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精索静脈瘤手術と手術後の雑感

日本が誇る最先端男性不妊医療のおかげで、ついに精子濃度の極端な低さ、精子運動率の悪さの原因が精索静脈瘤にあることが判明。今回はその手術の概要や、当日に経験したこと・思ったことを書いていこうと思う。

精索静脈瘤手術の概要

とりあえず初診での先生の触診で、どうやら私は精索静脈瘤なる、左キンタマの表面にできたコブのようなものを持ち、これが男性不妊症患者の3割が持つものだということが判明。

今のままだと顕微授精もできないのでとりあえず手術しますか?と言われ、概要を聞いてみると
・費用は保険適用(3割負担)で、自己負担分は4万1千円。なお、東京都の助成はこの精索静脈瘤の手術に関しては受けられない(※)。

(※)より高度な男性不妊治療手術の場合は1回30万円を上限に助成が出るようになった(令和3年1月~の手術に適用)。これが適用されるのは、精巣内精子生検採取法(TESE)、精巣上体内精子吸引採取法(MESA)、経皮的精巣上体内精子吸引採取法(PESA)、又は精巣内精子吸引採取法(TESA)である。


・うまくいけば、大体2〜3ヶ月して、精子の数や運動率が3割くらい改善するかもしれない。すぐに改善する人もいるが、これくらい時間がかかるケースが多い。


・基本的には麻酔(全身麻酔か局部麻酔)でやるので術中の痛みはなく、30分くらいで終わるとのこと。

おー結構軽い手術なのか、とヘタレの私は少し安心。手術は最速で1週間後に予約可能とのことで、ひとまずこの手術をしないと顕微受精すら厳しいとのことなので迷わず予約をした。

術前に特に気をつけることはない模様。前日は夜20時以降の食事は禁止、というくらいで当日の術前に腹が減って仕方なかったくらい。

繰り返すが私は昔から体を切られたり注射されるのに相当な恐怖があり、新入社員時の健康診断の採血で意識を失ってしまった情けない経緯がある。そりゃもちろん下腹部をスッと切られるなんて怖い。しかも切った後で血管をいじくって結び直すという手術なので、考えただけでも吐きそうなのだが、これがうまくいったとして、今後妻が経験する採卵とか胚移植とか出産に伴う苦痛ってこの比じゃないんだよなぁ、と思うとやらないなんて選択肢はとても考えられない。泣き言は言ったけど笑

なんならポジティブに考えると、世の男が経験しない「産みの苦しみ」(産み、じゃないよなぁ、なんだろう)を擬似的にでも(ほんのすこしだけ)経験できるじゃないか!これは価値あることなんだ!と前向きに捉えて手術当日に向けたメンタルを作っていった。

手術当日

30分の手術とはいえさすがに緊張する。さわやかな初夏の陽気が逆に恨めしい・・・。

有り難くも妻が同行してくれることになったが、恐怖に怯える私とは対照的に、なんだかどことなく楽しそうだ。そういえば子供の時、注射とか大嫌いなイベントに一緒に行く時、母親も妙にテンション高かったな…。緊張や苦しむ人を見ると人は陽気になるのか。人間の心の闇を見たような気がする。

さらに「3センチ切るだけだよ?帝王切開なんてその比じゃないんだからね。わかってる?」など慰めに見せかけた正論を展開する妻。ウンウンそれもわかってるんだって…!それもわかってて、結果トータルで怖いんだよ・・・。痛みに弱く血に慣れていない男はかくも情けないものである。

クリニックに到着すると、受付後すぐに手術待合室のようなところへ案内される。簡易ベッドと椅子だけ置いてあるような2畳くらいのスペースだ。ここで手術の概要をざっと説明された後、手術着に着替える。どうせ下腹部からオマタは剥き出しになってお医者さん看護師さん皆んな見るのだから全裸でもいいのでは?なんて意味のよくわからないことを思ったが、手術前の恐怖が思考回路をおかしくしたのだろう。

待合室で点滴の針を装着し、しばらく簡易ベッドに寝そべる。このあたりはよく覚えてないが何か薬を服用させられたような気もする。私はひたすら「不安だ」「失敗したらどうしよう」という大して意味もなくただ情けない言葉を垂れ流し、妻は微笑みながら(ニヤニヤしながら)それらをいなしていた。

30分くらい寝そべった後だったろうか、ついに名前が呼ばれ待合室向かいの手術室へ。点滴のキャスター付きの台をガラガラと持って歩き、自分で手術台へよっこらしょと寝そべる。金属製の台がひんやりしてちょっと気持ちいい。

横たわるとすぐに、担当の石川先生とアスシタント的な看護師の方1名の合計2名に、腕や指に色々と取り付けられ(血中酸素を測る、指につける洗濯バサミみたいなものとか)、手術台に手足を拘束される。最後に口に麻酔吸入マスクを取り付けられ、「では始めまーす」という先生の一言を聞き終わったあたりで意識が遠のいた。

熟睡というよりも、週末に朝飯を食った後に少しまどろんでるようなあの感覚。そして夢を見た。大学時代の友人と居酒屋でバカ騒ぎをする夢だ。一世一代?の手術という大舞台で、友人達が応援に来てくれたのだろうか。

と思ったら、「あの〜、ゴンザレスPさ〜ん?」という先生の声と、肩を揺らされる動きで目を覚ました。

「暴れちゃって手術に入れないんで、局部麻酔に切り替えます。なんか飲み会してる夢見てるみたいでした」

「あのー、どんなうわごとを言ったんでしょうか」との私の質問には、えぇまぁという答えとも相槌ともつかない返答で対処する先生。

そこからは注射で局部麻酔を入れられ、痛みも特に無いまま手術は30分ほどで終了。手術中はなんだか下腹部が引っ張られたりかき混ぜられたりするむず痒い感覚があり、血だらけの患部を想像してしまうと耐えられなさそうなので天井の一点を見つめて、なぜか「はだしのゲン」の名シーンベスト10を考えたりしていた。

術後は手術待合室の個室に戻り妻と合流。1時間ほど休んだ後解放ということで、正味3時間くらいのプチ手術&入院だった。

手術後の経過


傷跡は縫合されているのだが、溶けないタイプの糸のようで、だいたい1週間後に抜糸の予約をして帰宅。麻酔がまだ効いているから痛みはないが、下腹部の筋肉をちょっと切っていたり、縫合部があるのでなんだかつっかえるような感覚があって歩きづらい。。。

その日は血を補わなきゃという口実で妻と焼肉屋へ直行し、このあたりまでは良かったが深夜あたりで麻酔が切れて痛み出す。一応痛み止めは1週間分もらったのだが3時間くらいで切れてしまいまたジンジンと痛む。声を出すほどじゃないがほかに何にもしたくないような地味な痛さだ。男はかくも痛みに無縁な生態なので、この程度の痛みで心が折られてしまうのである。。。

そんなこんなで痛みに耐えたり縫合部を見て鳥肌を立てたりして1週間が過ぎ、抜糸のためにクリニックを再訪。風呂に入る際もおっかなびっくりで傷跡にはほぼ触らなかったので、おかげさまで傷跡の経過は良好。抜糸自体はまさに一瞬だった。診察室のベッドにちょっと横になりチクッとした痛みがあったと思ったらもう糸は抜けていた。

手術結果

さて肝心の精子のパフォーマンスだが、以下のような変化となった。

 1回目採精(手術前):精子濃度0.01百万個/ml 数が少なすぎて運動率のデータなし

 2回目採精(手術後約1カ月):精子濃度0.90百万個/ml 運動率33%、正常形態率20%、直進率10%

 3回目採精(手術後約2カ月):精子濃度2.70百万個/ml 運動率44%、正常形態率40%、直進率30%

※WHOが定める基準値(自然妊娠が可能な水準)は、精子濃度15百万個/ml以上、運動率40%以上。

こうして振り返ると、自然妊娠ができるレベルには到底至っていないが、手術後の改善は我ながら目覚ましいものがある(特に3回目採精(手術後2カ月))。その後1年くらい検査をしていないが、今はどんなパフォーマンスなんだろう。今度検査に行ってみよう。

こうして無事、精索静脈瘤という壁を乗り越えた我々は次のステージである顕微授精へと進むことになった。勿論、精索静脈瘤を手術で除去しても精子のパフォーマンスが改善せず、次のステージに進めない、という事例もあり、我々は本当にラッキーだった。

手術が終わってみて、男として男性不妊検査や治療に思うこと

多少ネタバレ感もあるが(詳細は別記事で)ラッキー続きで顕微授精も1回目の受精・肺移植がうまくいき、先日子供が生まれた。実は今もたまに政策静脈瘤の手術の傷跡がかゆかったり痛んだりということがあるが、そんなレベルの苦痛とひきかえに得られた幸せの大きさは計り知れない。もともと(ほぼ)タネナシだったのに子供がいるとは。現代医療技術に感謝してもしきれない。

この社会では、女性側に生殖能力の問題がないことが検査でわかっているのになぜか子供を望んでもできない、というカップルがたくさんいると聞く。男性側がなかなか精子の検査に行かない(女性側に頼まれるまで行かない、頼まれてもしぶったりする)という実態があるようだが、行けば何かしらわかるかもしれないのだ。もちろん何もわからないかもしれないが、少なくてもわかるように努力することで二人は一歩前に進めるはず。

どうせいつもオナニーで出している精子をちょっと採ってプロの方に見て頂く、問題があればキンタマを見てもらって触ってもらう。恥ずかしいといえば恥ずかしいが、これだけで妊活は前に進む可能性があり、それにかかる時間や苦痛は女性が負担するものとは比べ物にならない、ということが理解してもらえたら、と思う。

自然妊娠ですべてがうまくいってしまった場合、男は射精して10カ月だったらいつの間にか父親なのだ。そりゃあ父親の自覚も何もなくて当然だろう。

それに対して、男性不妊治療を経験すれば、何回かクリニックに通う面倒臭さ、精子やキンタマを見られる恥ずかしさ、(必要なら)手術の苦痛と、女性が妊娠・出産で味わう苦労のうちいくばくかでも抱えることができるのだ。そうして我が子がうまく産まれてくれれば感慨もひとしおではないだろうか。

うまくいかないケースもたくさんある。いやそっちの方が多いだろう(私の周囲にも)。でも、少なくても男性の皆様には、ぜひ積極的に精子検査にはいってほしい。そして、うまくいかないかもしれないけど、二人で妊活を前に進められるきっかけを作ってほしい。女性からは行ってきてよ、と言いづらいかもしれないのだ。


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