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同じ物を食べ続けていたら世界が少しだけ変わった話

わたしは昔から、気にいると同じ物を一定期間の間、ひたすら買って食べ続ける癖がある。

甘いもの、しょっぱいもの。
毎日買えるくらいの価格の、なんて事はないもの。
そしてそれは大抵は3ヶ月くらいは続く、その癖で思わぬ変化があったことがある。はじまりは私が小学生だった頃の事だ。

❶たっぷりももゼリー

小学生の頃。私は徒歩5分の場所にあるスーパーで、とあるものに出会ってしまう。

それは、『桃のゼリー』だ。
ゴロッと半分に切ったももが大きくふたつほど入っているそれ。口いっぱいに頬張るもものジューシーさ、つるんとのどごしの良いゼリー。
丁度勉強を随分と頑張っていた時期に出会ったそいつを、私は大体3〜4ヶ月、週に3回ほど食べていた。
それらは決まって勉強をしていた時の夜食に出てきていたからだ。

夜食に何がいいか聞かれた私は、毎回「ももゼリー」と答えていた。

ある日学校の帰りにスーパーに寄り道をして、そのゼリーを買おうとすると、なんと、ももゼリーだけ他のゼリーより幅広く展開されているではないか。
以前はそんな事なかったのにいったいどうして。
私はしばらく、ももゼリー売り場付近をうろうろしてみた。

みかん:ミックス:もも=1:1:2
くらいの割合で売り場を占めているももゼリー、
なぜそんなことになったのだろう。

そこへお母さんと小さな娘さんが仲良く手を繋いできた。
「あ、このももゼリーいる?」
「うん!」
「これ、いつも人気で少なかったのに、増えてるねぇ。在庫増やしたのかな?」
あ、そういうことなの?私が買いすぎたせい?
はたまた近所の誰かも私と同じくこのももゼリーが好きな人が居るのかもしれない。
小学生だった私は、はじめて私の好きが世界を少し変えてしまったような気がした。
小学生を卒業する頃には、ぱったりと食べなくなってしまったのだが、なんだかあのたっぷりももが入ったゼリーを無性に食べたくなってきた。

食べ物-02

❷108円のコンビニメロンパン

中学生の時、私は帰り道にコンビニのある町に引っ越した。そう、そこで出会ってしまったもの、それが『メロンパン』だ。
たかがメロンパン、されどメロンパン。
私は毎週木曜日、帰りに何も無く、早く帰れるその日に、毎週そのコンビニでメロンパンを買っていた。
いつもメロンパン。毎週メロンパン。

すこしべたっとしたクッキー生地と、ふんわりとしたパンは、頬張ると口の中がからからになる。
学校に持っていっていた水筒の最後のお茶で、それらを流し込みながら、家に帰るのが木曜のルーティンになっていた。

大体半年くらい、食べない週もあったけど、わたしはメロンパンをひたすら食べ続けた。

しかしそんなある日、私はふと「メロンパン以外も買ってみよう」という気分になった。何故だかは覚えていないが、半年食べ続けたメロンパンのすぐ隣にある「あんぱん」に手を伸ばしていた。
レジに向かうと、いつも同じ時間にいるバイトの女の人。見覚えのある店員のバッジの名前を眺めながら、レジでピッと会計を済ませる。

お金を渡そうとした時、不意にその店員から声をかけられた。
「今日はメロンパンじゃないんですか?」
不意を突かれた私は思わず店員を凝視して
「えっ、あ、はい」
としどろもどろに答えていた。
「あ、すみません。わたしもメロンパン好きなので、今日は違うんだなーって思って」
「今日はなんか、あんぱんが食べたくなって」
「ありますよね、そんな日も」
しばらくお客さんのいない店内で世間話をして、わたしは店を後にした。

わたしより年上の大学生くらいの人となんとなく顔見知りになった私は、次の週はメロンパンをまた買った。
「あ、今日は」
「メロンパンにしました」
しばらくはなんとなく顔見知りになったその人と、店で会うと軽い世間話をしてみたりもした。

ある日その人が
「わたし来週バイト辞めるんです」
という話をしてきた。
「あれ、そうなんですね」
「はい、実はわたしの初日のバイトであなたが初めてひとりでレジをしたお客さんで、なんだか気になって思わず話しかけてしまいました」
そうだったのかとすこしびっくりしながらも
「お元気で」
と笑って答えた。
翌週その人は居なくなっていた。

食べ物-03

❸3色だんご

大学生になり、わたしはアルバイトを始めた。
アルバイト中の休憩時間はおよそ1時間。
その間は、店内の隅にある休憩室で好きなように過ごすことができた。なんとなく食欲も湧かず、私は毎回、近くのスーパーに売っている3色だんごを食べていた。
たしかバイト2年目の間は、ほぼ晩ごはんは3色だんごだったような気もしてくる。

ピンク、緑、白のその団子は串で三兄弟にまとめられている。ほんのりと甘く、中には何も入っておらずシンプルなものだった。

その日もいつものように3色団子を買おうとすると、なんとだんごが売り切れている。
すこし残念に思いながらおにぎりを買うと休憩室に2人先輩が入ってきた。
「あれ、今日はだんごじゃないの?」
「あ、はい。売ってなくて」
そんな軽い会話をしてから、入れ替わりで休憩から店内へ出た。

仕事が一通り終わり、帰り支度をしようとすると、その日同じシフトだった先輩から何故か、あのだんごを渡される。
ぽかんとしていると、残りの3人もまさかの私に同じだんごを渡してきた。
しかも誰も示し合わせていなかったらしく、各々が晩ごはんの買い出しに行った時に、ついでに買ってきてくれたらしい。

合計4つのだんごをかかえた私を見て、先輩たちは大笑いしていた。
結局その日の帰り、ひとり一本帰りながら食べることになったのだが、「ふつうだった」「まあまぁすき」「なんでこれ?」とみな私が毎日食べているのが不思議だったのか、各々の感想をLINEにくれた。
「なんでこれ?なんでだっけ?」
翌週もまた翌週も、なぜだか食べ続け、時たま先輩が奢ってくれ、バイトを辞める残りの1年間、わたしはその3色だんごを食べ続けたのだった。

食べ物-04

❹ぶどうグミ

わたしはグミが好きだ。
誕生日に何が欲しいかと言われて、グミ!と答えたこともあるくらい、グミが好きだった。今ももちろん好きだが、以前よりも少し落ち着いてきた。
特に好きだったのが、ぶどうの形をしたよくある果汁グミだ。
噛むとぐにゃりとした食感、こどもの頃に飲んだようなぶどうジュースの味がするそれ。
社会人になった1年目、わたしは特にそれを食べ続けていた。
休み時間、帰り道、ほぼ毎日のように慌ただしく過ごす新人のあの時間を共にしたものが、ぶどうグミだ。
帰ってくるとヘトヘトで、時にはどうしようもなく哀しくなるようなことがたくさんあった一年だったような気がする。なんというか余裕というものが欠けていたのかもしれない。

冬休みに入る直前くらいだろうか、
いつものようにぶどうグミを買って口に入れると、なぜだか美味しく感じない。なんだこれ?!と驚きながらパッケージを見ると、いつものグミ。

ある日突然そのグミが食べれなくなったのだ。
今までなんだか飽きることはあっても、食べれなくなることはなかったので、少し驚いたが、今思うとその時期、徹夜をして仕事したり休日出勤をしたり、色々な負荷がかかっていたのがひとつ原因なのかもと思う。

それから暫く、わたしは大好きだったグミを食べるのをやめた。
それから何ヶ月か過ぎたある日、わたしはまたふとあのグミを食べて見ることにした。やっぱりグミはおいしかった。
あの頃の出来事は、自分からのSOSだったのか、食べ過ぎで飽きたのかはわからないけど、今わたしはグミが好きだ。

食べ物-05

❺ジャムマーガリンコッペパン

社会人になり暫く経つと、わたしは昼ごはんに何を食べるかを考えるのが段々とおざなりになってきていた。
時にはお茶だけでいいかなんて思ってしまう日もあるほどで、
なんだか食欲が湧かないのだ。自分のデスクで、パソコンと向き合いながら食べる昼ごはんに味気なさを感じていた。

そんなある日の朝、会社までの道にあるコンビニで、何かお昼に簡単に食べれる物を買おうと思い立ったわたしは、ジャムマーガリンコッペパンを手にしていた。

慌ただしい午前中が終わり、お昼になっても食欲が湧かないわたしは、
そういえば朝買ったコッペパンの存在を思い出した。
「食べないとなんだか勿体無いなぁ」
なんて思いながら口にしたそれは、なんだか懐かしいような、少し物足りないような味がした。うん、少しでも何か食べよう。

朝いつも同じ時間の電車に乗って、同じ時間に乗り換える。
満員電車でヘトヘトになりながら、最寄りについてコッペパンを掴んでレジに行って出社。これが段々とルーティンになっていた。

それからしばらくして、
何にも口にしていなかったお昼は数が減っていった。
なんとなく、食べることに意識を向けてくれたものがジャムマーガリンコッペパンだった。あとやっぱり、大好きな人たちと食べるご飯はすごく美味しいということも気づかせてくれた。

食べ物-06

食べるという習慣

わたしは同じものを食べ続ける癖がある。マイブームみたいなものだ。
周りの人に聞くと案外そういう人は多いみたいだと、最近気がついた。
わたしだけだと思っていたのでこれも発見だ。

食べるというものごとに、ものすごく強いこだわりがあるわけではないけれど、なんとなく続けてしまうものはいわゆる習慣のひとつになりうるものなのかもしれない。

そういえば小学生低学年の頃、よくばっかり食べをして怒られたなぁなんてことも思い出した。そんな時からこの癖があったのか。
幼い頃の癖って案外抜けないものなんだなぁ。

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