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ソニーが狙う配信プラットフォーム補完計画、海外企業出資が鍵に

■米国、中国の大手エンタメ企業に相次ぎ出資

ソニーが米国と中国の有力エンタメ企業に相次いで出資して注目を浴びています。5月に中国の動画配信の新興大手ビリビリに約430億円に出資してエンタメ業界を驚かせました。7月10日には米国オンラインゲーム大手のエピックゲームズへの約270億円出資を明らかにしました。
ただいずれも数百億円規模とかなりの金額ですが、出資比率ではビリビリで4.98%、エピックゲームズで1.4%と決して大きくありません。相手側の経営に関与したり、利益を取り込むには不十分です。
出資のリターンの影響を判断しかねる中で、7月11日の日本経済新聞の「ゲーム核にエンタメ強化 ソニーが「フォートナイト」出資、映画・音楽に波及狙う」という記事が面白い分析をしています。

エピックゲームズが運営するオンラインゲーム「フォートナイト」はプレイヤーが3億5000万人を超えるだけでなく、巨大なユーザーを背景に音楽ライブを含めたコンテンツのプラットフォームに変りつつあるのだそうです。
ソニーはそこに自社の音楽や映画を展開することが出来るというわけです。

ビリビリにも、同じ思惑が窺えます。日本アニメ配信とゲームアプリ展開で急成長したビリビリは、他の大手動画配信プラットフォームと異なる特徴があります。ユーザー投稿を得意とし、そこには日本や米国のYouTuberと似たウェブ発の人気タレントやアーティストが多くいます。配信とライブのコンビネーションが実現しているのです。
もちろんアニメやゲームでの協業は考えているはずですが、このイベントや音楽ライブの配信が視野に入っているはずです。

■ハードとソフトの併存が強み、弱みは流通のインフラ不足

ソニーは家電・エレクトロニクス企業であると同時に、世界的な総合エンタテイメント企業です。むしろソニーの他にない特徴と強みは、AV機器やゲーム機といったハードと音楽・映像のソフトの双方を握っていることです。
一方でディズニーやワーナー、NBCユニバーサルと較べた時に、大きな弱点もあります。コンテンツを消費者に届ける流通インフラの不足です。
ソニーは劇場興行チェーンを保有していませんし、キャラクターショップもさほど大きくありません。テーマパークも持っていません。音楽は世界三大レーベルのひとつですが、楽曲販売はITunesやSpotifyに後塵を拝しています。

何よりもの弱みは、放送メディアです。ソニー・ピクチャーズは大手映画会社のなかで、米国に地上波ネットワークを持たない数少ない会社です。ケーブル局でも有力チャンネルがありません。
いまは配信の時代なりましたが、ここでも出遅れが目立ちます。Netflixだけでなく、「Disney+」やワーナーの「HBO max」、NBCユニバーサルの「Peacock」にも、対抗する術を持ちません。

■配信プラットフォームはアニメとゲーム、そして外部に期待

自前のグローバルプラットフォームを築くことは可能ですが、ただでさえ多過ぎる総合プラットフォームで勝ち残りを目指すのはリスクが大きいはずです。そこでビリビリとエピックゲームズになります。サードパティーの有力プラットフォームと協業するとの選択です。
後発だからこそ、他社とは違うアプローチも取れます。サブスクリプション型の動画配信があまり手をつけない音楽ライブ配信などに力をいれることで差別化が出来るはずです。

他社サービスとの差別化は、アニメやゲーム分野でも進んでいます。先のふたつに較べると小さいですが、7月にアニメ分野でも気になるニュースが発表されています。
ソニー・ピクチャーズが2017年に買収した米国アニメ会社ファニメーションが、メキシコ・ブラジルのラテンアメリカ圏にアニメ配信ビジネスを広げるというものです。ファニメーションはすでに英国企業マンガエンタテイメントを買収、さらにビジネスで連動する日本のアニプレックスはオーストラリア企業のマッドマン、フランス企業ワカニムを傘下に置き、グローバルなアニメの配信ネットワークを築きつつあります。

ゲームではソニー・インタラクティブエンタテインメントのプレイステーションネットワーク(PlayStation Network:PSN)が、1億人を超えるユーザーを抱えています。海外でゲームコンソール機は、しばしばゲームプレーだけでなく、ネットを通じたコンテンツのターミナルの役割を持っています。そこにはポップカルチャーに親和性の高い、消費活動が旺盛なユーザーが多くいます。

ソニーのコンテツ配信戦略は、ふたつと見てよいでしょう。
ひとつはアニメ・ゲームといった他社より優位にある分野での独自のネットワーク拡大です。
もうひとつは、有力パートナーとの協業です。それこそが今年になって相次いだビリビリとエピックゲームズへの出資です。

もっともそこにリスクがないわけでありません。経営権は握れない出資は、相手企業の方針に振り回わされがちです。機動的に自社の戦略を進められないかもしれません。
また新型コロナ禍のなかでネット関連企業の株価急騰、さらに成長性を見込んだ2社の株価は過大評価されている可能性もあります。もし今後株価が大きく下落すれば特損を計上することになります。
それでも何もしなければ先には進めません。むしろ投資コストを抑えながらの他社協業による拡大戦略は、ソニーが現状とれる最善策と言えぞうです。

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