懐かしきショートコント師

「ショートコント」を、久しく見ていない。

色んな番組で、芸人が自己紹介がてらのお茶を濁すかのようなショートコントはたまに見かける事はあるが、ショートコント師が熱量全開で勝負するショートコントを見なくなった。そもそも、ショートコントをメインにしている芸人を見かけなくなった。いや、本当に見かけなくなった。

ショートコントという演芸のフォーマットが生まれて、40年が経つか、経たないか。ジャドーズ(後に、ダンス☆マンとして独自の音楽活動を展開する藤沢秀樹が所属するグループ)やパート2(かつて松竹に所属していたコンビ。「4コマ漫才」という独自の芸風を確立)を源流とし、ウッチャンナンチャンでその形が完全に固まって以降、キラ星の如く様々なショートコント師が登場してきた。自分がお笑いを本格的に好きになった時期とタイミングが重なり、次々に個性的なショートコント師が登場し、独自の存在感を放っていた。その影響でショートコント好きになった身としては、今の状況はあまりにも寂しい。

現役から解散組まで、色々なショートコント師を思い出せる限り、書き記して、自分勝手にノスタルジーの湯船にどっぷり浸かってみようと思う。


【江戸むらさき】

「ショートコントと聞いて、いの一番にどの芸人を思い浮かべる?」とお笑いファンに質問したら、ほぼ間違いなくトップに上がるコンビに違いない。まさしく「ショートコント師」の名に相応しいコンビ。ショートコントと言えば江戸むらさき。江戸むらさきと言えばショートコント。

余計なブリッジは入れない、純粋にギャグの力で勝負する正統派。オーソドックスな掛け合い物から、一発ギャグやキラーフレーズ(「スーパーボール!」とか「ヨーヨー!」)の天丼といったケレン味のあるネタまで、その圧倒的な手数の多さと速射砲のようなスピード感に、笑いながら「このコンビどんだけネタあんだよ」とひたすら圧倒された。ネタはDVDになったり、書籍にもなったり、全盛時は全国各地の学園祭を跋扈し「学園祭キング」としてテレビの特集にも取り上げられていたように記憶している。

【アンガールズ】

説明不要の「ジャンガジャンガ」。オチの無い気まずい瞬間を演じ、間髪入れずにあの「ジャンガジャンガ」というブリッジで強制的にオチる無理矢理さと力の抜けきった緩さのミスマッチが斬新だった。初めて見たのは、確か「アッコにおまかせ」で開かれた若手芸人から新レギュラーを選出するオーディション企画(この企画で、ハレルヤ、5番6番、マイケル、安田大サーカスの存在を知った)。今と変わらないショートコントを演じていたが、その時はスタジオの空気を含め、そこまでハマる事はなかった。本格的な爆発は、やはり「爆笑問題のバク天」での1コーナー「恐怖のバク天芸人」。番組の空気とスタイルがマッチしたのだろう。どんなショートコントをやっても、安定した爆笑をかっさらっていた。そこからの飛躍ぶりは承知の通り。すっかり舞台を大切にする良質なコント師へと変貌を遂げたが、今の2人がやる「ジャンガジャンガ」も見てみたい。

【パペットマペット】

そもそものキャラの奇抜さにどうしても目が行くが、ここもなんだかんだ言いながら立派な「ショートコント師」だ。うしくんとかえるくんの可愛い見た目とは裏腹の、ブラックなショートコントは、ここならではでしか味わえないポップなヒリヒリ感があって楽しかった。ブラックでポップなギャグセンスも好きだが、ここは「間」の使い方が抜群。二人(二匹)とも表情や息遣いが全く読めないからこその、あの独特な「間」が世界観にさらに奥行きを与えていたように思う。

【イシバシハザマ】

2004~06年の間、自分の中で「ショートコント」と言えば、間違いなくこのコンビだった。初めて存在を知ったのは2004年のM-1グランプリ。実力派が群雄割拠する中、ショートコントで準決勝まで残り、その独特の存在感に目を惹かれた。そこから徐々に全国区の様々なネタ番組に登場するようになる。今までショートコントと言えば、1つの決まったスタイルの中でコントを展開するのに対して、このコンビはショートコントの形式そのものを何パターンも作り変えて、その中で様々なネタを展開していくという斬新なスタイルだった。

多種多様なブリッジが特徴的な「六分咲き劇場」、ブリッジの小気味よさが印象深く、2005年のM-1でも披露した「シャバダバ劇場」、コントをやり、そのオチをリズムに乗せて展開する「まさかでショートコント」。色んな形式を次々と発表してきたが、何と言っても衝撃的だったのが「おかしな話」。「ハイ、チャーチャーチャチャチャチャー チャカチャチャチャ」とスピード感のあるブリッジが始まったかと思うと、そのままコントが始まり、不可思議な空気で終わったかと思うと、決めポーズと共に「実はこういうコントをやっていました」という事をワンフレーズで発表し、それがオチになっているのだ。うーん、初めて言語化してみたが、説明が実に難しい… 興味ある人はYouTubeを漁るがヨロシ。とにかくショートコント好きな身としては、このネタを初めて見た時(確か「笑いの金メダル」の1コーナー「ワンミニッツショー」だった気がする)のカルチャーショックは未だによく覚えている。

【さくらんぼブービー】

このグループ名聞いただけで、涙ちょちょぎれる良識あるお笑いファンは多いんじゃないだろうか。そのえげつないナンセンスが嵐のように吹き荒れるショートコントに、中学生当時の自分は心を鷲掴みにされた。初めて見たのは、忘れもしない「笑いの金メダル」。高確率で登場人物が死ぬわ、予想が全くつかない方向からギャグが飛んでくるわ、ただの奇声をブリッジに使うわ、まるで少年誌に載ってるノンストップギャグ漫画をそのまま実写化したかのようなナンセンスすぎるショートコントの数々に、茶の間で呼吸困難になるくらい爆笑した。お決まりは、何と言っても「鍛治君じゃな~い?」。このオチが来るって分かっていても、笑ってしまう。

【360°モンキーズ】

とんねるずの「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で、「ヴェーヴェー」言いながらマニアックな助っ人外国人選手のモノマネをするハゲの芸人と言えば、覚えている人も多いはず。その芸人が所属するのが、このコンビ。

ハッキリ言ってしまえば、下手なコンビだった。ボケもツッコミもくどくて、わざとらしいというか。1つの件を見れば、「もう充分」と思うほど。そういった意味では、コンパクトに件を切り替え続けるショートコントという見せ方は彼らにピッタリだったのかもしれない。

新しかったのが、ショートコントの合間にマニアックなモノマネを挟む所。人物から、マンガ、ゲームまで、重箱の隅のつつき方にセンスがあった。「野球拳をしているときの松村邦洋のダンス」「ファミコンのエキサイトバイクでコンピューターに抜かれる時の音」「スーパーマリオのジャンプする音」「まんが日本昔ばなしで長者の家へ米俵を担いでいく時の音楽」「京浜東北線の車掌をする東幹久」など、未だに強烈に記憶に残っている。

【モジモジハンター】

さくらんぼブービーが陽のナンセンスなら、モジモジハンターは陰なナンセンス。無表情、ローテンションで淡々とショートコントを展開していくシュールな様が、お笑いグルメには堪らない。突然声を張り上げたり、容赦ない蹴りが入ってきたり、冷めてるんだか攻撃的なんだかよく分からない感じが好きだった。

【コンマニセンチ】

「全曲兄弟の全力ショートコント」を銘打った、文字通りハイテンションを前面に押し出しまくったショートコント。ブリッジの度に、「テーテテテー!」と「志村けんのだいじょうぶだぁ」で聞くオチBGMを口ずさんでパイプ椅子からズッコケる。最終的には4脚並べたパイプ椅子に座っている相方に向かってダイビングする始末。正直、コントの面白さよりブリッジのアホらしさと衝撃度の方がデカかった。

【ザ・たっち】

ものまねや1発ギャグのイメージが圧倒的に強いが、双子をフルに活かしまくった、ならではのショートコントが特徴的。窓を拭く仕草をしながらの「キュッキュキュッキュ」というブリッジが懐かしい。十八番の合間にたまーに挟まる、ちゃんとしたショートコントも実は結構面白かったりする。昔見た「甲子園」というショートコントが、程良くくだらなくて面白かった。

【有刺鉄線】

「爆笑オンエアバトル」で2度勝利。その後1度落ちて、そのままフェードアウトするように解散。しかし、その2回で披露した実験的なショートコントは強烈だった。ワンフレーズのオチの後、ブリッジでそのワンフレーズと逆のフレーズをユニゾンツッコミ的に言って、笑いをさらに畳み掛ける。新しさと貪欲さと悪ふざけが入り混じっていて、面白かった。「お父さんかい!」「お母さんですー!!」覚えているお笑いファンも、きっと多いはず。

【禅(現・ZEN)】

作務衣姿で「空想ショートコント」と称する、実際にはありえない設定のコントを体を張りまくって表現する。シンプルながら、アホらしさに説得力があった。「エンタの神様」でしか見た機会がなかったが、あのたまに見られるレア感も良かった。普段は「超新塾」として活動。左端にいるツッコミとヒゲ・メガネ・グラサンのボケのユニットと言えば、分かりやすいか。

【日刊ナンセンス】

今回書き記したグループで、唯一の関西勢。ここを覚えている人は、相当なお笑い通。自分も数えるくらいしかネタを見た事ないが、面白いショートコント師だった。初めて見たのは、「笑いの金メダル」での1コーナー「ワンミニッツショー」。ショートコントをやって、そのネタの受け具合でブリッジのフレーズが変わるというのが新鮮だった。他にも、1つのシチュエーションで、ひたすらボケを変えて展開する「NGショートコント」など、若手の粗さもありつつ、オリジナリティをしっかり確立していたコンビだった。その当時の関西の賞レースでも名を連ねていた実力派で、最終的にはショートコントながら、M-1グランプリ2006の準決勝にまで名を連ねた。


とにかく気の向くまま、思い出せる限りのショートコント師を挙げてみた。ネットや資料などは一切見ず、自分の見てきた記憶だけを頼りに書いたので、思い違いもあるはず。そこは平にご容赦を。それにしても、我ながらよくここまで見てきたもんだし、よく覚えているもんだ。芸に対する無駄な記憶力だけはあるのだ。

さて、これからこの数を更新するショートコント師は出てきてくれるのか、巡り会えるのだろうか。ファンとして、歴史までショートなのは勘弁して欲しいのだが。

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