【詩】吊るされる男の始末について   

何ももう出てきはしないと赦しを乞うのなら
まずその男のポケットを探れ
そこに何も手掛かりが残っていなければ
次いでいつも頸から引き摺っている詩嚢の中を調べてみろ
そこにも何もないと赤い目をして訴えるのなら
その男を裸にひん剥いて、衣服と躯の、表と裏まで調べあげろ
それでも何も出て来ないというのなら
その男の痩せこけた躯に聞いてみること、これに限る
その男の細い片足を濡れた繩で括り上げ
あの根元に根深い穴を掘った
あの雨の降らない土地の枯木に吊るせ
その男を逆さに吊るせ
まず、うらうら揺らしたり、ゆるゆる廻したりなどして時をかけ
その男の内蔵にある言葉をすべてことごとく吐き出させることだ
もしも何も出てこない場合には薔薇の枯れ枝で笞打って
その男の物語を剥奪しろ
それでも一滴の言葉も出てこないという事態が招来したならば
石持て頭を砕き割り
言葉のきれぎれ、物語の粉々の混ざった、脳髄のぐしゃぐしゃをバケツに採取し
心臓をナイフでひと突き、砕けた首をスッパリ切って
流れ出す赤い言葉の一滴、黒い物語の一片まで絞り出せ
仕舞に今度は嘘も真も何も出てはこなくなったのなら
繩を切って穴に落としてやることをお奨めしよう
その男の役目はもう終ったのだから
その男の務めはもう世界には何処にもないのだから、さもなくば
邪悪な黒い鳥たちの嘴に捧げるがいい、繩は切らずに吊るしたままで
その脳髄の破片に残ったもろもろ
その眼球の底に映された絵のさまざま
鼓膜の奥の骨に貼りついた音のいろいろ
鼻孔の奧の匂いの記憶のすべて
夢の中の手触りに肌触り、感触のくさぐさを思う存分
奴らの腹が満ちるまで食らわせてやることだ
やがて繩から抜け落ちる骨の跡形もなくなるまで

これが吊るされる男のいっとう素敵な始末の仕方なのである
そしてそれは、世界に代々伝わる最善の方法だと私は聞いている






  *2013年、『季刊びーぐる』21号に寄稿、初出。


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