スクールゾーン ~杉浦契の創作ファンノベル~

せっかくの休日が潰されたな…そう思いつつ時計はお昼を過ぎた頃。

ベッドに横たわりながら特に意味もなくスマホでSNSを見ていたり動画を見ていたけれど、どうもパッとしないから早々に飽きた。

スマホ依存の世の中らしいが何が面白いのか全くわからない、おすすめやトレンドと言われたところで、隣の芝生は青く見えたところで、そこに私は関わらないからつまるところは、どうでもいい。

「あ~~~!!」

余計なこと考えるのは好きじゃない!そんな癇癪を仰向けで寝たまま両手でベッドを叩いた。見慣れた天井をしばらく眺めてからアイツ(横江)とのトーク履歴を再び開いていた。最後に残っているのは通話の記録。たった数分の会話だった。

――今日アイツと出かける約束したけど起きてるのか?

・・・念のため電話しとくか。

「あ~横江?今何してる?」

「げぇぢゃん゛、、ゲホゲホッ」

「え。横江もしかして、風邪?」

「大丈夫だよ、、はー。も少し待ってて、、、」

「いや、お前マジの風邪じゃん息遣い荒いじゃん」

「けーちゃん、、はー。はー。けーちゃん、、はー。」

少し弱々しい吐息がくすぐったくて耳に当ててたスマホをベッドに置いてスピーカーモードに切り替えた

「そんな調子じゃ今日出かけらんないだろ。いいよ。寝とけ」

「けーちゃんあたいやれるよ、できる子だよ、見捨てな…」

「あったかくして寝ろよ」


そんなやり取りから30分くらい経過して今に至る。

八手でも良いかとこの際思ったけど、トークをどう切り出したら良いかを考えてたら八手相手に悩むことが嫌になって辞めた。

ねーちゃんも居ないしな。三度天井を眺めてたら静かな部屋にカーテンも開いていないこの薄暗い部屋にたった一人。嫌な過去がフラッシュバックした。

突然ねーちゃんに拉致られて後ろから羽交い絞めにされながら『霊のビデオ』を流される拷問に等しい地獄を受けたこと。あれはズルい、何がこれから流れる映像をご覧になってからご自身に起こる霊障については一切の責任を負いません。だよ。

絶対に見てやるものかと一人で目を閉じ耳を塞いで日本列島全47都道府県を一心不乱に唱え続けて切り抜けた。


あ… 少し思い出しただけでも怖くなってきた。

こんなにここって静かだっけ。この天井ってこんなに近かったっけ。

カタッ

「ひょいぎょぉっ!?!?」

え???????????何の音?????????

・・・・・・・。

さっ!と起きてバッとカーテン開いてシャッと着替えて戸締りして

バイバイ!!!!


そんなこんなで杉浦契の弾丸のような早さでスタートした目的のない時間潰しが始まった。

うぅ。もう少し厚着してくれば良かった。

ポケットに手を入れて縮こまりながら歩いていた。

そういえば、この辺はあんまり歩いたことなかったな。そんなことを思いつつ登下校や駅への普段通る道とは違う道をこの際歩くことにした。

住宅街が並ぶ中に小さな公園があったり、こだわりが強そうなこじんまりとしたカフェが不意に出てきたり。見渡すと地元といえど知らない場所はそこかしこにあった。

「わ、なんだここ」

開けた駐車場に猫が数十匹は日向ぼっこをしている。
(ネコネコランドだ。)                                            前に横江が私の名前を付けてた猫もいるのかな…
あ。あんな憎たらしい目つきの猫もいるのか、愛されろよー。
と杉浦契はけーちゃんを横目に過ぎていった。

意外と新規開拓に夢中で散歩を続けているとふと。何か気配を感じて立ち止まった。前方にも後方にも目視する限りは人は見えないけれど、ちょうど建物と建物の間に細道が続いていてどうも気になってしまった。

「まぁちょっと覗いて帰ってくれば…」

澄んだ冬空の下、空気を吸い吐いた白い息は落ち着きを促す
入れば相も変わらず当然知らない場所で、今まで歩いてきた道も狭くはあったけれど車一台くらいは悠々と通れるものだったが、今は完全な路地裏で車どころか対抗から人が来れば確実にすれ違うまで立ち止まる必要だってあるかもしれない。

直感で気になる方へと歩いたけど別段何かある訳でもなく室外機のゴウゴウとした音が響いているだけであった。それにまだ明るいとはいえ怖くなった。怖じ気づきました。寒いのに若干汗をかいてきたから早々に引き返すことにした。

何もありませんでした。勘違いでした。すいませんでした。

ほぼ念仏のように小声で唱えながら踵を返そうとした瞬間。

「おや、珍しいね。誰かいるのかい」

「え゛っ」

思わず反射的に返事をしてしまった
両手で口を抑えるも声は聞こえてしまったらしく。

「よう来なさった。ちょいと話し相手になってくれるかい」

尚も動揺してたけど今一度聞くところ…おばあさんか?           こんな所に居るのが不気味だけど逃げるという選択をしなかった。
寧ろこんな所だから見てみようみたいな謎の好奇心で声のする方へと向かった。

おぉ… 思わず漏れた声はそのおばあさんの佇まい、というか構え全体に驚いた故だった。どこにでも居そうだけど実際には見たことない小さなテーブルに紫色の風呂敷を敷いて筒には幾つもの棒が入っており、そして薄水色のような水晶玉。極めつけは自分の身体を包むようなマントを表情が見えないくらい深々と被っていた。

(う、胡散臭い。)
第一印象で身じろぎ、その場を後にしようとしたら

「杉浦契ちゃん…かね。」

ピクッと背筋が伸びた。何で私の名前を…それだけで足を止めるのにも会話が始まるきっかけになるのにも十分だった。

「え。えぇとぉ…わ、わた、、私名前言いましたでしょうかぁあ…」

するとおばあさんは如何にも占い師らしく水晶玉に手を翳して

「見えるからね。」

「へっ、へぇぇぇぇぇ~。べべ、便利ですねぇ~一家に一台ほしいなぁ~」

「久しく知らない顔を見たから珍しさのあまりついつい話しかけてしまってね」

ビックリさせてごめんねとけたけた笑っていたけど、私は余裕なんてないし取り繕った口角をピクピクと上げるだけで精一杯だった。

「そうさね、新顔だし丁度暇を持て余していたからサービスで代金は要らないよ。その代わり…」

「ちょ、ちょっと待って!」

おばあさんが話をつける前に割って入った。                   

「私はたまたまここを通りすがっただけで直ぐにでもここから逃げます!」

「逃げる?」

あっ。つい言ってしまった。

「ここから離れます!すいませんでした!」


「何でも願いをひとつ叶えてあげるよ」


は?今なんて?
退散の一歩を踏み出す前にまたおばあさんの方を見るとニヒルに笑みを浮かべながらこの心の声を聞いていたかのように先程のセリフをもう一度。

「何でも願いをひとつ叶えてあげるよ」

と、ハッキリと言った。

「とは言っても神なんかじゃありゃせんから人並みの願いだがの。
ほれ、宝くじを当てたいだの知人の病を治したいだの…
恋愛が成就したいだの」

何で最後だけ含みを持たせたんだ。それに知人の病って横江の事か?
アイツは寝かしとけば治るだろ。

「どうだい?お嬢ちゃんにも願いのひとつやふたつあるだろ?」

ふたつは出来んがなと一人でウケている。
なんなんだこのおばあさん

そして、一頻り笑うと「そうそう、代金は要らんがあたしからも使いを頼んで良いかの」

話が進んでいる。一応内容を聞いてヤバい奴だったら逃げよ。
大丈夫、私は陸上部。私は陸上部。(※帰宅部)

「なぁに、難しいことは頼まんさ、あたしの使い魔の『ライ』を見つけてほしくてね」

十分難しくね。とは声に出さず。我慢した。
徐々に対話出来るくらいには慣れてきた。今は一方的におばあさんしか喋っていないけど。

「そう遠くには行けないようにはしてるから心配いらないさ。あたしも探したいが見ての通り歳でね。近くを歩き回るのにも重労働なんだよ」

い、行けない。って言わなかった?いま。

でも、確かにおばあさんが歩くのは大変そうだし偶然にも心当たりが私にはあった。

「ネコネコランド…。」

「何だい?それは」

また心を読まれた!!

「今のはお嬢ちゃんが言ったよ」

失言。


「ライ~ライ~」

かくして、願い事の云々よりおばあさんが困っていたから流石にそのまま見過ごせなかった。
ネコネコランドに戻る道中も物陰を注視したけど、それらしい猫は見当たらなかった。おばあさん曰く黒猫で嬢ちゃんなら見ればそれと分かる。とか言ってたけど私別に猫に詳しくはないんだけどな。

どうしたものかと壁際を伝いつつネコネコランドに居なかったら
いよいよどうしたものかと拱いていたら

「あ。」

さすが猫。いつの間にか招かれたのは私の方だった。

目の前に黒い猫。背中を向けて座ったままこちらを一瞥したら毛繕いを始めた。
成程、確かに黒猫なんて古今東西どこにでも居るだろうけど間違いなくあれはライだ。直感だけど空気感で伝わる。

「ライ~こっちおいで~チュールあるよ~」

こんなので本当に寄ってくるのか? (お腹空かせてるだろうからこれね。) とおばあさんに渡されたチュール片手にフリフリ揺らしながら誘ってみたけど興味がない様子で無愛想だしなんかムカつく。こいつ八手か?

はぁ、仕方ない。と保っていた距離を刺激しないように慎重に縮めようとにじり寄ると座っていたライが立ち上がってスタスタと歩き始めた。
この上更に走りだされると幾ら陸上部(※帰宅部)の私でも手に負えないというか足で追えないから一定の距離を保ちながら疲れた所をエサで釣ろうと考えていた。

猫は迷わず帰るとか聞いたことあるけど、このままだとあのおばあさんの家に帰るんじゃないかと思いながら様子を伺っていた。
すると少し先に車通りはあまりないけど交差点に差し掛かろうとして、
今は青だけどライが辿り着く頃には赤になりそうだから危ないよな…。

そう推察した時には身体は動いていた。
ライが交差点に到着する直前に間に割って入って

「おい、車が通るから危ないぞ」

ライは私の脚に行く手を阻まれた形になりこちらを見上げて

(ナー)と一言鳴いた。

程なくして青に変わり私が先行して歩き出すとライも続いて渡った。
そしてまた私を追い越してライは歩き続けた。危なっかしいくらい無頓着な猫だな。

そして、本当にそろそろ引き返さないと日も沈んできて暗くなるし、おばあさんからもかなり遠くなるしな。
さっきの交差点の感じから近づいて逃げることはなさそうだし抱きかかえて戻るか…大変そうだけど。
やれやれ。と気温も更に下がった中でまた大きく息を吐く。

準備体操もそこそこに、見よう見まねの如しクラウチングをセットしようとして現在、どちらの足を引き下げるか迷っていたらライが先に走り出した。

「あ!フライング!!」

・・・・・・ じゃっっねぇ!!!

ここで見失ったらお終いだ!とクラウチングの低い姿勢から走り出したけれど全然うまくいかなかった。
ギリギリ目視出来る範囲に捉えていたけど、帰宅部の私は時間の問題だった。(走って痛感しました。)

ライは軽快に走りながらとある場所で急に曲り入っていった。
私は両膝に手を置いて呼吸が整った後にその場所を見上げると。

そこは病院だった。

へーこんな所にも病院なんてあるんだな。と耽っていたらライは躊躇いなく真っ直ぐに病院の入り口に入ろうとしたので、いやいや。病院に動物はダメだろと枯れ果てた体力に最後の鞭を打って後を追ったが、先にライが入ってしまった。

もう走るだけでいっぱいいっぱいな私とは裏腹にライが構わず奥へと進むのでへとへとになりながら後を追いかけていた矢先に

「あのー… すいません。どういったご用件でしょうか?」

と受付の人に止められてしまった。

「あー。えっと。すいません。ここに猫が入ってしまって捕まえたら直ぐに帰りますので…」

えへえへと受付の人に言うと。
受付の人は困った様子で

「ね、こ?私は見かけてませんが…。」

へ?そんな訳はない。今、さっきまで私の前を歩いていたんだから

「い、いや確かに黒い猫が…本当に見てませんか?」

「はい、受付から出入り口の扉は見えますが。猫が入ってきたら寧ろ珍しいので直ぐに分かる筈ですけど。あぁ!血相を変えてどちらに?!」



ピンポーン。ピンポーン…

(あー。寝すぎてあっったま痛い。)

ピンポン ピンポン ピンポン ピンポン

ピンポン ピンポン ピンポン

(うるさいなぁ…)

ガチャ。

「お兄ちゃ…?

「よ゛こ゛え゛~~~!!!!!」

「にょえ~~~?????」

―数分後―

「えーっと。落ち着いた?はいこれ、あったかいミロ」

ティッシュ1箱使い切るんじゃないかというくらい尋常じゃなく鼻をかんでいるけーちゃん。手に取ったミロをひと口飲むと少し落ち着いたように見えて安心した。

「で、あの、その… けーちゃん今日なんかあった?」

あ、沈黙だ…。

「な、、、」

「な?」

「・・・な に も な゛か っ た・・・」

「三刀流!?あれ?けーちゃん??おーい、どこ見てるのー?けーちゃーん!虚無虚無けーちゃーんカムバック!!」

けーちゃんの目の前で身振り手振り、どさくさに紛れて頬っぺにチューもしたけど応答がなかった。

そして気付いたらスヤスヤと眠ってしまったのでベッドに慎重に丁寧に優しくけーちゃんに不備が無いか手作業で点検。最後にグッドスメルを補給してから移してあげた。

「ふー。けーちゃニウム充電完了。それにしても何であんなに取り乱してたんだろ…。ん?チュール??何でこんな所に。まぁ良いか捨てとこ」

ガサガサッと明日纏めて捨てる為に置いてあったゴミ袋にねじ込んだ。


そして数十分後

「んん、んぁ?」

「あ、けーちゃん起きた」

「何で私の眼前に横江がいるんだよ」

「けーちゃんの寝顔はあたしのものだから?」

「いや、鬱陶しい!邪魔だどけ!」

「うわっ!けーちゃん押さないでよ落ちる!」

「落とそうとしてるんだよ!」

ゴホッ!

「ゴホ?え、けーちゃんもしかして…風邪?」

「なんか、そう言われると…身体が重い気、ガハッ!ゴホッ!」

「けーちゃん。もうお家に帰ろうか」


―病院のとある一部屋―

モゾモゾッ
(ナー)

「あれ?ライこんな所にどうやって来たんだよ」

(ナー、ナー)

「ごめんな、俺何処か身体が悪いみたいで暫くここで休まないといけなくなっちゃったから、お前の面倒を見てやれないんだよ」

(ナー)

「心配すんなって。帰ったらお前の大好きな煮干したくさん食わしてやるから父ちゃんと母ちゃんの言う事聞いとけな… じゃあ、ふぁー。俺もう、、眠くなって…。」


「お嬢ちゃん、ありがとね。ライはあの男の子を探そうとしてたら交差点の信号が分からず運悪く車に轢かれてしまってね。あれからずうっと自分の家から交差点までを行っては戻されての繰り返しだった。
でも、お嬢ちゃんが無事に渡らせてあげたおかげでライはやっと愛してくれた飼い主に会えたよ。本当にありがとう。」

そう言っておばあさんは夜空を見上げた。                            暗いけど、どこまでも透き通った雲一つない夜空を。





―次の日―


その後、しっかり風邪を引いた杉浦契。                             その後、しっかり移された横江礼。


「えーっと。ってことは今日は杉浦と横江が休みか」

クラスメイト一同

(何だアイツら) 




【あとがき】


初めましてユーと申します。                            こうやって自分が執筆したのが不特定多数の人に見られるような大海原に投げ込まれるのは初めてで感覚的にはそれこそ、海に流すボトルメール感覚ですね。目に触れることの方が奇跡レベルです。

本編では漫画『スクールゾーン』で登場する杉浦契をメインに常にペアである横江礼とは離れた所で面白いものが書けたらなという考えから始まりました。

本来の面白さや尊さ120%成分は是非、原作漫画で堪能していただければ
そして何を隠そう私はけーちゃんが大好きなのですが、如何せん絵はからっきし技術も無く、とは言っても執筆も素人ながら好き勝手妄想した世界を少しでもノベル風に落とし込めていたら良いなと思っています。

原作には干渉しないように登場人物を匿名にしたりライという猫は登場しますがググればネタがわかるかなと。
他にも原作読んでいたらわかるようなネタも入れてみたので楽しんでいただけたら幸いです。

最後に、原作者様サイドにご迷惑だったり怒られるようでしたら即刻消す準備だけはしているので遠慮なく申し付けください。
私自身は楽しく書かせて頂きました。また少しでも反響が伝われば書きたいです!







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