好きとか、そういうことじゃなく

好きとか、そういうことじゃなく

高校生たち
藺古田
高山
中島
花輪
八木下

先生たち
大場先生
山下先生

1 

 音楽

 空き教室

 物置代わりにされている。

 次々に不要品を運んでくる生徒。
 雑多なものを運びこむ。

 雑然と不要品が置かれていく。

 八木下、紙束を抱えて入ってくる。

 書類の綴じ作業を始める八木下。
 続いて中島、高山、藺古田が入ってきて綴じ作業をする。
 スーパーの買い物袋を持って入ってくる花輪。
 静かな様子にとまどう。
 荷物を置き、手伝い出す花輪。
 すぐ飽きる。

 突然、声をあげる花輪

花輪   あー。

 4人は花輪を見る。
 すぐに目をそらし、作業に戻る4人。
 4人の顔色をうかがっていた花輪、がっかりしたように作業に戻る。
 すぐ飽きる花輪。

花輪   あー、あー、あー。

 4人、今度は無視する。
 花輪、叫び続ける。
 次第にメロディがついていく。

花輪   #あーああーあー

 無視する4人。
 歌う花輪。
 リズムを取り始める中島。
 中島がリズムを取り始めるのに気づいて驚く3人。
 中島を見てますます調子に乗る花輪。
 花輪に合わせて歌い出す中島。
 驚く3人。
 誘う中島。
 リズムを取り出す八木下。
 八木下を見てすぐ目をそらす、高山と藺古田。
 歌い出す八木下。
 仲間に引き入れようと張り切る3人。
 リズムを取り出そうとする高山を止める藺古田。
 振り切って3人の方へ行く高山。

 紙をまき散らし歌う4人。

 肩を組み歌う4人。
 愕然とする藺古田。
 仲間に入れようとする4人。
 目を背ける藺古田。
 周りを取り囲む4人。
 ひざまずいて耳をふさぐ藺古田。
 むりやり聞かせる4人。
 肩を落とす藺古田。
 歌を聴かせる4人。
 耳を傾け始める藺古田。
 顔を見合わせる4人。
 歌い出す藺古田。
 喜ぶ5人。
 歌は佳境に入る。

 SE・電話のベル。

 歌いやめる5人。
 電話を取る高山。

高山   はい、選択教室です。はい…はい…はい…

 小声で歌い出す4人。
 目配せする高山。

高山   はい、分かりました。

 高山、電話を切る。
 大声で歌う4人。
 歌いきる。

八木下  なんだって?
高山   できてるかって。
花輪   やってるって!ねえ。

 答えない4人。

花輪   あれ。

 花輪を無視して

高山   電話に出てるのに歌うなよ。
八木下  聞こえたかな。
高山   聞こえてないと思うけど。
藺古田  こんなにしちゃって。
八木下  やり直しか。
中島   やりたくなよこんなの。
高山   これもだけどさあ。
中島   なに?
高山   あれも。
花輪   なになに?これとかあれとか。
高山   新聞だよ。
花輪   なんだとー!

 身構える花輪。

藺古田  ほっとこう。
高山   うん。

 身構えたまま振り返る花輪。

花輪   なんだとー!

 身構える中島。

中島   なにをー!

 花輪、そのまま八木下の方へ。

花輪   なんだとー!

 八木下、身構える。

八木下  えーい!

 3人で向かい合う。

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!

 3人、あとずさり、また近寄る。

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!

 気になり出す高山。

藺古田  行かないでいいから。
高山   ああ。
藺古田  新聞ってなぜ?
高山   なんか学区の中学生に配って、学校のPRにしたいみたい。
藺古田  何それ。
高山   決まったから、とか。

 藺古田、3人に声をかけようとする。

藺古田  ねえ。

 3人、藺古田を見る。
 藺古田、何か言おうとするところで、

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!

 藺古田、タイミングを失う。

藺古田  高山さんから言って。
高山   はいはい。

 高山、3人に近づく。
 藺古田、一人、離れる。

高山   あのねえ。

 3人、高山を見る。
 高山、何か言おうとするところで、

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!

 高山、身構えたまま近づく。

高山   えいっ!
藺古田  またか。

 4人、構える。

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!
高山   えいっ!
藺古田  おーい。

 4人、藺古田を見る。
 花輪、藺古田に手招きをする。

藺古田  やだよ。

 4人、手招き。
 仕方なく近づき、構える藺古田。

花輪   とおっ!
中島   たあっ!
八木下  やあっ!
高山   えいっ!
藺古田  しゃあっ!

 叫びながら隣の花輪を打つ藺古田。
 驚いて倒れる花輪。

花輪   おい!

 藺古田、拳を引いて身構える。

藺古田  ふー。
花輪   ほんとに打つな!
中島   今のはしかたないな。
八木下  うん。
藺古田  高山!
高山   大変だよ。
八木下  どうした。

 花輪、起き上がる。

花輪   なになになに。
藺古田  次の号作れって。
中島   えー。
花輪   何を作れって。
中島   新聞だよ。
花輪   なんで?
高山   なんでって言われても。
八木下  決めたのに。
中島   作らないんじゃないの。
高山   なんか、中学生に配ってPRにしたい。
花輪   なにPRって。
八木下  あれだ、ほら、入学希望者のさあ。
中島   うちの?
八木下  うん。
中島   なんでそれがうちらと関係ある?
花輪   作りたくない!
藺古田  それはあたしも!
八木下  高山!
高山   なに!
八木下  なんとかならない?
高山   さあ。
中島   高山!
高山   何だ。
中島   なんとかならない?
高山   さあ。
花輪   高山!
高山   なに?
花輪   おなかすいた。
藺古田  やっぱり。
高山   知らないよ。
花輪   だってすいたって。
高山   はいはい。
花輪   なんとかしてくれよ。
高山   おまえらやる気ないな。
八木下  だって、ねえ。
花輪   ねえ。
高山   やるって言っただろ!
中島   ほんとに作るの?
花輪   こうやってなんだか訳の分からない仕事までさせられてさあ。
高山   しょうがないだろ。出さないと廃部だから。
八木下  廃部?
高山   定期的に活動してないと廃部なんだよ。
中島   こうやって集まってるし。
高山   集まるだけならハエでも集まるそうです。
花輪   ハエでも。
八木下  えー。
花輪   へえ、そうなんだ。
藺古田  そうじゃないだろ。バカにされたんだぞ。
花輪   え!そうなの?
高山   とにかく新聞部は新聞出して活動とみなすって。

 SE・電話のベル。
 高山、電話に出る。

高山   はい、選択教室です。はい。います。(振り向いて)八木下。
八木下  あたし?

 八木下、電話に出る。

高山   とにかく新聞出さないと。
花輪   新聞?どうして?
藺古田  何聞いてたんだよ。
中島   どうする?高山、できる?
高山   できるって、手伝ってくれるんでしょ。
中島   ああ。
高山   ね、藺古田頼むよ。
藺古田  新聞かあ。
高山   みんな新聞部なんだからね!
花輪   みんなっておれも?
高山   うん。
花輪   えーそうだったんだ!
高山   おまえなあ。
藺古田  分かってなかったのか。
花輪   そうか、なんか毎日集まってるから何だと思ってたけど。
藺古田  思い出した?
花輪   あたしたち新聞部だったっけ。
高山   だから次の号出さないと。
中島   でもなあ。
高山   作ったことないしな。
花輪   おれは中学のとき修学旅行特集号を作った。
藺古田  へえ。
花輪   2年の11月に旅行して、卒業までにちゃんと出した。

 花輪、みんなの顔色を見る。

花輪   なんだよ。讃えろよ。おれを。
高山   おまえ…十四ヶ月かかったのか。
花輪   卒業までに出したし。
高山   どうしてそんなにかかったんだよ。
藺古田  深く聞くなよ。
中島   一つの才能だな。

 八木下、電話を切る。

八木下  大変だ。
中島   なに?
八木下  みなさんに、山に登ってもらいます。
中島   え?
八木下  大会に出ないと廃部だって。
花輪   サッカーの?
八木下  違うよ!
中島   大会って、大会あるの?
八木下  あるよ。
高山   いつ?
八木下  10月20日。
藺古田  何曜日?
八木下  土曜日。
高山   土曜日か。
八木下  と、21日。
中島   二日!
八木下  泊まりだから。
藺古田  泊まり!
花輪   飯は?
藺古田  そうじゃなくて。
八木下  テントに泊まります。
花輪   テント!やったあ!テントって何?
藺古田  おい!
高山   大会に出ないと廃部だって?
八木下  うん。
中島   じゃ、出ればいいじゃん。
藺古田  うん。
高山   がんばって来いよ。
八木下  違うよ、団体戦しかないんだって。
藺古田  なんだと!

 花輪、身構える。

花輪   とおっ!

 全員、相手にしない。

花輪   あれ?
中島   団体戦って?
八木下  あの、5人一組。
高山   5人!
藺古田  あたたたた。
中島   なんだ?
藺古田  あの、持病の。
中島   持病の何。
藺古田  すいません、嘘です。
高山   早いな。
花輪   ねえ、つまりどういうこと?
八木下  大会に出るんだよ。あたしらみんなで。出ないと廃部。
花輪   何の大会。
八木下  登山。
花輪   登山!
八木下  あたしらみんな登山部だろ!
花輪   えー!
藺古田  おまえいい加減にしろよ。
花輪   みんなっておれも?
藺古田  そうだよ!
八木下  もう一つあるんだけど。
高山   今度は何。
八木下  うちの県、女子の登山部少なくて、たぶん出れば入賞するんだって。
花輪   よかったじゃん。
八木下  そしたら関東大会だって。
中島   えー!
花輪   よかったじゃん。あれ?
藺古田  気がついたか。
花輪   ちょっと待って。
藺古田  待つよ。
花輪   やっぱいい。
藺古田  なんだそれ。
八木下  頼むね。
中島   登山てそんな。したことある?
高山   ない。
藺古田  あたしも。
花輪   おれあるある。あるある。あるから。
中島   おまえはおもしろ登山話をしたいだけだろ。
花輪   面白くねえよ!
中島   じゃなおさらやだよ!
花輪   …あ、そうか。じゃ面白い方で。
中島   いいよ!
花輪   言わせてくれよ!
中島   なんだよ!
花輪   遠足で河口湖行ってさあ、鳥の形のボートにふざけて乗ってたら…
藺古田  おい。
花輪   ボートが動き出して。
藺古田  おい。
花輪   どんどん岸から離れて。
藺古田  山はどうした!
花輪   あれ?
藺古田  山は?
花輪   山?あ、別にない。
藺古田  何なんだ!
高山   あのさあ、大会ってどこ?
八木下  丹沢山系。
中島   なんか山系ってところがすごそう。
八木下  頼むね。みんな。
藺古田  あのね。
八木下  なに?
藺古田  いいだろ廃部で。ねえ。

 4人、うなずき合う。

八木下  ちょっと待ってそれ約束が違う。

 SE・電話の音。

高山   八木下。
八木下  ちょっと待ってみんな、ほんとに待って。

 八木下、電話に出る。

八木下  はい、選択教室です。はい、はい。
中島   山に登るか!ふつう。
藺古田  山だぞ山!
花輪   ちょっと待って。
中島   なに?
花輪   おれたち、山に登るのか?
中島   そうだよ!
高山   いいじゃん、みんな、ちょっと我慢してさあ、山登って、新聞作る。
中島   新聞があったんだよ。
花輪   新聞て?
藺古田  新聞部だから。
花輪   登山は?
藺古田  登山部だから。
花輪   なんだそりゃー!
八木下  中島、電話。
中島   あたし?

 中島、電話に出る。

八木下  なんかもう先生たち電話で済ますなって。
高山   忙しそうだった先生たち。
藺古田  あのね。
高山   なに?
藺古田  あの、あたしのお姉ちゃんのときは8クラスあったんだって。
八木下  ここ?
藺古田  うん。
高山   それいつ?
藺古田  6つ違い。
八木下  けっこう離れてる。
花輪   それはさあ。

 みんな花輪を見る。

花輪   離れてるよな。
藺古田  ああ。
八木下  なんだ。
高山   ふつうじゃん。
花輪   おれはふつうだよ。
藺古田  それは違うと思うけど、で、今5クラスじゃん。
花輪   おれが?
藺古田  違う。
高山   減ったよね。
八木下  分かった。でも部活の数は変わってないし。
藺古田  あと先生も減ったんじゃないかな?
高山   ここもそうだけど教室すごい余ってるし。
八木下  おかげで荷物置けていいけど。
高山   ねえ、中島は何部だっけ?
藺古田  高山が新聞部で、八木下が登山部。
高山   中島は…
八木下  なんだったっけ。

 中島、視線を感じながら電話を聞く。

中島   はい、はい。

 中島、電話を切る。
 戻ってくる中島。

藺古田  何だって。
中島   なんか注目されてるし。
高山   いいから。
中島   発表します。
花輪   なに?なに?
中島   むすめふさほせ。
花輪   なんだー!それはー!
中島   みなさんに百人一首をおぼえてもらいます。
高山   また団体戦か!
中島   そうです。
藺古田  これはぜったい先生たちの間でなんかあったんだよ。
八木下  どういうこと?
高山   分かった。職員会議で出たんだ。部活のことが。
藺古田  大会に出ないと廃部にするって?
高山   そうだよきっと。
藺古田  こないだは5人いないと廃部にするって、今度は大会か。
八木下  しょうがない、やろう。
中島   うん。かるたしよう。
八木下  山、登ろう。
高山   新聞も作ろう。
藺古田  えーと、あきらめよう!
高山   おいおいおい藺古田。それはないだろう今さら。
藺古田  あたしは名前貸しただけだから。
八木下  そんなあ。
花輪   そんなああああー。
中島   ちょっと黙ってて。
花輪   うん。
藺古田  あのね、5人いないと廃部になるからそれぞれの部に入部することにしたんだよね。
高山   うん。
藺古田  そのときに大会やなんかの話したっけか?
八木下  してないけどさあ、みんなで廃部にならないように協力しようって言ったじゃん。
藺古田  言ったけどさあ、山登るとは思わないじゃん。
八木下  大丈夫だよ、道具はあるから。
藺古田  そういうことじゃなくて。
八木下  山で食べるカレーはうまいよ。
花輪   カレー!
八木下  うん。
花輪   何カレー?
高山   それは今いいだろ。
八木下  それからねえ、山の上で飲むコーヒーはうまいよ。
花輪   コーヒー?
八木下  うん。
花輪   何コーヒー?
藺古田  何言ってる?
花輪   さあ。
八木下  ねえ出て頼む。かるたも出るから。はーい、とか言って。
藺古田  かるたと山登りじゃ比較にならないよ。
八木下  軽くかるたをクリアしてさあ、山行こう山。
中島   ちょっと待った。
八木下  なに。
中島   それは違う。
八木下  だからなに。
中島   軽くかるたをクリアして、ってそうじゃないよ。かるたは違うんだよ。
八木下  違うってなにが違うんだよ。
中島   かるたは格闘技だよ。
花輪   だよだよだよだよ…
高山   ちょっと黙ってて。
八木下  格闘技ってそんな、かるたってなんかこうなんか「ふふふふふー」って。
高山   そうそう「ふふふふふふふ、ふふふふふー」
花輪   かるたは百人一首でやるんだよー。小倉百人一首。藤原定家。新古今和歌集。後鳥羽上皇。

 高山、藺古田、八木下、中島の方を見る。

中島   合ってます。
藺古田  なんだこいつ。
花輪   ところで格闘技だって?
中島   うん。
花輪   格闘技なら任せなさい。こうして…

 花輪、八木下の手を取って、関節技を仕掛けるが、途中で訳分かんなくなる。

花輪   ちょっと、ほら、こっちの手をさあ。
八木下  何?

 花輪、いつの間にか自分が技にかかっている。

花輪   いてててて。
八木下  こいつ何してるんだ?
花輪   おい。
藺古田  何。
花輪   恐ろしいな格闘技って。あれ?
高山   おまえだいじょうぶか?
花輪   うん、おれ、ときどき自分に困る。
藺古田  それは分かる。
中島   かるたの話して!
藺古田  しかたない。
八木下  かるたが厳しいって話だろ?
中島   うん。
高山   別にバカにしてるわけじゃないよ。
中島   軽く、とか言うからさあ。
高山   分かった!とにかくかるたには出る!
中島   やった。
高山   でも、成績には期待しないように。
中島   えー!
高山   なんだよ。
八木下  いいじゃん、出るんだから。
中島   出るからには恥ずかしくない程度にはなってもらいたい。
藺古田  どういうこと?
中島   練習するから。
八木下  えー。
高山   新聞作らないと。
八木下  こっちも練習が。
藺古田  練習?
八木下  リュックに石詰めて階段上る。
藺古田  やだよ!
八木下  やらないと山でつらいんだよ。
藺古田  分かった!
中島   なに。
藺古田  かるたにも出る。山にも登る。
八木下  うん。
藺古田  ただ、山の方は、歩き出してしばらくするとあたしたち、八木下以外の4人。
八木下  何?
藺古田  偶然、偶然だよ、腹痛を起こす。
八木下  え?
藺古田  と、思うんだ。
花輪   何をバカな、そんな4人が偶然おなか痛いってそんな、あれ?
藺古田  何?
花輪   腹痛って頭だっけ?あ、違うか、おなかだよな。
高山   えー!
花輪   おなかだおなかだ。あれ?そうだよね。
中島   うん。
花輪   そんな4人が偶然、おなか痛いって…あれ?
高山   どうした?
花輪   …毒?
藺古田  ちがーう!
八木下  棄権なんてやだからね。

 SE・校内放送

声    ただいまから災害に備え非常ベルのチェックを行います。

八木下  とにかくやだからね。

 SE・様々な種類の非常ベル

花輪   おいほんとうか?

 SE・非常ベル続く。

花輪   冗談だろこれ。
中島   まだ続くのこれ?

 SE・校内放送

声    これで非常ベルのチェックを終わります。
高山   やっと終わった。

 SE・非常ベル

花輪  終わってないじゃん。

 SE・校内放送

声    失礼しました。
花輪   じゃ、帰るか。
八木下  おい!
花輪   ごめん。
八木下  棄権はやだ。
高山   たしかにそれはかわいそうな気もする。
藺古田   いきなり山登れと言われるのもかわいそうだよ。
八木下   頼むよ。
藺古田   だって山なんて行きたくないよ。
高山   藺古田。
藺古田  高山だって新聞手伝ってほしいから言ってるんだろ。
高山   そうだけどさ。
藺古田  行きたくないから。
中島   じゃ藺古田は何なんだよ。
高山   あれ?藺古田は何だっけ?
花輪   なんだか自分が何部か分からなくなってしまった。
中島   花輪はいいから。
藺古田  ボランティア部だよ。
4人   あー。
高山   そうだった。
八木下  ボランティア部か。盲点だったな。
花輪   ボランティア部にしてはさっきから発言が冷たいな。
中島   だけどボランティア部だと先生たちもつぶさないんじゃないの?
藺古田  そうでもないよ。やっぱりもっといろんな行事に参加しないと無理みたい。
八木下  分かった!ボランティアだと思って山に登ってくれ。
藺古田  やだよ。
八木下  途中でゴミ拾ってもいいから。いやむしろゴミを拾おう。
藺古田  だって競技なんだろ。
八木下  山に登ろう。山はいいよ。かるたも取る。新聞も作る。
高山   道具とかあるの?
八木下  ある。昔は部員もいっぱいいて、県で優勝とかしてたんだって。
花輪   へえ、登山の道具ってどんなの?
八木下  見る?
花輪   見る見る。
八木下  じゃ出すね。

 八木下、洗いざらい出してくる。

藺古田  あーあ。
花輪   すごいね。
藺古田  なんか行く流れになった。
高山   しょうがないじゃん。
藺古田  新聞作れるからでしょ。
花輪   なんで新聞なんか作りたいの?
高山   おまえそこ触っちゃダメだろ!
花輪   え?
高山   なぜ新聞かってそれ訊くのよそうって決めたじゃん。
中島   うん、なぜ登山か、とか。
藺古田  それ、ダメだよ。
花輪   そうだっけ?
高山   それダメだよ。

 八木下、椅子を出す。

八木下  ほらほら椅子だよ。この教室には椅子もないんだから。
花輪   わーい。

 花輪、椅子に座る。

花輪   ねえねえなんか気持ちいいよ。
八木下  ほら。

 八木下、テントを投げる。
 広がるテント。

花輪   おー。

 テントにくいつく花輪。

花輪   すげ。ほらすっげ。

 テントに入る花輪。

八木下  こういうのもあるよ。

 リュック、調理用品など出してくる八木下。

八木下  どうでしょう。

 くいつく花輪。

中島   あたしも出していい?
藺古田  いいけど。

 中島、戸棚からかるたを出す。

高山   あたしも。

 高山、戸棚から新聞を出す。

藺古田  こっちは地味だな。ねえ。

  花輪はごそごそ何かしている。

中島  えーと、他の取り札と一文字目がだぶってないのが「むすめふさほせ」で始まる歌。
藺古田  へえ。
中島   それは一文字目で取れる。
藺古田  なるほど。
中島   これが読み札。
藺古田  へえ。
中島   これが取り札。
藺古田  へえ。
高山   ねえねえ、これ今までの新聞。
藺古田  うん。
高山   ほら、こうやって大見出しのあと、小見出しをつける。
藺古田  うん。
高山   こういうふうに段を組むわけ。
藺古田  わかるけど両方とも地味だなあ。
八木下  服もあるけど着る?
藺古田  服はいいよ。
八木下  そう言わないで見て。
藺古田  じゃ、まあ見るだけ。
八木下  ほら帽子。

 八木下、帽子をかぶる。

藺古田  いいじゃん。
八木下  藺古田もほら。
藺古田  いいよあたしは。
八木下  いえいえ。

 八木下、藺古田に帽子をかぶせる。

八木下  かわいー!(中島・高山に)ねえ!
高山   うん。
中島   ほんと。
藺古田  そう?
八木下  それから、これ。

 八木下、登山用のズボンをはく。

藺古田  着替えなくていいよ。
八木下  まあまあ。
高山   いいじゃん。
中島  こういうので行くんだ。
八木下  ほら行く気になってきた。
藺古田  いや、そういうわけでは。
中島   大変だよね。荷物とかすごいんでしょ。
八木下  まあ、20キロくらいかな。
中島   20キロ!一人で?
八木下  そうだよ。
中島   20キロ持てないよ。
八木下  持てるよ。
中島   持てないよ、ねえ高山。
高山   さあ?
藺古田  持てる持てないじゃない!持ちたくない!
花輪   焼けたよ!
4人   え!
花輪   ほら来て!

 花輪がグリルを出して火をおこしている。

高山   おまえ何してる!
花輪   早く来ないと食べちゃうぞお。
八木下  お前、火をおこした?
花輪   うん。
高山   なぜ肉がある!
花輪   さっき買い物に行ってた。今日の夕食だこれ、うちの。
中島   夕食焼いちゃダメだろ。
花輪   どうせおれが食うんだからいつ焼いてもいいだろ。
八木下  勝手に使うなよ!
花輪   いいじゃん、同じ登山部じゃん。
高山   教室で火をおこすなよ!
花輪   でもおいしいよ。
高山   おいしくてもダメだよ。
花輪   BBQはキライですか?
高山   BBQは好きだよ。でもそういう問題じゃないでしょ。
花輪   すきならやろうよやろうよB.B.Q。
藺古田  なんでバーベキューって言わないんだ?

 花輪、みんなに箸と皿を配る。

花輪   飲み物なくてごめんね。はい、どうぞ。
中島   食べてみるか。
高山   中島!
八木下  おいしそうだし。
藺古田  食べるか。
高山   藺古田。
藺古田  ここまで来たらもう、どうでもいい。
高山   しょうがないなあ。

 みんなで食べ出す。

八木下  おまえんち、いつもこんな肉食うの?
花輪   うん。
中島   こいつのうち、金持ちだよ。
藺古田  それでいろいろ補うわけか。
花輪   なんか、ごめんね。
藺古田  その反応、間違ってると思う。
花輪   藺古田おまえね、一度言おうと思ってたけどね、いつも自分だけまともだみたいなね、あ、それ焼けてる。
藺古田  なんだよ、最後まで言えよ。
花輪   藺古田おまえね、一度言おうと思ってたけどね、いつも自分だけ…
藺古田  最初からか!
花輪   あ、それ焼けてる。
藺古田  ダメ出しはいいのか。
花輪   食ってるときはやめてやる。
中島   うまいなあ。
高山   うん。
八木下  教室でするB.B.Qはうまいね。
花輪   なぜB.B.Qはさあ、外でやるんだろうね。
中島   そういえばそうだね。
藺古田  なんでバーベキューって言わないんだ?
高山   やっぱあれじゃない?煙が出るからかな。
八木下  そういえばちょっと煙いね。
藺古田  え?うん。
花輪 いいんじゃない、うまければ。
中島   ま、いいか、うまければ。
花輪   あー、いいなあ。みんなでB.B.Q。誰にも邪魔されたくないなあ。

 SE・非常ベル

八木下  また点検?
中島   うるさいなあ。

 鳴り響く非常ベル
 この後断続的に。

高山   おい!
中島   なに?
高山   これじゃないか!
中島   何が!

 高山、天井を指す。

高山   これ!
花輪   イチバーン!
高山   違う!
藺古田   こいつはほっとけ!
高山   煙に反応したんだ!
八木下  やべ!
高山   全員廃部になるぞ!

 慌てる5人。

藺古田  (グリルを指し)これを持ち出せ!

 グリルを持って出ようとする。

八木下  倒すな!
花輪   そうだまだ肉がある!
藺古田  ちがーう!
中島   水かけよう!
藺古田  ダメ!煙が出る!
八木下  とにかく持っていこう!
高山   どうする?ねえどうする?
花輪   こいつしっかりしてるようでパニックになりやすいな。
藺古田  分析してないで片付けろ!
高山   ねえねえこのたれどうする?
藺古田  どうでもいい!
花輪   誰か来る!
八木下  隠れろ!

 全員、テントの中に。
 非常ベルはやんでいる。

花輪   せまいよ!
八木下  しーっ!

 しばらくごそごそしているが静かになる。
 沈黙。

 SE・非常ベル
 悲鳴。
 非常ベル、すぐ消える。

八木下  行ったか?

 入り口のファスナーから首を出す八木下。

八木下  誰もいないようだけど。
中島   ほんと?
花輪 いるんじゃないのか?

 テント動き出す。

八木下  あ、おい、やめろ!

 動き回るテント。

八木下  破れるって、古いんだって!

 入り口から八木下の首だけ出して動き回るテント。

中島   なんだか熱いよ!
八木下  テントの中にグリルを入れるから!
高山   煙いよ!
中島   あ、こいつまだ食ってる!
花輪   だって片付けないと。
藺古田  炭も食っちまえ!
花輪   みんなー!
4人   何だー!
花輪   炭は食えないぞ!
4人   当たり前だー!
花輪   だいたいこれはガスだ!
高山   燃えてるって!

 さらに動き回るテント。
 テントの底が抜け、みんな立ち上がる。
 駆け回る。

花輪   消したからもう消した!

 校内放送

声    お知らせします。

 テント、止まる。

声    ただいまの非常ベルは間違いです。えーと、ごめ。

 校内放送、途中で切れる。

八木下  これに反応したんじゃないのかな。

 全員、出てくる。

八木下  高山。
高山   なに?
八木下  これ、煙探知機?
高山   うん。
八木下  これはスピーカー!
高山   ええっ!

 校内放送。

声    まもなく下校時間です。生徒は消灯、戸締まりをして、校舎の外に出。

 途中で切れる。

花輪   さ、帰るか!
中島  大会は?
八木下  そうだよ。
高山   新聞…。
八木下  ねえ、このたれどうする?ね、どうする。
中島   何?
八木下  高山の、まね。
高山   いいじゃん。
八木下  あのねえ、この人ねえ。
中島   何?
八木下  いまだにねえ。
中島   何だよ。
八木下  ボタンなめてるの。
中島   何それ。

 高山、後ろを向く。

八木下  ねえ。
中島   どういうこと?
八木下  ボタン。なめてる。
中島   なめるためのボタン、いつも持ってるの。ねえ。

 高山、振り返る。

高山   (開き直って)そうだよ!
中島   えー、わかんない。どういうこと、ボタンなめるって。
八木下  なんか落ち着くんだって。
高山   どうもなんか、くせになっちゃって。
中島   変だよ、ボタンなめるって聞いたことないよ。
高山   そうだよね。
中島   いつもなめてるの?
八木下  なめる用のボタンなんだって。
中島   口寂しいならガムとかにすればいいのに。
高山   そうだよね。
藺古田  ま、いいじゃん。ボタンなめたって。
中島   変だって。ねえ。(中島、八木下に同意を求める。)

 花輪、なにかごそごそしている。

花輪   みんなー!見て見てー!
藺古田  何だ!
花輪   クリップです。

 クリップを見せる。

藺古田  それが何。
花輪   藺古田、つっこむところが違うよ。

 クリップを曲げる。

花輪   こうして、伸ばしてから曲げてね。
藺古田  なんだ?

 4人、不審がる。

花輪   ほら、コンセントだよ。

 タップを手に取り、コンセントを指す。

花輪   はい!

 火花が飛ぶ。
 照明落ちる。

八木下  何だよ!
高山   停電?

 驚く4人。

花輪   うおおお、びっくりした。でも、やっぱりこうなったか。
高山   ショート、した?
藺古田  うん。

 うっすらとグラウンドの照明が入る。

中島   なにしたんだ?
花輪   コンセントにクリップつっこんだ。
八木下  そんなことしたらショートするじゃん!
花輪   したよ。

 野球部の練習の声。

高山   どうしたの花輪。
花輪   いやいや。
藺古田  びっくりしたな。
八木下  そこは藺古田つっこまないのか?
藺古田  え?
花輪   いいんだよな。
藺古田  まあな。
八木下  先生たち、来るぞ。
藺古田  気がつかないかも。
中島   まさか。

 高山、ランタンに灯を入れる。
 ほんのり明るくなる。

花輪   いいんだよ、ボタンくらいなめたって!
八木下  なに?
花輪   ボタンなめたっていいんだって!
八木下  ボタンの話?
中島   ボタン関係ないって。先生来たらどうする!
花輪   ボタンなめたっていいんだって!

 全員黙り込む

 野球部の練習の声。

藺古田  そうだよね。

 みんな黙っている。

藺古田  いいんじゃない?ボタンなめたって。
花輪   そうだよ。

 校内放送

声    まもなく学校を消灯・施錠します。残っている生徒は、いないと思いますが、すぐに下校しなさい。いないと思いますが。
八木下  どうする?
花輪   少なくとももうすぐ消灯で、停電がばれないと思う。
藺古田  おお。
中島  つっこめよ!
藺古田  どうして?
中島   いや、なんか。
藺古田  高山。

 輪から離れている高山を呼ぶ。

高山   うん。
藺古田  来いよ。
花輪  微妙だな。ボタンなめるって。
高山   うん。
中島   なんでなめるかわからない。
花輪   だからいいって。
藺古田  かるた好きなのもわからない。
中島   なんだよ!
花輪   いいじゃん、わからなくて。
高山   なんか、なめるんだよね。
藺古田  いいよ。別に。
中島   かるたとボタンいっしょにされても。
花輪   たぶん同じじゃないのかなあ。
中島   同じなわけないじゃん。
藺古田  同じかもよ。
八木下  そうかなあ。
藺古田  登山も同じかも。
八木下  何だそれ。
花輪   同じ同じ。みんな同じ。
高山   おかしいでしょ。
藺古田  まあおかしいと言えばおかしいんだが。
花輪   いいよ、おかしくても。
藺古田  おまえが言うな、でもほんとなんだよね。
花輪   おかしくないって。重い荷物持って山登る方がおかしいって。
八木下  おまえはなんなんだよ!
花輪   何が!
中島   そうだよ!
花輪   だから何が!
中島   おかしいよ!
花輪   おかしいってあれか、「ふふふふふー、ふふふふふふふふ」ってあれか?
中島   いいじゃん。
花輪   いいよ。じゃ、ボタンのなにがおかしいよ。なんだよ。
中島   何がって、なんか、その。
八木下  じゃ、聞くけどなぜショートなんだよ。
花輪   ショート?
藺古田  正義の味方、スパークマン。
花輪   おれのこと?
藺古田  電撃戦隊スパークマン。コンセントを見るとショートさせる。
花輪   おれ?
藺古田  うん。
花輪   女でマンはなあ。
藺古田  あ、そこですか。

 花輪、ポーズを考える。

花輪   電撃戦隊スパークマン!

 藺古田、ポーズをとる。

藺古田  スパークピンク!
花輪   おまえピンクかよ!
藺古田  おまえにレッドやるよ。
花輪   おれイエローがいいよ。
藺古田  イエローかよ!おまえレッドだよ。
花輪   お、ちょうど5人じゃん。
中島  なんだよ。
八木下  藺古田、違うだろそれ。
高山   あの、もう学校閉まるよ。
藺古田  ええー。
高山   なに?
藺古田  スパークマンやろうよ。
高山   だって。
藺古田  ピンクやるよ。
高山   ピンクくれるの?
八木下  おい!
中島   薄暗い中で何やってるんだ?
高山   一回、一回やろ、スパークマン。
八木下  何言ってんの、高山。
高山   一回、一回。
中島   どうしたの?
高山   いいからさあ。
中島   やったらかるたする?
高山   するする。
八木下  山登る?
高山   登る登る。
藺古田  スパークマンと登山引き替えでいいのか?
高山   いい。
八木下  じゃ、しょうがない。やるか。
花輪   行くよ!
高山   みんなでポーズね。

 全員、ランタンの下に集まる。

花輪   暗いから電気付けない?
高山   うん。
花輪   なんでわたしたち暗いところにいるの?
八木下  おまえがスパークさせたんだろ!
花輪   あ、そうか。
中島   おまえ忘れたのか?
花輪   ああ。あ!
藺古田  なに?
花輪   だからスパークマンか!

  皆、口々にあきれる。

花輪   なーんだ。さっきからスパークマンているのかよって思ってさあ。
高山   行くよ!せーの!
全員   電撃戦隊スパークマン!

 全員で決めポーズ。
 と、教室にだれかが入る様子。

山下   いないって、だれも。
大場   いや、なんか灯りが見えたんですけど。
山下 いるわけがない。

 あわてて、ランタンを消し、不要品の中に隠れる5人。
 見回りの教員、山下と大場が入ってくる。

山下   おーい、だれかいるか?

 沈黙

大場   灯りつけましょう。ここかな?あれ?
山下   大場先生?
大場   いや、つかないですって。
山下   どれどれ?あれ?
大場   ぱちぱちやってもつかないですよ。
山下   あんた、なんか、磁気かなんか出してるんじゃないの?
大場   物理の教員がわけわかんないこと言わないでくださいよ。
山下   なんだよ、ついてきてください、とか泣き声出してさ。
大場   怖かったんですよ。
山下   胎教に悪いてか。
大場   まあ。
山下   何ヶ月?
大場   4ヶ月。
山下   まだマタニティドレスは早いだろ。
大場   これマタニティじゃないですよ。
山下   そうなの?
大場   ふつうです。
山下   なんかさあ、大場は同士だと思っていたのに。
大場   何が。
山下   なんだか一人で先に結婚するし。
大場   一人じゃできませんよ。
山下   はやばや一人で子ども作るし。
大場   一人じゃできませんよ。
山下   なに?大場先生、結婚して子どもできると下(シモ)ですか!
大場   シモじゃないですよ!
山下   シモだろう!
大場   先輩は背が低いんだから黙っててくださいよ。
山下   背、関係ないだろ。
大場   そんなことより灯りつけてくださいよ。
山下   あ、そうか。ちょっと待ってて。

 山下、行こうとする。

大場   なに!
山下   そこの分電盤見るだけだよ。
大場   なんかまたそんな専門用語言って。
山下   廊下だよ廊下。

 山下、外に出る。

大場   先輩!
山下   待ってて!
大場   やだなあ。

 花輪、物音を立てる。

大場   ぎゃー!

 山下、戻ってくる。

山下   何?
大場   なんか誰かが!
山下   いないよだれも。生徒帰ったよ。
大場   先輩、車置いてきますよね。
山下   乗せてって。
大場   放送しましょうか。
山下   なんて。
大場   残留当番から連絡します。今日は先生方の忘年会になっています。
山下   生徒は、すぐに下校するように。
大場   なお、駅の北口、割烹「小梅」が会場、二次会は同じく北口シダックスとなっていますので、生徒は北口に近づかないように。
山下   ああ、言いてえ。放送してえ。大場放送してみろよ。
大場   できませんよ。先輩、早く灯りつけてください。

 山下、廊下に戻る。
 全員不要品の裏側に移動。(実際は不要品の横にいて先生からは見えない角度の設定)
 教室の灯りがつく。

大場   あ、ついた。

山下  戻る。

山下   ブレーカーが上がってた。
大場   なんかあったんですかね。
山下   見ろ、だれもいないじゃん。
大場   でも、だれか入った形跡ありますよ。なんかにおいませんか?
山下   生徒会が作業とかで使ってるよ。
大場   空き教室多いですからね。
山下   あたし、昔、自分のクラスこのホームルームだった。ひでえクラス。そのときは学年8クラスだよ。
大場   一気に減りましたからね。
山下   おかげで忙しくなったね。学校は活気がなくなるし。
大場   部活も減りますね。
山下   うちももうダメ。次の大会ぎりぎり。職員会議の、あの話だと減るね相当。

 二人、がらくたを振り返る。

大場   ここ、鍵かけたほうがいいですね。
山下   行こう。
大場   教頭、来ないらしいっすよ。
山下   あ、なんかヅラの具合が悪いんだって。
大場   言いつけますよ。
山下   ほんとに言うなよ。

 山下、灯りを消す。
 先生、出て行く。
 しばらくして出てくる5人。

八木下  ほんと、学校閉まるよ。
藺古田  帰るか。閉まらないうちに。
高山   帰ろう。
花輪   ええ!帰るの!
中島   帰るよ!
八木下  帰ろう。あのね。
高山   なに?
八木下  なんか、むりならいいからね。
高山   なに?
八木下  登山。
中島   え!
八木下  だってなんかむりに誘っても楽しくないし。
高山   うん。新聞もさあ、興味ない人は全然だろうしね。
中島   ええ!かるたには出てほしい!
花輪   あのさ!
藺古田  何。
花輪   いいじゃん、むりしない程度に出れば。
八木下  ええ!おまえ出てくれる気あるの?
花輪   あるよ。
八木下  そうなの?
花輪   な、藺古田。
藺古田  登山かあ。
八木下  楽しいんだけどね。
藺古田  好きなんだ。
八木下  うん。
花輪   中島は、やっぱ、かるたが好きなんだろ。
中島   好き、っていうか小さい頃からやってるからね。
八木下  あ、あたしもそう、楽しいし、そりゃ好きだけど、好きっていうか、やっぱやりたいんだよ。なんか。
高山   あたしのボタンと同じ。
中島   えー。ボタン?
高山   ごめん、新聞て言おうとした。
藺古田  ボタンもそうかも。
高山   いや、ボタンいいけど。なんかしないとならないような気がするんだな。
中島   まあ、好きも好きなんだけどね。
八木下  藺古田はボランティア、また行くの?
藺古田  うん。また土日。
八木下  今度なに?
藺古田  ふれあいコンサートの会場案内と楽屋係。
中島   へえ。
八木下  だれか誘わないの?
藺古田  無理矢理行くとボランティアじゃなくなる。
中島   あ、そうか。
八木下  ところでさあ。
高山   何?
八木下  花輪はなんだっけ?
高山   何が?
八木下  だから花輪は何部だっけ?

 藺古田、高山、驚く。

藺古田  忘れたの?

 八木下、思い出す。

八木下  あー!
中島   あたしもときどき忘れるんだよね。
花輪   いやあ、なんか、おかまいなく。
藺古田  それ間違ってるから。
八木下  そうだよ。おまえ生徒会長じゃん。
花輪   生徒会長におまえ言うな。
高山   おれたち生徒会役員だ。
藺古田  この学校大丈夫かな。
花輪   恐れ入りました。
高山   花輪。
花輪   何?
高山   どうして会長やろうと思ったの?
花輪   えー。なんか好きだから。
高山   何が。
花輪   えー。

 花輪、駆け出す。

高山   何!

 花輪、止まる。

花輪   いや、なんか、いいって。
中島   聞きたい。
八木下  何が好きだって?

 逃げ出す花輪

藺古田  あたし、知ってる。

 振り向く花輪

花輪   どうして!
藺古田  立ち会い演説会で言ってた。
花輪   そんなもん聞くなよ!
藺古田  聞くよ!
花輪   みんな聞いてねえよ!
藺古田  こいついいこと言ってやんの。
花輪   いいことなんか言ってねえって。
藺古田  言ったって。
花輪   言ってねえよ!
藺古田  みなさん、花輪さんの好きなものは。

 全員、興味津々。

藺古田  「人」です!

 全員、拍手。
 後ろを向く花輪。
 突然振り向き、手から蜘蛛の糸を出す花輪。

全員   なんだよ!
八木下  やっぱ、こいつおかしいよ!
花輪   もうひとつある。

 花輪、蜘蛛の糸を投げる。

 沈黙

花輪   投げた後むなしいな。
藺古田  こいつ褒められるのに慣れてないんだよ。
花輪   いいかおまえら。二度とおれを褒めるなよ。
八木下  でもなんで生徒会長なんだ?
花輪   なんでって言われてもなあ。
高山   なんでとか言わない約束だろ。
中島   そうだけどさ。
藺古田  なんでだろな。なんで生徒会長?
花輪   うん。
藺古田  なんで登山?
八木下  なんでかるた?
中島   なんでボタン?あ、ごめん、なんで新聞?
高山   なんでボランティア?

 沈黙

八木下  好きだからかな。

 音楽

花輪   好きとか、そういうことじゃなくて。
高山   うん。
藺古田  ねえ。
花輪   なんか、そういうことなんだろうな。

 沈黙

八木下  帰るか。
藺古田  大会どうする。
八木下  明日、かな。
中島   うん、明日。
高山   帰ろう。

 全員、顔を見合わせる。

全員   うん。

 全員退場。
 花輪、すぐ戻ってくる。

花輪   ねえこれもらっていい?

 退場
 幕

2007年



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