はじまりのとき***音楽室の朝
二人めの女性は、ザイロフォンの演奏家。
小学校の音楽室が、自分のはじまりの場所だと話してくれた。
音楽の授業でザイロフォンに興味を持ち、もっと弾きたくてたまらなかった。
先生に話してみると、朝早い時間だったら弾きにきてもいい、といわれた。
翌朝から早起きして登校し、音楽室への階段を駆け上がった。
朝の光が、ザイロフォンのおもてに反射していたの。
あたりが金色に見えた。
そのなかにわたし一人。
夢中で叩いた。
楽しくて楽しくて、時間を忘れた。
チャイムが鳴るとくやしいの。
ザイロフォンと別れて音楽室を出ていくのがつらかったわ。
自分とザイロフォンの関係はそこで生まれた。
以来なにも変わっていない。
音楽の先生がゆるしてくれたことにいまも感謝している。
彼女のきりっとした目鼻立ちを見ながら話を聞いていると、小学生のころの顔も重なってくるようだった。
横顔もきっと変わらないのだろうな。
朝の光が彼女とザイロフォンを包んでいるさまは美しい。
音楽の妖精の視線を借りて、わたしもそこにいる気持ちだった。