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なぜ日本人は桜が好きなの?

「なぜ日本人は桜が好きなの?」と尋ねられたことがありました。それは日本を訪れたことないイギリス人のかたで、春のイギリスでリンゴの花が見事に満開なときでした。

質問されて咄嗟に「綺麗だからです」と答えてしまったのですが、安直すぎたといまでも反省していて忘れられません。わたしはイギリスで見たリンゴの花並木をとっても綺麗だと思いました。日本の桜吹雪に劣る点など少しもありません。花びらの形状や色彩は似ていて、この国にも春を象徴する花が存在するのだと感動したことを覚えています。それを目の前にして桜は綺麗だから好きなど思慮の欠片もない台詞でした。相手のかたは難色を示していました。わたし自身も満足も納得もできない失敗でした。

それ以降、なぜ好きなのかを再度考えました。そして一つ思いついたことは「桜は比喩の花だ」ということです。日本人は春に思い出がある人が多いのではないでしょうか。新生活、新学期、卒業、移動、出会い、別れ、試験、合格、将来、過去。年度が三月で終わって四月で始まる日本では、桜の季節にいろんな出来事がぎゅっと凝縮して起こります。また、四季を大切にする習慣が伝統的にある日本では、肌寒く日短い冬を超えて温和で色彩豊かな春を特別に歓迎する雰囲気が桜の開花と重なって漂います。

桜満開の平和な光景。それを眺める人たちはきっとそれぞれの記憶を呼び起こされている。桜の魅力は単純な視界の美しさだけでない。桜は日本人の心に響く力を秘めているのだと思いました。日本人と言ってしまいましたが、日本で春を過ごして思い出を持っているなら、どんな人でも、桜をもうただの花として見れないはずです。そこに比喩を感じてしまうはず。わたしは文化や植物の専門家でなく、この意見が正しいかわかりません。きちんと学術的に裏付けされた回答がありそうです。しかし少なくとも、もし今度同じような質問をされたとき、以前より丁寧に説明しようと気をつけます。

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