アラフォー上海留学日記【27日目】

3/24 日

30分弱の余裕をもって虹桥火车站に到着。高铁のターミナルは2階。地下鉄からターミナルに向かうまでの間に、たくさんの上海土産の店があった。

ターミナルに入る前に、空港よろしく身分証チェックと荷物検査がある。私がパスポートを提示する横で、ケーキの入った透明なボックスを抱えた欧米人らしき若い女性が、あわてた様相で飛び込んできた。めちゃくちゃ急いでいる。急いでいるところ悪いが、ドラマチックすぎておもしろい。プレゼントかかえて新幹線乗り場に走るなんて、それはもう牧瀬里穂じゃん。係員に紙のチケットを差し出すも、パスポート、と言われて入れず、ケーキをかかえてどこかに舞い戻っていった。間に合ったのだろうか。間に合っていてほしい。

そうこうしているうちに出発15分前。私の乗る高铁はどのゲートからの発車なりや。電光掲示板にも載ってないのに、30本くらいホームがあるなかからどう探せと。近くのゲートにいた係員さんに尋ね、なんとか見つけることができた。

今日はただの日曜日なのに、こんなにも人がいるのかと驚く。春節とかのときは地獄だろうよ。荷物検査に至るまでの道筋が地下からずっとくねくねと行列できる仕様になっていたのも、さもありなん。連休中の電車に乗る場合、何時間前に駅についておく必要があるんだろう。想像するだに気が遠くなる。

飲み物と軽食がほしいが、ターミナル内はブランドもののお店ばかり。時間がないなかうろうろし、自販機を見つけてオレンジジュースを買う。上の階にファストフード店などがあるみたいだけど、もう時間がない。チケット代わりのパスポートでゲートを通過しホームに降り、端っこの車両まで小走り。車両の写真を撮りたかったのに無念だ。
ホームの乗車口でタバコを吸っている人がいてウケる。降りてすぐ吸っているおじさんと、これから乗るおじさんの紫煙が交差していた。

車内は満席。もしやと思い、帰りの便を調べると、ぜんぶ埋まっていて予約がとれなかった。うそだろ、宁波に一泊コースか?とあせったが、杭州で乗り換えありの上海着23:35の便がとれた。地下鉄が動いてない時間につくことになる。23:50発の終バスに乗れればなんとか学校の近くまでは帰れそうではあるが、どうなることやら。

車内で武田泰淳の「上海の螢」を読んでいると、東京の友人たちから動画通話がかかってきた。友達夫婦に子供が生まれたから見せてもらう約束をしていたんだ。しかし、周りがうるさくてぜんぜん音声が聞こえない。イヤホン持ってきてよかった。画面の向こうの小さな赤子はすやすやと眠っていた。私が帰国するころには、どれだけ大きくなっていることだろう。
席で通話してもよかったのだが、やっぱりそういう習慣がない身としては居心地が悪い。デッキに移って数分話し、席に戻ると知らないおじさんが座っていた。誰? 私の席ですというとあっさりどいてくれたが、指定席なのに不思議。その後、おじさんはずっとデッキに座り込み、充電させてくれと近くの席の人に頼んでいた。そして、その隣に座っていた青年に、少し座りなよ、と席を譲ってもらっていた。やさしい青年に幸あれ。

食堂車はあるし、車内販売も頻繁にきていたが、昼食を食べそこねた。1時になると、車内販売もハーゲンダッツにに切り替わった。駅弁みたいなのは帰りの便で食べればいいや。

宁波火车站で下車しホームで喫煙していると、モワッと蒸し暑さがからだじゅうをおおう。さすが海浜都市、湿気がすごい。気温はまさかの30度。車内が海モードの地下鉄を乗り継ぎ、バスに乗って目的地へ。宁波はずいぶんとすっきりした町という印象だ。バス停からの景色は、山手通りの中野坂上あたりに似ていた。バスはシートがギンガムチェックでかわいい。

本やZINEの即売会の会場は、即売会以外にもいろいろなイベントが催されていた。犬連れが多くてウキウキする。肝心の即売会も、めちゃくちゃよかった。まず目についたのが公園で運動する老人の写真集と、葬式の写真集。でもまだまだ序盤、即買いとはいかない。

なにこれ、と思ったのが、地図アプリに書き込んだコメントごと出力してカードにしたやつ。杉浦康平の研究を山で実践した記録をいろいろな形で表現しているんだそう。計9つあるのうちのひとつがこれなんだとか。説明してくれたことの3割くらいしかわからなかったが、直感でこれはおもしろいと感じた。

最初に買ったのは、新聞みたいなつくりの「啲叻」。スナップを得意とする写真家のインタビューがよさそうだったので購入を決めた。38元。同じブースで売っていた、ひたすら貝に絵を描く老人の作品集も惹かれたが、88元ということで保留。

民間信仰という文字に吸い寄せられるように一冊の本を手にとった。開いてみて一瞬でそこに描かれた絵に釘付けになる。びっくりするような絵でしょう、とお兄さんが言う。民間信仰の抽象的な概念を身体宇宙に投射して描く作家らしい。背景を説明してくれたが、上記以上はよくわからず(上記の解釈も正しくないかもしれない)。でも惹かれるものが確実にある。259元となかなかの額だが、即買い。

珈琲を買って芝生でひと息ついていると、突然、お姉さん日本人ですよね、と口ピアスの女の子に声をかけられた。日本語を勉強している、杭州からきた鱼さん。美大生だという。話しかけようかすごくまよったんですけど…と恥ずかしそうに話していてかわいい。雑談しているうちに、さっきの民間信仰の画家の画集を鱼さんも買ったということが判明し、すごい偶然、これは缘分だと盛り上がる。
小红书で、この本の表紙と似た色の服を着てきたら割引と見て、本をイメージした服装をコーディネートしてきたそうな。小一時間日本語で話し、鱼さんは駅前にある阪急で日本のスーパーの閉店前の割引を見に行く予定というので、夕飯を食べる約束をしていったん解散した。

鱼さんと別れたのち、やっぱりさっきの地図カードが気になり再訪。買いたい旨を伝えたところ、いろいろセットにして売ってくれた。166元。どんどん追加で足してくれて、最終的には大盤振る舞いセットに。ありがたい。
売ってた子が来月東京に行くと言うので高円寺を推薦したら、高円寺!とブース内の3人が顔を見合わせ、私たち高円寺のソンベンの友達だよ、と言うのでびっくりした。ソンベンは中国の地下文化にくわしい私の友達で、彼が紹介してくれた中国の子のおかげで、今日のイベントを知ったという経緯がある。うわーとみんなで盛り上がり、写真を撮ってソンベンに送った。世間は狭い。

アーティストの展示もよかった。写真の上から自分の手で刺繍をほどこしたという潘方さんの作品がとくに。販売もあったが、1枚約700元…無収入だとちょっと躊躇してしまう額。いつも20元くらいの学食を食べているような貧乏症が災いし、手を出すことができなかった。

イベント会場をあとにし、鱼さんと会う予定のお店の近くに移動。地下鉄内に物売りの天秤を持ったおじさんがいて、のどかさを感じる。あと、宁波市オリジナルのシェア自転車も旅情をそそった。まだ18時前なのに、ほとんどのお店がしまっている。宁波は夜が早い都市だ。ようやく見つけたカフェで、外にたむろってるおじさんを見ながら、シンさんにチェックしてもらう作文を書いた。

鱼さんと再会した海鮮料理の店は、食材を見ながらメニューを選ぶスタイル。酔っぱらい蟹、海鮮いろいろスープ、ホタテなどを選んでいる横で、手ずから網で生簀の魚をすくってる客のおじさんがいた。レベル高い。
料理はどれもおいしく、鱼さんとのおしゃべりもずっと楽しかった。同じ本を選ぶだけあり、なにか通底しているものがあるのかもしれない。

あっという間に帰らないといけない時間になってしまったが、チャキチャキのおばさん店員が、あなたたち足りてるの?とサービスでデザートを出してくれた。汤圆を焼いたやつとオレンジ。このオレンジおいしいでしょう、もっと食べなさいとまさかのおかわりまで。熱烈歓迎。
私は日本人で上海からきましたと告げると、あなたの中国語は很好! それに比べて、こないだ日本人2人は中国語がいっさいわからず、現金しかも日本円を出してきたのよ〜と笑っていた。
お会計のあと、熱烈店員さんが、さっきのオレンジおいしかったでしょ、持っていきなさい、と私と鱼さんにひとつずつにぎらせてくる。鱼さんと2人で、えええ、まだあるの!とめちゃくちゃ笑った。

今日は宁波に泊まるという鱼さんと、また会おうねとハグして別れ、一路上海へ。杭州で乗り換え、これで上海に帰れる…と安心したところで、鱼さんからイラストが届いた。今日の出会いがひとつの絵にまとめられている。疲れていることもあり、ほろりと来てしまう。なんていい子なんだろう。

無事上海につき、上海の景色にほっとする感覚が芽生えていたことにちょっと驚く。この都市に対して、いつの間にか愛着と安心感が育ってたんだな。
疲れたからタクシーに乗ろうと決めていたが、駅のタクシー乗り場は死ぬほど列ができていたため、いちかばちかで終バスに駆け込む。タクシーの客引きの兄ちゃんに、320系統のバス乗り場はどこ!?と聞くと、一瞬タクシーのらんのかいという顔をしたのち、このまままっすぐで大丈夫、GO!と笑顔でサムズアップしてくれた。いい人だ。
ギリギリで320系統のバスにのり、学校から約1キロの地点まで乗車。バスを降りた先にシェア自転車があったので、いつもは車でいっぱいの中山西路をひとりじめして自転車で疾走した。12:30、上海との距離感がグッと近づいた瞬間。

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