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証券検査の流れ:弁護士が解説

1.はじめに

こんにちは弁護士のスガオです。

今回は、証券検査(オンサイト・モニタリング)の大まかな流れについて説明したいと思います。

なお、私自身の経歴について簡単に触れておきますと、私は弁護士資格を持つ任期付き公務員として、財務省関東財務局の証券取引等監視官部門で証券検査官を務めていました。



2.証券モニタリングに関する基本方針について

これから話する証券検査(オンサイト・モニタリング)の大まかな流れは、証券取引等監視委員会が公表している資料である「証券モニタリングに関する基本方針」の内容に沿ってお話します。

こちらの資料は、証券モニタリングの過程において、委員会及び財務局等(財務局、財務支局及び沖縄総合事務局をいいいます。)が実施する検査に係る基本的な手続を示したものとなります。

なお、「証券モニタリング」とは、オンサイトとオフサイトのモニタリング双方を包含しており、このうち、「オンサイト・モニタリング」とは、オンサイトによる検査を示し、「オフサイト・モニタリング」とは、オンサイトによる検査以外で、金融商品取引業者等に対する報告徴取及びヒアリング等を通じた情報収集等を幅広く行う活動であり、主として監督部局と連携して行う活動を示すものであるとされています。

すなわち、「オンサイト・モニタリング」がいわゆる証券検査のことを示します。

証券モニタリングに関する基本方針では、参考資料として「検査のイメージ図」も公表しておりますので、そちらも参照いただけるとより分かりやすいかと思います。

委員会:「Ⅶ 参考 1.検査のイメージ図」


3.検査先の選定方法

委員会作成の「令和4(2022)年度 証券取引等監視委員会の活動状況」によりますと、証券モニタリグの対象業者数は延べ約8,200とのことです。

他方、着手ベースでの検査の実施件数は、この数年間の実績として、年間40件~60件程度となります。

数ある対象業者の中からどのように検査先を選定しているのかについては、モニタリングにおけるリスクアセスメントの結果等を総合的に勘案した上で、リスクベースでその対象先を選定するとされています。

要はオフサイト・モニタリングをしてみてリスクが高そうなところ(課題がありそうなところ)を検査先として選定しているということになります。


4.検査の実施方法

検査の実施方法としては、原則として、臨店検査により行うものとされています。

「臨店検査」とは、検査対象先の本店、支店又はその他の営業所等を 訪問して、モニタリングで把握した課題について、帳簿書類その他の物件を検査する方法となります。

すなわち、委員会又は財務局等に所属する証券検査官が、主任検査官をリーダーとする何名かのチームで、実際に検査対象先のオフィスを実際に訪問するやり方が検査の原則的な実施方法となります。


5.臨店検査の着手

⑴ 検査予告の有無

臨店検査には、検査の着手に先立って検査対象先に検査を行うことを予告する「予告検査」と、予告をすることなく検査に着手する「無予告検査」とがあります。

原則として無予告検査とし、検査対象先の業務の特性、検査の重点事項、検査の効率性、検査対象先の受検負担の軽減等を総合的に勘案し、必要に応じて、予告検査とするとされています。

予告検査の場合、検査予告は臨店検査着手日のおおむね1週間~2週間前に行われます。

⑵ 臨店検査時の説明事項

臨店検査着手時に主任検査官から検査対象先の責任者に対して、以下の事項の説明が行われます。

特に④と⑤が重要となりますので、④と⑤の内容については個別に説明します。

① 検査の権限及び目的(検査の実効性の確保に支障が生じない範囲で、検査の重点分野にも言及する。)

②  検査への協力依頼(検査を受けて(予告検査の場合は、検査予告後)、書類や電子メールの破棄等が認められた場合には、検査忌避行為として厳格に対処する旨も併せて伝達する。)

③  検査のプロセス(初回検査先以外は省略可。)

④  検査関係情報の第三者への開示制限の概要

⑤  意見申出制度の概要

⑥  検査モニターの概要

⑦  必要な提出資料の提示

⑧  その他必要な事項

⑶ 検査関係情報の第三者への開示制限の概要

検査対象先は、臨店検査着手時(予告検査の場合は、予告後速やかに)に、主任検査官から、「検査関係情報」を主任検査官(又は委員会検査の場合は証券検査課長、財務局検査の場合は証券取引等監視官)の事前の承諾なく開示してはならない旨の説明をうけるとともに、開示しないことの承諾書に記名するよう求められます。

検査関係情報は、「検査を受けている事実、検査中の検査官からの質問、指摘、要請その他検査官と検査対象先の役職員等の」以下の内容であると定義されていますので、検査対象先としては、検査を受けている事実も第三者に開示してはいけないこといなります。

もっとも、検査対象先が、第三者への開示の申出を書面で申請(「開示承諾申請」)することにより、承諾の可否についての回答が書面でなされることになっています。

したがって、検査対象先が外部弁護士等に検査の対応について相談しようとする場合は、検査対象先としては、開示承諾申請をすることになります。

6.臨店検査中

⑴ 事実の解明・認定のための手段

「検査官は、臨店検査期間中、事実の解明又は認定に努める」とされておりますが、検査官による事実の解明・認定のための手段としては主に以下のものがあります。

① 資料の提出を求める

検査対象先は臨店当初に議事録、法定帳簿等の一式の資料の提出を求められることになります。

臨店当初に提出を求められる資料として標準的なものについては、「Ⅵ 参考 2.提出資料一覧」において各業態別に例示されています。

https://www.fsa.go.jp/sesc/kensa/sisin/sankou_2.pdf


② 現物検査

現物検査とは、検査官が検査対象先の役職員が現に行っている事務室、資料保管場所等に直接赴き、原資料等を適宜抽出・閲覧する検査手法となります。

無予告検査の場合は原則として直ちに、予告検査の場合には必要に応じて現物調査が行われることになります。

③ 役職員に対するヒアリング

検査先の役職員は、提出資料や事実関係の確認のために検査官から様々な事項についてヒアリングを求められることがあります。

内部管理やリスク管理に対する経営陣の認識などについては、臨店検査の初日のタイミングなど可能な限り速やかにヒアリング(意見交換)がなされます。

検査が進み、問題となり得る個別の事象が見つかった場合には、当該個別の問題点に関するヒアリングがなされます。

なお、役職員のヒアリングの際に、検査対象先から他の役職員の同席を依頼された場合は、臨店検査に支障が生じない範囲内で認めるものとするとされています。

④ 顧客に対する反面調査

反面調査とは、検査対象先の顧客等に当該顧客等と検査対象先との取引状況等を確認することをいいます。

反面調査については、委員会検査委においては「証券検査指導官と協議の上、証券検査課長へ報告」(財務局検査の場合には、「財務局等の定めるところにより、証券取引等監視官へ協議ないし報告」)して、支持を受けて行うものとされています。

このような慎重な手続がとられるのは、顧客などを対象とするため検査対象先のレピュテーションに影響するためであると思われます。

⑤ 質問票

質問票は、事実関係について検査対象先の担当者等に書面での回答を求めるために(担当)検査官が作成する書面であり、その様式は公表されています。

委員会:質問票

検査対象先としては、質問票の左側の「質問事項」の欄に記載された質問に対する回答を、質問票の右側の「質問事項に対する回答」に記載したうえで、期限までに提出するよう求められます。

質問表が作成されるタイミグとしては、整理表を作成する前段階として、事実関係を確認するために作成されることが多いように思いますので、質問票は整理表と同様に重要な書面となります。

⑥ 整理表

整理表も検査官による事実の解明・認定のための手段の1つとなりますが、非常に重要な書面となりますので、別途、説明します。

⑵ 整理表

整理表は、検査官が問題点として指摘する可能性のある事実関係及び当該事実関係に対する検査対象先の認識を確認するために主任検査官が作成する書面であり、その様式は公表されています。

委員会:整理表

検査官としては、「問題点を把握したときは、その根本原因・・・の究明に努めなければならない」とされていることから、整理表の左側(事実関係)には、問題点(典型的には、法令違反行為)となる事実関係や、問題点についての検査対象先の経営陣の認識のみならず、当該問題点についての発生原因についても記載される場合があります。

検査対象先としては、整理表の左側について記載された事実関係についての認識を、整理表の右側(事実関係に対する認識)に記載したうえで、期限までに提出するよう求められます。

前述のように整理表には検査官が問題点として指摘する可能性がある事実関係がその左側に記載されることから、整理表の左側に記載された事実関係に基づいて勧告がなされる可能性があります(もっとも、整理表で何かしらの事実関係等を指摘をされたからといって、必ず勧告になるとは限りません)。

いずれにせよ、検査対象先としては、整理表やその前段階として作成される質問票に対しては、その内容をよく読んだうえで、事実関係に間違いがないか慎重に確認した上で回答する必要があるものと考えます。

7.臨店検査終了後

⑴ 臨店検査の終了

検査対象先の役職員へのヒアリングが終わり、検査対象先から整理表の提出を受けるなどして、モニタリングで把握した課題等についての検証が終了したタイミングで臨店終了となります。

臨店終了時には、主任検査官と検査対象先の経営陣との間で意見交換が行われ、臨店期間中に議論してきた事実関係に係る認識についての最終的な確認が行われます。

⑵ 講評

講評とは、主任検査官が検査対象先の責任者に対して、①検査で認められた法令等違反行為等及び留意すべき事項(問題が認められない場合にはその旨)を伝達したり、②法令等違反行為等について、検査対象先と認識が相違した事項(以下「意見相違事項」といいます。)を確認するプロセスのことをいいます。

講評時においても意見申出制度の説明がなされます。

なお、講評が行われるまでに、➊主任検査官による検査結果のとりまとめ、➋そこで抽出された問題点等について委員会(証券取引等監視委員会事務局内)や財務局等(財務局等の証券取引等監視官部門)での検討がなされ、さらに必要に応じて➌勧告書(案)も作成されるとされていますので、

講評の段階で、委員会が勧告しようとしているのかが分かります。

⑶ 意見申出制度

上記のとおり、意見相違事項(法令等違反行為等について検査対象先と主任検査官との認識が相違した事項)がある場合には講評において主任検査官と検査対象先の責任者との間で確認がなされます。

検査対象先としては、そのような意見相違事項についての事実関係や意見について書面(意見申出書)にて、証券取引等監視委員会事務局あてに提出することができます。

委員会では意見申出事項についての審理が行われ、審理結果については、検査終了通知書に反映されることになります。

このような意見相違事項についての事実関係などについて書面により提出できる制度のこと意見申出制度といいます。

意見申出制度について留意しておくべき事項を2つ紹介します。

まず1つ目として、意見申出は、原則として、検査で認められた法令等違反行為等の事実関係に関する意見相違事項に限られ、それ以外の申出内容(法令解釈、新たな論点、新たな主張等)は対象外とされています。

新たな主張等は対象外とされているため、検査対象先としては、検査官と十分に議論したうえで、主張については、整理表等において出し尽くすべきであると考えます。

2つ目としては、意見申出書の提出期間は、講評が終わった日から3日間(講評が終わった日の翌日から起算し、行政機関の休日を除く)しかありませんので注意が必要です。

⑷ 検査終了通知の交付

検査対象先への検査終了通知書の交付をもって、検査は終了となります。

検査で法令等違反行為等が認められた場合には、その内容が「通知文」に記載されることになります。

検査終了通知書の交付は、臨店検査終了後、3か月以内を目途に行うよう努めるとされています。

⑸ 検査結果の公表

勧告に至った事案については、検査終了後、速やかに証券取引等監視委員会のウェブサイトにおいて講評されます。その際、原則として、検査対象先の名称又は商号等が公表されます。

勧告に至らない事案については、必要と認められる場合に、適宜、公表されます。その際、原則として、検査対象先の名称又は商号等の公表は控えれれます。

例えば、毎事務年度ごとに公表される証券モニタリング概要・事例集においては、「検査の結果、勧告を行った事例及び指摘を行った主な事例の概要」が記載されておりますが、後者については検査対象先の名称又は商号等は記載されておりません。

8.さいごに

以上、証券検査の大まかな流れについて説明しました。

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