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アニメビジネスの再定義とアニメスタジオの生存戦略とは 【覚書き①】

[「アニメビジネス」の再定義]

「アニメビジネス」は、再定義されるべきである。
一般に「アニメビジネス」と言えば、映像の制作、作品の放送・上映・配信、映像ソフト販売、そこから得られる収入と考えられがちだ。
しかしアニメ作品は、玩具やグッズなどの商品化やライブイベント、タイアップなどライセンス(版権)利用が活発である。またアニメ企画当初からこの周辺産業での利益回収があることを前提にすることが多い。

「アニメビジネス」はアニメというフィルムを作り、販売する工程だけでなく、そこから派生する権利運用を含めた全てのビジネス活動を含めたものとあらためて定義するべきである。

1970年代以降、日本の実写映画が縮小するのとは対照的に、アニメがビジネスとして成長したのは、この版権ビジネスとの連動に大きな要因であった。

[制作と版権を統合したビジネスと考えた場合]

制作と版権運用が統合されたビジネスであると認識するなら、映像制作と販売単体での赤字は多くの場合は許される。
より重要なのはその統合されたビジネス全体での黒字化である。

制作と版権を合わせ、全体で黒字を達成する時に、版権事業の売上げを最大化するための制作物(映像)のクオリティ引き上げは極めて重要になる。それも制作単体で赤字となることが容認される理由のひとつである。
逆に制作部門の黒字化を求めるあまり、クオリティを落とし、全体の利益拡大を妨げる事態は避けるべきだ。

もちろん映像のクオリティ向上と、作品のブランド価値の向上が連動しないジャンルは存在する。たとえばファミリーキッズアニメであれば、映像のクオリティの拡大は必ずしも人気拡大とパラレルでないだろう。

[アニメスタジオにとっての制作と版権]

しかし、制作と版権のビジネス主体は必ずしも一致しない。多くの場合は分離するため、ここに無理が生じる。
アニメーション制作スタジオ(以下、スタジオ)の場合、制作と版権を事業と一体化したスタジオと、版権事業を持たないスタジオと経営(利益確保)に差が生まれる。
アニメーション制作と版権運用が一体化したスタジオは上述の考え方から、単独採算の考えかたから離れて質の高い映像を目指すことがある程度可能になる。
一方、制作だけのスタジオは、限定された制作費(多くの場合は受注制作のため)から利益を出さなければいけないため、クオリティの実現に対する競争で相対的に不利な立場になる。

アニメーション制作スタジオは安定した利益を実現するには、いくつかある選択肢の中から方向性をひとつ選ばなければいけない。

① 自らが版権事業を手がけること(製作に乗り出す/製作出資)で、制作のクリエイティブ維持の実現を目指す。
つまり制作ビジネスと版権ビジネスを一体化させるパターン。
② 版権事業を展開する大きな組織の一部となることで、グループのクリエイティブ部門になる。版権事業をグループに依存することで、安定的に版権収益を確保する。
これもかたちを変えた制作と版権の一体化パターン。

①のパターンで成功したのが東映アニメーションで、トムス・エンタテインメント(TMS)も含めていいかもしれない。あるいは「エヴァンゲリオン」のカラー、より規模は小さいが京都アニメーションもこれを目指しているようだ。
大手スタジオでは、IGポートなどは、このパターンを選ぶべきかどうか決断しきれずにいるように見える。
なぜなら制作と版権を一体化させた事業は一朝一夕に築けず、初期投資が大きく、固定費化する。短期的には業績にマイナスである。さらにどこかの時期で企業を長く維持させる鉱脈(巨大なヒット、柱になるIP)を見つけなければいけない。それは保障されたものでない。リスクが大きい。

②のパターンで最も成功したのがサンライズである。旧日本サンライズがバンダイ傘下になることでサンライズとして巨大化したのは、版権事業が制作と連動していたからに他ならない。スタジオにとっては、自身が総合化するよりもリスクが低い。
現在、増えている大企業によるアニメーション制作会社の買収・系列化は、買収する側も、される側もこの状態を求めているのかもしれない。

より変形したかたちでは、アニプレックスとA-1 Picturesのような例もある。版権活用側がクリエイティブ創出部門としてスタジオを作る例である。これについては後術。

[制作事業のみでスタジオを維持するには]

3つ目の考えかたもある。
③ 制作事業単独で収益化を目指す。

つまり受注制作をメイン事業としてスタジオ維持する。実際に会社の規模を問わず、圧倒的に多くのスタジオはこのパターンに含まれる。

受注制作の基本は、受注金額より安く制作し、その差額を利益とするものである。しかしこれがしばしば困難に直面する。受注制作は作品のヒットの有無に左右されずに安定した利益を得られるので、一見魅力的に見える。
しかし国内でアニメスタジオの数が多く(元請けだけで150社)、新規参入障壁が低い(近年は高くなりつつあるが)なかで、価格競争に陥りがちである。つまり受注単価の値引き合戦である。受注競争の結果、必要とされる予算より少ない予算で受注することが起きがちである。
これを避けるには、受注制作で利益をだすコストコントロールが重要になる。受注制作には、作品の大ヒットによる逆転は存在しない。
そのために制作事業だけのスタジオは、製作(版権)・制作一体型のスタジオより高度な経営能力(コストコントロール)が必要とされる。

[コストコントロールはなぜ難しいのか]

制作コストのコントロールの難しさは、アニメ制作は外注が多く、外部の事情により予算・必要経費が大きく変動することにある。このため実制作予算が受注制作費をしばしばオーバーし、赤字に陥りがちである。
であれば制作スタッフを内製化することが、一見はコスト高に見えても、コストコントロール不能のリスクを避けられる点で合理的な判断だ。
制作スタッフの内製化には次の2点の優位性がある。

① クリエイティブの創出(次の大ヒットのタネ)能力の維持
② 機動的な対応=コストコントロール

一方で制作工程を全て外注にしてコストをコントロールする考え方もある。定額で外注することで変動費を外部化することだ。
これまでの製作委員会におけるビデオメーカーの立場が、これに相当していた。版権と制作のコンビネーションでなく、むしろ版権だけをビジネスとする企画会社=製作会社としての有り様である。
にもかかわらず近年は製作会社がスタジオを持つ動きが加速している。バンダイナムコアーツのアクタス、アニプレックスのA-1 Pictures、ADKのスタジオKAI、KADOKAWAもスタジオ設立した。
なぜコスト部門のスタジオを持ちたがるのか。版権だけではクリエイティブは生み出せないためだ。結局、アニメのヒット有無はクリエイティブに大きく依存しており、クリエイティブ部門のスタジオが必要との認識だ。

[受注中心のスタジオの生存戦略]

受注中心のスタジオが赤字受注を回避するためには、次のふたつが必要になる。

① 安定した、実制作に見合った高単価の受注
② 制作予算をオーバーしないためのシステム化された制作体制

高単価の安定した受注にはスタジオのブランド化が必要となる。そのスタジオでなければ、との指名での発注が要となる。このためには映像のクオリティ、安定した納品、知名度の高いブランドが必要とされる。

ただしブランド化したスタジオの最大の弱点は、クオリティの維持である。アニメ制作におけるクオリティは質の高いスタッフに依存しており、質の高いスタッフの数は限られている。ただちに生産を大きく拡大することは困難である。
ゆえに企業としての高成長は見込めない。アニメスタジオが株式上場に向かない理由でもある。

解決作のひとつとして、そもそも過度な成長戦略を持たない選択もある。スタジオジブリやコミックス・ウェーブ・フィルム、ufotableなどにこうした傾向がみられる。
クオリティ維持には、優秀なスタッフの囲い込みが必要となり、優秀なスタッフは常に不足している。現在は、拘束や社員化がアニメスタジオの囲い込み手段となっている。これがブランドスタジオの制作費の高騰を生みだしている。

クオリティを維持したまま生産拡大を目指す動きもある。システム化された制作体制である。CGスタジオではあるが、それを実践しているのがポリゴン・ピクチュアズ(PPI)であろう。
つまり制作を分業化、並列化し、工程管理を厳密にすることでシステマティックにクオリティを揃えた映像を作っていく。これはCGアニメスタジオの強みである。実際にPPIは海外作品など企画・脚本を海外にまかせて映像を作りあげることに特化した仕組みも得意とする。
しかしこの仕組みがシステム化とクリエイティブの両立を充分に目指せるのかはまだ結果がでていない。これが完成すれば、また新しい経営モデルの創出になる。

*きちんと文章仕切れていないメモ書きです。記憶からなくならないように書きました。
もう少しブラッシュアップして、何かのかたちにしたいなと思っています。
いろいろジャストアイディア的なところもあり、他のかたの意見も聞きたいなというのもありです。

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