の8月終わりから怪我と他の事情で実際には仕事をしておらず、溜まりに溜まっていた有給を使って約9ヶ月過ごしてきたのだ。その道のりは単純ではなく、と言うよりメンタル的に超過酷で、人生初のカウンセラーにもお世話になった程だった。そんなのもあって無事に6月1日を迎えられたのは感無量。お給料がもう来なくなる焦りや、秋から始まる学生生活への不安はどうでもよい!と暫く然らぬ体をきめた。
そして今月中頃には日本へ。コロナの水際対策も落ち着いてコロナ陰性証明の提出は要らなくなったものの、各種手続きがスムーズになる様にとVisit Japan Webというサイトであらかじめ入国/関税に関する登録をするよう勧められている。じゃあ、とアカウントを作って入力を始めると、とある事柄で手が止まってしまった。
職業欄である。
リストの中から選ぶようになっていて、選択肢は
会社員、会社社長/会社役員、公務員、団体職員、個人経営者(自営業)、医師、教員、学生、無職、その他。これだけ。ザックリ過ぎない、これ?
郵便局員って公務員?会社員でもいいのかな?なんて思いながらハッと気がついた。
そういえば辞めたじゃん!て。
大学院始まるのは8月だし、主婦が選択肢にないし、じゃあ今選ばなきゃいけないなら、私は無職なんですか?
これまで特に意識してなかった「主婦」とか「無職」の言葉のイメージが頭の中をぐるぐるし始めてた。
「主婦」という肩書きは「外で働いてないからな」の消極的なニュアンスが抜けきれない。金銭的な報酬がないからだろう。「やらなくても死なないだろ」的な極端に家事をディスる論もあるけど、快適に健康的に暮らすために家事をキッチリやったら仕事の幅と質は半端ない。そうだよ、家事は立派な仕事なんだよ。(と自分に言い聞かせ調の時点で弱気オーラ)
正直いうと外で仕事をしながら家を回してた自分には自負があった。そして片手間の家事しかしてこなかった私は「働いてたから」という言い訳と妙な誇りを失って「はい、主婦です」と堂々と言える様になるのに時間がかかる気がする。
そして無職という響き。世の中には様々な事情で職に就いてない人がいる。家族のケアに専念してる人、経済的に職を必要としない人、すでに定年退職した人、その他諸々。そんな人達をなんとなく一括りにしてしまう言葉が無職でいいのだろうか?
子供の頃、事件のニュースはいつも「じゅうしょふていむしょく」って音から始まるのが不思議で、後に「住所不定無職」と気がつき、住む所と働く所がないのは犯罪とセットなのねと思った記憶がある。そんなこともあって「むしょく」という音には罪悪感が絡んでしまう。
まだ辞めたばっかだから会社員にしよっかな?なんで主婦/主夫がないんだ?早いけど学生にしよっかな?無職って入国拒否されそうな感じするしその他にしよっかな?
チョイスを行ったり来たり、で結局、無職を選んだ。
いいんじゃないの別に、無職で。
しかしこんな所で郵便局を辞めた事実をくっきり思い知らされるとは予想外だった。
離職できてバンザイ!だから無職バンザイ!
ちなみvisit japan webで職業欄が出てきたのは入国審査ではなく税関申告の過程。
どうしてなんだろ?
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