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レッドブルつばさ ~縁に導かれた芸~

合縁奇縁。

数千組の芸人がひしめき合う群雄割拠の時代。自分の好みの芸を、芸人を探すのは容易な事じゃない。アテも何も無く、ただ勘だけを頼りに、自分の好きな芸を地道に探してゆく方法もあれば、誰かがオススメしていたり、様々な媒体から「今この芸人が面白い」といった情報を仕入れて、それを頼りにする方法もあったり、芸人の数が増えるほどに、その芸に巡り会うプロセスは多様化を極める。

自分のお笑い好き人生を振り返ってみると、己の勘を頼りにする方法をとる事が殆どだった。必ずしもすぐに見つかるとは限らない、先の見えないハラハラ感。自分の力で好きな芸、芸人に巡り会えた時の、あの得も言われぬ充実感。これらを味わう瞬間が好きだったが、ここに辿り着くための労力と時間の消費は並大抵じゃない。年齢や人生経験による体力気力、考え方の変化か、最近はもっぱら第三者である有識者の情報を仕入れる方法を全面に採用するようになった。

面白い人が勧める芸は、もれなく面白い。

おかげで、停滞していた新しい芸の開拓は、ここ最近でまた大きく広がり始めた。そんな変化の中で巡り会える事ができた、とある芸人について書いてみたくなった。

レッドブルつばさ

どこの事務所にも所属していない、フリーのピン芸人。ツイッターでのTLや、R‐1グランプリでの結果速報などで、その特徴的な芸名を目にする事はあったので、存在は知っていたが、どんな芸をするかについては、一切無縁だった。

皐月彩さんという脚本家がいる。存在を知るきっかけになったのは、特撮作品『ウルトラマンウルトラマンR/B(ルーブ)』。そして、同シリーズ『ウルトラマンタイガ』にて脚本を担当していた回が、自分の中でとても印象に残っていて、そこから次第に彼女の仕事を追いかけるようになった。ある日、ふと「そういえば皐月さんってTwitterやってんのかな」と何気なく検索をかけてみると、すぐにヒット。何件かツイートを見て、「この人の感性、面白いなー」と思い、そのままフォローをした。彼女がお笑いライブに頻繁に通うほどの熱烈なお笑いファンだったというのは、「嬉しい偶然」だった。

Twitterのタイムラインを何気なく眺めていると、とある動画のリンクを貼った皐月さんのツイートが不定期で流れてくる事があった。それがレッドブルつばさのネタ動画だった。「皐月さんコアな芸人知ってんなーw そういやこの人、名前は聞いた事あったけど、ネタって見たこと無いかも」と、軽い気持ちで動画を見た。そのネタの感覚と技量に、大げさであまり好みの表現ではないのだが「度肝を抜かれた」。こう表現するしかないくらいの衝撃を受けた。

彼の描く人物に、悪人はいない。「明日好きな人が結婚する」での好きなアイドルの結婚に半狂乱になりながら、友人にその思いをぶちまけるファン、「歌舞伎町にて」での希望を抱いて東京へ出てきた青年、「子供の名前」でのもうじき生まれてくる子供のために名前を考える父親など、描かれているのはどこにでもいそうな市井の人達。どの人物も純粋で、不器用にそれぞれの日常を真っ直ぐに生きている。

そんな人物達の日常が彼のフィルターを通すと、その生き様が虹色に輝きだす。

彼のコントで魅力的に感じるのは、描く登場人物が皆「正直に生きている」という所だ。登場人物達が自身の考え、嗜好、感性、葛藤、さらに掘り下げると性癖まで、普通ならひた隠しにする「恥部」になってしまっているような事も、嬉々とさらけ出している。その内容がどんなに客に引かれても、どんなに狂気を孕んでいても、そこには嘘も偽りも無い。まさしく「ありのまま」。レッドブルつばさはそれを自信満々に、そしてどこか嬉しそうに演じている。その様がとにかく清々しくて、ある種の可愛げさえも感じさせる。

こう書くだけだと、アクの強いコント師と思われるかもしれない。しかし彼には、ただでさえ高水準の演技力とキャラクター作成能力の上に、さらに「脚本力」が上乗せされる。この脚本力がとんでもない。

それを体感したのが、先述した「明日好きな人が結婚する」というコント。好きなアイドルの結婚に半狂乱になりながら、その思いをぶちまけるファンの様がエキセントリックに、エネルギッシュに描かれる。時間にして3分44秒。キャラの強烈さと秀逸なワードセンスが終始楽しいのだが、ラスト30秒の展開で、このコント全体の印象が一瞬で色を変えた。初めて見終えた時に、自然と漏れた感嘆の溜息は未だに忘れられない。

そこから、すぐに彼のYouTubeチャンネルを登録し、上がっているコントを片っ端から見た。「明日好きな人が結婚する」「この世で一番切ない告白」「好き好き大好き超愛してる」「握手会」「俺の推し」「兄弟よ永遠なれ」で彼の脚本力の凄さに打ちのめされ、「SDA」「お姉ちゃん大作戦」「子供の名前」「百合男子」などで彼の描くクレイジーな登場人物達の縦横無尽な暴れっぷりに翻弄された。

今年の7月。彼の単独ライブの報せが舞い込んできた。YouTubeチャンネルに上がっているコントを殆ど見尽くして、「単独ライブを見てみたい」欲に駆られていた自分にとって、渡りに船の報せだった。しかし、コロナ渦、スケジュールなど事情が複合的に重なり、現地には赴けず、ライブに行った人達がTwitterに上げる感想を読んで妄想にふける時間を過ごしていた。皐月さんもライブの感想を上げていたので、何気なくリプを送ったところ、わざわざツイキャスでアーカイブ配信がある旨と購入ページURLを教えてくれた。配信の存在を知らなかったので、まさに青天の霹靂。コロナ渦で「ライブ配信」という手法が一気に流通した昨今。アナログをこじらせている自分には無縁の手法だと思っていたが、その芸を見たいという一点の思いで、慣れないPC作業を手探りで行い、どうにか決済まで持ち込んだ。自分のライブ配信バージンは、レッドブルつばさに捧げたのである。

今回、この文章を書くにあたって、自分の中で葛藤があった。彼は都内のライブを中心に活動する芸人である。故に、彼の生の芸を見るためには、おのずと東京へ行かなければならない。当然YouTubeに上がっているネタなぞは、氷山の一角にすぎないだろう。彼の芸に詳しく、彼のパーソナリティに精通する人は五万といる。地方住みの自分の知識は、YouTubeチャンネルに上げられているネタとツイキャスで単独ライブを1度見た程度。にわかもいい所である。そんな自分が彼について書いていいのだろうか。「noteなんぞ自己満足」と思う自分もいれば、「自分なんかが、あんな才能のある人について書くなんておこがましいのではないか」と思う自分もいる。色んな事を考えに考えたが、「少しでもレッドブルつばさという芸人の魅力を、存在を知ってもらいたい。そして、こんな素晴らしい芸人を教えてくれた皐月さんへ感謝の気持ちを形を示したい」。下手でいいから、この気持ちに正直に従おう、と自分の中で納得し、書き上げる事を決めた。

改めて、皐月さんにはこの場を借りて、縁を繋げてくれた事に感謝の意を示したい。まぁ、こんな拙い記事なんぞ読んではいないだろうが。

そして、この文章を読んで少しでもレッドブルつばさという芸人に興味を持ってくれた方は、是非ともYouTubeチャンネルで彼のコントを見る事をオススメする。まず手始めに「明日好きな人が結婚する」を見てもらい、その脚本力を自身の目で確かめていただきたい。そこから「この芸、面白いかも」と思ったら、その勢いのまま「SDA」やら「お姉ちゃん大作戦」やらを見て、彼の狂気に打ちのめされて欲しい。

レッドブルつばさYouTubeチャンネル「レッドブルつばさの映像たち」

https://www.youtube.com/channel/UC0MpJCyyBCtTAqfB9bAxuHQ

哀愁と清々しさと愛おしさと狂気と驚愕が交錯する唯一無二の世界観。きっと、あなたの興味に「つばさ」を授けてくれるに違いない。








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