アラフォー上海留学日記【最終日】
8/10 土
荷造りをしている途中で気づいたが、バックパックのサイズ的が機内持ち込みサイズをオーバーしている。帰りの便は日本のLCCであるpeach、機内持ち込みにかんしてけっこう厳しい規定がある。あわてて預け入れ荷物を追加し、509元かかってしまったが、お金のことはもうどうでもいいという心境に達している。ラクに帰れるならそれでよし。
大卫と交通大学の近くの東北料理屋に向かう。ヘルメットを借りてきてくれたので、炎天下をバイク二人乗りで。シートも熱けりゃTシャツ越しに感じる体温も熱い。そんな環境下、バイクからの上海の街並みはまた違って新鮮に映った。見る人の角度でいろんな表情を見せる街、上海。
いつもバイクが通って危険だと思っていた歩道をバイク側の視点で走る。大卫が、すれ違ったバイクの兄ちゃんに、前のほうに警察はいるか?と聞いていた。以前、ここらへんで警察につかまったことがあるそうである。今日はいないようでよかった。
東北料理屋でビール飲もうと言われ、運転があるじゃんというも、ビールだよ? 問題ないでしょ、とロシアで友達がビールとマリファナをキメて運転している動画を見せてくれた。チェチェンでは道を譲ってもらったらお礼のサインを送るなど、マナーがちゃんとしているそうだが、マリファナキメて走ってるんじゃねえ。
警察につかまってもお金を渡せばなんとかなるよ、だって人を殺したわけでもないしものを盗んだわけでもない、誰もいない道路で楽しく運転してただけじゃないかと言い張る。
時間が経つのはあっという間である。大卫は2時から友達と予定があるそうなので、ふたたびバイクに乗って上海の道を走る。ビール一本飲んだだけなのに、炎天下の真っ昼間ということもあり、ちょっとぼんやりしてしまう。
宿舎の前で下ろしてもらい、ぜったいにwechatを消さないでよ、キープ連絡、健康と幸せを願っていますなどのあいさつを済ませ、写真を撮ってハグしてバイバイ。ゲートを通ってから振り返ってまた手を振り、ついにお別れだ。彼との経験はほんとうにいい思い出になった、心からありがとうを言いたい。
ひと休憩して荷造り再開。残りの荷物が意外と入りきらず焦ってきた。Tシャツとタオルなどできる限りのものを捨て、なんとかスーツケースとバックパック、トートバッグに収まりほっとする。
来たときよりも美しく、を合言葉に最後の掃除を済ませた。こんなにきれいに去ったら、阿姨がびっくりするんじゃないかしらとほくそ笑みながら。
来たときと同じように写真をとると、一気にさびしさが湧き上がってくる。ここは私の巣だったなあ。
荷物を持ってみたら重すぎて動悸がしてきた。これ、ひとりで持って帰るの…? その労力を考えると頭がくらくらし、一気に体調がおかしくなった。17時にTと中山公园で待ち合わせをしているが、ちょっと動けない。遅れる旨伝えて少し休み、ええいと意を決してスーツケースを一階に運ぶ。部屋に戻ってバックパックを背負ってタクシーを呼び、部屋と最後のお別れ。ゲートの叔叔に帰国すると伝え、書類にサインをして学校を出た。
中山公园でTと合流して激しくほっとした。スーツケースを運んでもらい、2号線に乗って川沙へ。途中で目の前の席のクソガキが小さなゴミを投げてきたので投げ返したら、ガキの隣のガールの足元に落ちてしまった。ごめんなさいと謝り、ガキに冗談っぽく拾え!とジェスチャーと中国語で伝えたが、ガキは笑っているだけだった。
川沙站を出て、小红书で見つけた行李寄存(荷物預かり所)を探すが見つからない。不動産屋の店先にいた兄ちゃんに聞くと、あそこの超市の中だよと言う。超市の中とはいったい。超市で再び、この近くに行李寄存はありますかと聞いたところ、カウンターに座った赤子をあやしていた店員さんが、ここで預かれるよと言ってタグを持ってきた。タグが見えるよう荷物の写真を撮って、取りに来るときはその写真を見せれば大丈夫とのこと。おもしろいシステム。20元。
身軽になったので川沙夜市に向かうが、もぬけの殻であった。以前はここで夜市が開かれていたのであろう場所の写真を撮り、気を取り直し川沙老街へ。
川沙は小さな町だが、公園には熱気がある。广场舞も見納めだ。水習字のおじさんを横目で見つつ、近くの商店街を流す。入れ墨屋とビリヤード場などを写真に収めた。
やはり川がある街はいいね。ただただ川を眺めているおじさんとかがいて。川沿いに好酒不见(久しぶりという意味の好久不见とかけてある)という店があり、ここいいじゃんと最後の晩餐の候補にした。
老街は七夕が近いこともあり、七夕をモチーフにした装飾が施されていた。ミニひょうたんを衝動買い。ひょうたんがあるとついつい買ってしまう。
いい感じの飲食店、本屋、2元ショップなどもあった。橋の上でのパフォーマンスに人だかりができていたので、少し見物。
結局さっきの川沿いの店に戻ることにした。川を見ながらビールを飲み始める。心地良い。花椒の効いた枝豆がうまい。
このあとのこともあるので、ちょっとセーブしながら飲み進める。あっという間に時間はすぎ、このビールを飲み切ったら空港に行くタイミングだ。ぐいっと飲み干し、会計を済ませた。
Tといっしょにタクシーで荷物を預けた超市に寄り、ピックアップして空港に向かう。高速道路の光景を見つつ、虹桥のほうが便利だけど、この浦东の光景が感傷的でいいよねとか言いながら。
空港で一服し、ライターを没収されたのち荷物を預け入れた。カウンターのお姉ちゃんが英語対応でさびしい気持ちになる。ビザが4月までになってると言われてびっくりしたが、よく見たらそれ、入国期限が4月までと書いてある欄じゃん。知らないのかよ。半年のビザです、2月末に入国しましたと中国語で伝えると、隣のカウンターの男性にこれ4月って書いてあるけど大丈夫ですか? 大丈夫大丈夫、というやりとりをしていた。
バックパックは問題なく預け入れられたが、スーツケースを荷台に乗せると、お姉ちゃんがこちらに何か言う前にまた隣の男性に、重量オーバーしてるけどどうします?と聞いているではないか。うそ。なにか捨てなきゃダメかな…と不安になりつつ、2人の会話を聞いてみる。何キロ? 23キロです、22キロ〜24キロだとうんぬんかんぬん…というようなことを言っていた。聞く限り、どうやらグレーゾーンだが今回は大丈夫となったっぽい。よかった。お姉ちゃんはその後こちらに向かって英語で、重量オーバーですが今回はパスします、次回は気を付けてと言ってボーディングパスをくれた。
荷物も軽くなったので、また外に出て一服。一階のコンビニでビールを買って、閉店済みの店舗のテーブルでTとふたりで最後のビールを飲み始めた。いろんなところに行ったよね、と思い出話をしようとすると話を逸らされた。なんとなくお互い口数も少なくなり、オリンピックの話などをしているうちに、そろそろ搭乗口に向かう時間だ。名残惜しいが、これでお別れ。保安検査の前でTと固く握手を交わす。次はいつ来るんですか、と来ることが当たり前みたいにTが言うので笑った。
トイレに寄るとセンサーが壊れていて水が流れず焦る。次に入ろうとしたマダムに、ちょっと待って! ここ水が流れない!と告げてそそくさとその場から逃げた。最後の最後でこういうトラブルがあるとはね、さすが中国。
感傷にひたる間もなく搭乗。機内に入った瞬間に日本語のアナウンスが聞こえて、それにショックを受けている自分がいた。ぜんぶ聞き取れてしまう、ぜんぶ。耳馴染みの良さが残酷だ。日本語と英語のあとに流れた中国語のアナウンスに耳を傾け、うむうむと唸ってみるが、日本語のアナウンスがクリアに頭に滑り込んできてすべてを覆してしまう。
あの、聞き取れるような聞き取れないような言語にまみれた場所ではない。終わったのだな、上海での5ヶ月が。そう思った。
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