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#18 幾千の愛の言葉より


わたしは60~90年代のロックバンドのおたくである。つまり、推している方達のほとんどが40代以上で、最年長は既に75歳を超えている。故に、「生きてるだけでありがたい」「死ななければそれでいい」という思いが他のジャンルよりも(こういうオタクの言い方したくないんだけど)先行してしまう。

「推しグループが解散してしまう」とか「推しが芸能界引退する」とかで嘆いてる人に、わたしは今まで「いいじゃん、別に死ぬわけじゃないんだから」と軽くあしらってしまっていた。比較的若い年齢の推しをもつ人達に勝手に先輩面してたんだろうな。実に愚かな態度だったと、悔い改める機会が先日あった。

ついにこのわたしにも「推しの引退」にはじめて立ち会う日が来てしまった。

わたしは去年夏から月1.2くらいのペースでストリップ劇場に通っている。新たに素晴らしい趣味ができた。現時点ではまだ都内の劇場しか行けていないが、回を重ねるごとに推しが増えていく。踊り子さんは一人一人みんな違ってみんな素晴らしく、いつもわたしは元気と癒しをもらっていた。
去年秋、就活で荒れまくっていた時期、面接終わりにスーツのままふらっと入った劇場でわたしは女神様をみた。


その劇場に入るのは3度目で、その踊り子さんを見るのは2回目だった。
黒髪ロングでキリッとしたお顔立ちなのに慈愛の笑みも哀愁を帯びた表情も思いのまま、どんな女性にも変身できるカリスマで、赤がとっても良く似合う人だと思った。わたしは赤が似合う黒髪美女にめっぽう弱い。
はじめて見た時から「この人だけ何か違う」とガッシリ心を鷲掴みされ運命を感じていたのだが、流石に当時はここまでハマってしまうなんて想像してなかった。

震える手で千円札を握りしめて(しっかり自分のお金で)、撮影タイムのあの列に並んだのも、この時が初めてだった。※実はこの前に劇場のお客の紳士に1.2枚ほど写真代奢ってもらっているため

先程まで麗しく悩ましく舞っていた女神様が、わたしの目の前に。写真は1枚500円。2枚お願いしますと言ったわたしの声は確実に小さく震えていたんだろうな。

「どうしたの?今日はスーツなの?」「就活中で…さっきまで2社面接して疲れちゃったんで、ふらっと来ちゃいました」「就活中なの!?みんな!応援してあげて〜!」

劇場の観客のおっちゃんたち巻き込んでしょぼくれたわたしを応援してくれて。
「じゃあ今日は、貴方がいい会社とご縁があるように、気合いの入るポーズしますね!」 

その一週間後、めでたく内定をもらって今もその会社で元気に働いている。幸運の女神様ってほんとにいたんだ。こんな近くに。しかもわたしみたいな奴と言葉まで交わしてくれる。ツーショットも2.3回撮ったが、やっぱり女神様と一緒に映るのは恐れ多かったなあ

それから彼女が都内の劇場に乗るときは基本的に足を運ぶようになった(月に一度が精一杯だったが)。踊り子さんというのは全国の劇場を飛び回っていらっしゃるので、広島とかに遠征もしたかった。
名前と顔を覚えてもらっても、いつまで経っても撮影タイムの時デジカメを握る手はガタガタ震えて。喋るのはけっこう得意な筈のわたしが全然言葉が出てこなくて。彼女の前に立つと自分が自分じゃないみたいである意味面白かった。

わたしと話してくれる度、いつもオシャレね、って服を褒めてくれるのが本当に嬉しくて。"いつも"って。推しに認知されたくないオタクだけど、いつも見てもらえてたの、うれしかったなあ
貴方を拝みに行く日はいつだって勝負服です

わたしはいつも、彼女の演目を見ては涙腺をぶっ壊していた。女の裸を見て涙を流すなんておかしい話だろうか?いや、きっとわたしが想像している以上に、一糸まとわぬ彼女が等身大で表現するアートに泣かされた人は多いに違いない。
かわいい、かっこいい、美しい、エロい、儚い、強い… 彼女のステージには総てがあった。


ストリップの世界ってすごいんだよ。さっきまでステージで舞ってた踊り子さんの写真列に並ぶと撮ってる間はその方とお話ができちゃうし、そこで撮った写真はサインとメッセージ付きであとで返却してもらえるんだ。圧倒的距離の近さ。こんな美しい人が、わたしと目を合わせてお話してくださっている!わたしの名前と顔を覚えようとしてくださっている… 劇場通い一年以上経っても、未だこの感動は変わらない。


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今年夏頃やっと女神様と普通に話せるようになった途端、彼女のブログには「■月末で引退する」と速報。
わたしを救済してくれたといっても過言ではない女神の、「引退」というこの知らせを、単語の意味を、わたしの脳は上手く処理出来ず軽くパニックに陥った。
やっと普通に貴方と話せるようになれたのに。もっとこれから差し入れとか気軽に渡せるようになりたかったのに。「そんなのってないよ」という感情が脳内を支配した。

貴方のおかげで受かった会社で稼いだ金でこれからもっともっと貴方の元へ通おうと思ってたのに

そのブログを見たその日は、誇張一切なしで本当に一日泣き明かした


引退を知ってから、4.5回は観に行けただろうか。いつもは彼女を見て元気になって帰るのに、その期間は本当に彼女が舞台袖へ帰っていくのが悲しくてどうしようもなかった。言わずもがな毎公演泣いてた。わたしが毎度毎度目ん玉いっぱいに涙浮かべてステージを見ているのは、女神様からも見えていたんだろうか?

引退前月にこんな会話をした。泣き腫らした顔で彼女の撮影列に並んだ時のこと。
我「今こんな泣いてばっかで、来月の引退のときになったらわたしどうなっちゃうんでしょう?」← 何聞いてんだこのオタクは
女神様「アハハ!!そんなこと言ってくれる人なかなかいませんよ〜!ありがとうね」

ついさっきまで盆の上で悩ましげにオナベ(専門用語)をしていた彼女が、天真爛漫に笑う。こんなのみんなコロッといっちゃうって。

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引退週はあっという間にやってきた。10日のうち2回見に行けた。1回めは仕事終わりに、そして2回目は「ストリップ観劇にあたり最も信頼をおける友人」を連れて。
ぜったいわたし1人で彼女を見納めるなんてことは出来なかった。誰かがそばにいてくれないとなんというか我を失いそうだったから。
その日は二回公演を見たけれど案の定1回目初っ端から号泣してやんの。ずーっと横で友人がわたしの腕を支えてくれたり、背中さすったりしてくれてた。演目が終わり女神が袖に引っ込んだ後、崩れ落ちそうだったけどその足でそのまま撮影列に並んだ。ここでも友人に支えてもらいながら。手紙と、プレゼントと、初めて1人で買った花束を彼女に渡すためにちゃんと歩いた。
ズビズビに泣いてたけどいっぱいお話出来たし、相合傘でツーショも撮れたのだ。
次の公演終わりに返却された先程の写真たちの裏には収まりきらんばかりの、女神様からのメッセージが書かれていて心の底から嬉しかった。最後に見た演目は、彼女の周年作。これで見るのは3回目だったけれど、何度見ても泣いてしまう。最後の最後でめちゃくちゃいい位置から観れた。すごい目が合った。しぬ。しんだ
でもこれで本当におしまい。まだ引退週は残り3日とかあったし、千秋楽も見に行きたかったけれど。最終日はもっと長いこと彼女を見てきたファンの皆様を優先するべきだ、と思った。もうプレゼントも渡したし伝えたいことは全て伝えた。ここで未練引き摺って後日また足を運んでしまったら、この日同行してくれた友人にもどこか申し訳ない。
10年以上ストリップと共に人生を歩んできた女神様は、もっと沢山の人に見送られるべきだ。
わたしは彼女の最後の1年しか知らない。もっと早くストリップにハマっていれば、もっと早く彼女を見ていれば…… 後悔は尽きないが、それでも最後の一年を拝み納められたことを誇りに思う。2020年、色んな娯楽が規制されてとんでもない年だったけれど、あの方と出会えてストリップがもっと大好きになった。それだけですべて正しいんだ。

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漫画『エロスの種子』(もんでんあきこ)第4話より

↑の漫画の通りなのだ。女神様と対峙した日、「これを見るためにわたしは就活頑張ってきたんだな」って泣いたもん。『エロスの種子』、全部の話がエッチで深くて泣けるのでぜひ読んでください。ストリップ愛好家は第4話必見だぞ


女の裸が、女性器が見たいなら今ならいくらでもネットで画像検索すれば出てくる。ストリップ劇場のステージ、そこにあるのは君のおかずじゃない。たった一人の女の生き様である。未知のエロスと刺激と安らぎを求めて、わたしはあの場所に通うのだ。
「えっろ!」以外の素敵な何かがきっとあの場所にはある。

現代日本の法律上、もう新しくストリップ劇場を作ることはできないのだそうだ。地方の劇場が閉館するニュースをたまに小耳に挟むと、行ったことがない場所なのにとても哀しくなる。都内の劇場だって、わたしの大好きなあの場所だっていつなくなるか…考えるだけで恐ろしい。絶対になくしたくない。若い人にもっと布教しなくては。だからわたしは今月も、ストリップ初見の友人を引き連れてどこかの劇場に行く。これがわたしの大好きな世界だよって、言葉なくして教えたい。いろんな女性がいて、みんなおっぱいもお尻も人それぞれで素晴らしいんだ。きっと心の底から拍手を送りたくなる、そんな踊り子さんにぜったい出逢えるから。みんな1回、騙されたと思って行ってみてほしい。何も怖いものはない。あそこは疲れた時、元気になりたい時、むしゃくしゃした時なんでもいいから、もっと気軽に入っていい場所だと思う。推しが目の前にいて喋れて、しかもハダカが見れるのだ。こんなラッキーなことはないぜ!

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女神様に渡す手紙を書いたり、プレゼントを選んだり、これまでにないくらい幸せな時間だった。憧れの女性を想い花を買うということも、あんなに素敵なことだったなんてわたしは知らなかった。最初で最後になってしまったのはどうも口惜しいけれど…


もうあの劇場に行っても、貴方に会えないのはものすごく寂しいけれど、それでもわたしは劇場に通います。貴方が愛したストリップの世界をわたしも死ぬまで愛したい。
きっとわたしが死ぬ時は、踊る貴方が走馬灯の一部となって脳裏に過ることでしょう。

夢のような時間をたくさんありがとうございました。
願わくばまたどこかで、元気な貴方にお目にかかれますように


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