アラフォー上海留学日記【39日目】

4/5 金

休みの日は12時まで寝るのが鉄則。約1ヵ月、8時起きの生活をしてみて、睡眠時間は同じでも、起きる時間が早いだけで疲れがまったくとれないということがわかった。早起き自体がストレスだから、さもありなん。

大卫から待ち合わせ場所の連絡がきた。上海马戏城站にあるロシアレストランに行く予定。延安西路站から行こうというが、電車に乗りながら長時間しゃべる自信がないので、現地で待ち合わせにしてもらう。仕事をしてから行くので少し遅れるかもとのこと。アルバイトかなんかしてるんだろうか。

宁波のZINE即売会を教えてくれた子がWeChatで発信していたミニコミが、大学路というところの路上マーケットで売っているというので、10号線の江湾体育场站へ。昨日通った四川北路站からさらに北へ、名門复旦大学の近く。ちなみに、4/3~6まで、复旦大学の学食が一般開放されているようである。


地下鉄を降りると地下道が一大飲食店街になっていて、ここを食べ歩くだけでもおもしろそう。肉桂、龙井、青松などの中華味のチョコ、めちゃくちゃ気になる。禾の日町饭团のおにぎりは、五穀米っぽい紫の米にチーズやアボカドなど具がもりもり。どれもおいしそう。

外に出て、路上マーケットでいろいろ眺める。仏像を入れた水槽、アクセサリー、路上写真館、けん玉ワークショップ。

お目当てのミニコミのブースはすぐ見つけられた。建築家の迦梨さんによる51の屋台の記録。見本を眺めていると「こういうクズ共だ」という日本語が飛び込んできた。『月曜から夜ふかし』の上海ロケのひとコマ。スタッフの子に、この番組が中国ではすごい人気だと聞きましたと言うと、そうそう、みんな観てますとのこと。この番組のなにが中国人の琴線に触れたのだろうか。ミニコミ78元を買って、早くも目的達成。

このエリアは、オープンテラスの飲食店が多く、商業ビルも端正なたたずまい。ビルのなかには、タトゥーショップ、ガールズバー、ネイルサロン、メイクレッスンスタジオなどが入っていた。アニメイトもあるし、深夜までやっている飲食店もある。書店に立ち寄ると、『文科系のためのヒップホップ入門』が並んでいた。

空腹で体調が悪くなってきたので、軽く食べられるものを探しに駅に戻る。海苔味&チーズのシュークリームが目に留まり、ものは試しにと買ってみたら、意外といける。シュー生地の上のカリカリのクッキー生地がほんのりしょっぱい海苔味で、その場で入れてくれたチーズクリームもマスカルポーネみたいな味でおいしい。

ここからロシアレストランまでは、バスで1時間くらいの距離。ロングライドのバスで知らない路を走るのを楽しみにしていたら、大卫から仕事が終わったのでこれから向かうとの連絡が。慌てて地下鉄に乗る。残念だが、バスはまた今度。大卫からは、どんな格好をしているかとの質問もきていた。2人の格好がちぐはぐだったら恥ずかしいので教えてくれと。ちょいちょい細かい気遣いを感じる。

ここのロシアレストラン、Rusiian Barは中国人が経営しているが、味はたしかだという。多くのロシア人と思しきお客さんが集まっていた。100以上あるメニューのなかからいくつかピックアップし、店員さんを呼ぶが、店員のお姉ちゃんがこれはあんまりおいしくないからこっちにしたら? これは売り切れ、などあれこれ言ってなかなか決まらない。5分くらい話していただろうか、ようやく、サラダ、魚のオイル漬け、ボルシチ、鶏のカツレツ、カッテージチーズの餃子に決まった。ビールは一番メジャーだというバルティカ。

上海に来てからほんの少しだけお酒を飲むようになったという大卫、よくよく聞くとチェチェン出身のムスリムだった。チェチェンなんて知らないでしょうと言うので、いや超有名だよ、日本でも紛争のニュースがホットラインだったよ、と伝えたら意外そうな顔をしていた。まあ、若い子たちはチェチェン紛争のころには生まれてもないし、知らない人も多いのかもしれない。大人は語学力や社交性のなさを知識でカバー。
ドストエフスキー、ゴーゴリ、ツルゲーネフ、プーシキンなどのロシア文学は日本でも人気があるし、私も読んだと告げると、けっこう話が盛り上がった。知識よ、ありがとう。ちなみに、ロシアでいちばん有名で、誰もが読んだことのある作品といえば、ミハイル・ブルガーコフの「巨匠とマルゲリータ」だそう。日本における夏目漱石の「こころ」みたいなもんか。

数年前に加藤登紀子さんの本を担当した関係で、「100万本のバラ」をソ連で大ヒットさせたアーラ・プガチョワの名前を憶えていたため、その話もする。曲をかけてくれるようお店の人に頼むが、セットリストに沿ってかけているので難しいという。が、その数分後、急に「100万本のバラ」がかかったので2人でおどろいた。わざわざかけてくれたみたいだ。

なんだかんだで話も盛り上がり、仲良くなれてよかった。終電に乗って音楽をシェアしながら聞いたりして、ちょっと青春きぶん。大学に帰って、レストランで買ってきたビールを飲む場所を探していると、屋上があるのを知っているか、秘密の場所だけど教えてあげるという。屋上なんてあったのか。
屋上のある棟につくと、警備員のおじさんがダメダメ、入れない、酒を飲むんだろうという。大卫が屋上でタバコを吸うだけだ、10分で戻るとさんざん交渉してくれたがダメ。わかった、ビールは置いてくる、といったん外に出て、1本は大卫のアウターの中に、もう1本は私のポケットに入れてコートで隠して入ったら、やっぱりビール持ってるじゃねえかと警備員のおじさんに大卫のぶんだけ没収された。私の持っていた1本は無事なので、そのまま屋上へ上がる。なんなんだ、このやりとり。間抜けすぎて笑いがこみあげてくる。

屋上は最高な空間だった。湿気をふくんだ夜風にあたりながら、タバコを吸いつつビールを飲んで、音楽を聞いて。教えてくれて本当にありがたい。ほかにも秘密の場所があるけど、それは追々教えてくれるそうだ。信頼関係ができれば教えてくれるってことだね、と聞くと、そうだと答える。3か月弱のあいだに、私は彼の信頼を得て、残りの秘密の場所に行くことができるのだろうか。


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