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見送りたくなんてないんだ

この怒りを、哀しみを、むなしさを今すぐ書き留めて、遺しておかねばならない

わたしはとっくにそれを愛していたから、今こんなに涙が止まらないんだな

わたしは今、リアルタイムで見ているのだ
昭和から愛されてきた、素敵なホテルの終焉を
廃墟ラブホとして完成された写真で見るのとは違う、自分がつい最近楽しんだその世界が崩れ去る行程を、いま見ている。
SNSなんてもんがあるおかげで、見なくていいものも
見ることになる。愛おしいラブホテル、楽しく過ごしたその部屋が、死んでいくその姿なんて、ほんとうは知らないでおきたい。情報なんて探らず「そういやあそこまだ元気にやってるかなあ」なんて呑気にたまに思い出すくらいの人間でいたかった。けれどもう無理だ。わたしはこの世界をとうに手に負えないくらい愛してしまっている。

昨年閉業したホテルが荒らされてる。
自然なものではなく、明らかに人の手によって。
ああその部屋は、壁が壊されソファが乱雑に投げられたその部屋は。
わたしが友達ととびきり楽しいひと時を過ごした、大事な部屋なんだよ
まだそれはつい去年の話だ!

部屋についてるカラオケがなかなか音が出なくて、従業員さんに来てもらって助けてもらったり、稼働式のベッドで遊ぶ楽しい動画もたくさん撮ったんだ。
その場所が、こうも早く荒らされてしまうなんて

こういった昭和のレジェンドラブホテルは、こうなる未来が大方予想される。そんなことは知ってたはず。けれど、わたしには何も出来ない
遠い東北の地にあるそのホテルに気軽に会いに行くことすらままならない
廃墟になって荒らされるくらいなら、確かにとっとと解体されたほうがいいのかもしれない。

わたしを含めたくさんの人を幸せにしてきた、オーナー様の愛溢れるホテル。
捨てられて荒らされるか、無惨に解体されるか、そのどちらかの未来しかないなんて、あんまりだ
この子たちはそんな終わり方をするために生み出されたわけじゃないのに。

たかがラブホテル。エッチなこと、セックスをする場所。その通りです。その"たかが"と笑い飛ばされるそんな場所なのに、わたしにはそこには全てがあるように思えるんです。今あるシティホテルと変わらん無個性な現代ラブホのことを言ってるんじゃなくて。遊び心溢れるちょっと前の時代のラブホのことに言及しております。

わたしは昭和を生きてないから、当時の事情なんて永遠にわかりっこないんだろうけど
きっとそこには夢があったはずなんだ
夢がなかったら、こんな素敵なものが生まれるはずがないもの!


なんで閉業したラブホにふざけて遊びに来ちゃうの
施錠されてた部屋をどうして無理やりこじ開けてしまうの
どうして人が作ったものを壊そうなんて思うの!?
お前たちはこの可愛いベッドを見てなんとも思わないの?

あなたたちが明らかに悪意をもって荒らしたそのベッド、去年のわたしが楽しげにはしゃいだ思い出のベッドなんですけど。ひっくり返ったピンクのソファー、そこに座ってカラオケもしたんですけど。
怒りは留まることを知らない。

わたしは小さな子どもを預かる場所で働いている。子ども同士の喧嘩や、子どもが故意で何かを壊すときなど、それなりのお説教をしなければならない立場にある。
「どうしてそんなことをしたの?」
「誰かが傷ついちゃうかもとか、考えられなかった?」
「それをやることによって、あなたは人からどう見られたいの?」
「○○さん泣いてるよ。こういうときはどうしたらいいかな?」
「しっかり目を見て、ごめんなさいしようね」

廃墟荒らし器物破損etcを簡単にやってのける屑どもにも、同じテンションで問い詰めてやりたい。
なんでそんなことができる?
君、そんな人間をしていて虚しくならないかね
ラブホちゃんたちは長年愛されたくさんの人たちを幸せにしてきただろうに、おまえたちは一体なんなんだ?なんで生きているんだ?
けれど、そもそもこんなことをする輩とは対話する機会もないだろうし、そんな機会あったとてきっと話は通じない。分かり合える間柄ではきっとないだろう。

そういう人種を一生許すことは出来ないのは前提として、それを踏まえて何も出来ない自分にさらに怒りが止まらなくなる。わたしの愛しい世界を荒らした連中に報復する術もなければ、わたしはその愛しいものたちをちっとも守れやしない。悔しい悔しい悔しい。
国は何もしてくれない。わたしたちは富豪になれない。ちくしょう。

昨今は昭和レトロブーム!なんて言ってきゃいきゃいメディアでも騒がれてるっていうのに、それでも物凄いスピードで昭和スポットはなくなっていく。どういうことだクソッタレ!!

この昭和レトロを愛する界隈の人達は、特に長年この界隈に身を置いてる人達は、すごい。改めて今回思った。メンタルがもたねえよこんなん。
こんな猛スピードでうちらの愛するものはなくなるってのに、それでも見送り続けているんだ。「別れ」を経験しすぎている。おかしくなっちまうよ。

昭和ラブホだけじゃない、ストリップ劇場だってそうだ。エロに携わる施設は国から保護なんてされない。
今夏、埼玉のライブシアター栗橋というストリップ劇場が閉館する。ストリップ劇場の閉館に立ち会うのは初めてだ。今夏そこで大事な「見送り」を果たすつもりだ。いやだ、いやだけど、今度こそちゃんと見るんだ。ひとつの歴史にちゃんとさよならをする。
この界隈にいて、しっかりさよならをさせてくれる所が多いわけじゃないってことが分かったから。

見送りたくなんかない。
通ってた劇場の閉館、推してたストリップの踊り子さんの引退などによって、スト客を卒業する人だっている。その気持ちは分からなくもないのだ。だって、こんな激しく切ない気持ち、出来ることなら二度と味わいたくなんかないもの。

今まで廃墟写真集でしかお目にかかったことの無い素敵なラブホたちも、こうして終焉を迎えたのだね。踏み荒らされ、盗まれ、落書きされて、自然によって崩壊していく中何年も何年もそこに置き去りにされている。わたしのお気に入りの二大ファンシーラブホちゃんがそんなんなったら耐えられないな。そのときはこんなん書く暇も理性もなく発狂してると思う。


この昭和の文化を見送ることしか出来ない、やるせない思いは報われることはないんだろう。それでも繰り返す。この場所にとらわれて、わたしから離れることなんて出来ない。
こんなの、すっかり恋じゃないか。
だから泣けるんだ
わたしたちはこの場所に恋しているから、同じ苦しみを繰り返す。出会わなければ、知らなければよかったと思いながら、それでも出会えたことが尊くてかけがえがないから、やめられないんだな


「見送り人」としての人生はまだまだ始まったばかりらしい。クソッタレ。


最後に、あの部屋で流したこの曲を貼り、愛しの「銀河鉄道」を追悼する。

追悼なんてさせるなバカ!
ずっとそこにいてくれ!!
きみを愛してる!!


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