【詩】うどんレッスン

強いられて今日もうどんに向かう 
拒む術なく望むところでなく
首の廻わらぬわたしのうどんレッスン
サヌキでもイナニワでもなく
三玉百円のうどんパラダイス
春夏秋冬一日三食自業自得の一年中
米に見放された男が毎日おめおめと
(ふざけんな!)
トウフの角に頭ぶつけてうどんパーティー
ロンドンへも香港へもハワイへも行けず
新聞読めず、誰が死んだかも知らず
二進も三進も行かない男のうどんレッスン
云うだけの男が毎食素うどん啜る
奥さん!わたしはうどん男
奥さんの肌より白いうどんをぐつらぐつら
煮込み煮込んで忍耐のうどんレッスン
炎天の道路をピンポン、蚤のごとくに跳ねつづけ
枯葉の噂に猫とひそかに頬被りして逃げつづけ
降りしきる雪を湯気に受けながら
散りしきるサクラを鍋に浮かべながら
啜りつづけても終わらぬ男のうどんレッスン
雲のようにうどんが頭に浮かんで離れない
来る日もわたしはうどんに試される
沸騰したお湯に蠢くうどんと愚鈍な男をぶちこみ
昆布スープと想い出加えてぐつらぐつら
お好みまで煮込んで一丁あがり
奥さん!地獄うどんはいかがです?
いざ、心ゆくまで地獄谷のうどん天国
一味唐辛子を赤い雪のように降り降らせ
真っ赤に染まった素うどん啜り咳き込んで
汗と涙を流して呑み込めば
曲がりくねった無用の労働と、踏み迷った道路が問題なのか
潔く人間やめてうどんになれと云うのか
うどんを毎日食いながら
うどんの真意を理解できないわたしに
毎日支払いの疫病が浸蝕して来る
毎日破産の津波が押し寄せて来る
魯鈍な男のうどんレッスン
寝不足の充血した眼で今朝もまた
うどんと対峙する試練が今のわたしの労働なのだ
今日も今日とて有無を、倦むを云わさず
屋根に黒い鳥が待機するアバラ屋で
沸騰する忍辱のうどんを啜る
妻はまだ押入の中
正午過ぎまで夢から出て来はしない
これには根強いいわれがあるのであるが
今は勤しめ
うどんレッスン!
 





 
 
 *2009年11月の作であります。
 

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