『すべての夜を思いだす』インタビュー(前半) 清原惟監督・インタビュアー月永理絵さんーー映画をつくるために視点を選ぶというより、私たち自身がここにいることから映画の視点を見つけていく。

こんにちは。本日は『すべての夜を思いだす』本作監督、清原惟さんと月永理絵さんのインタビュー対談を前後半に分けて公開します。本日は前半部分になります。企画の成り立ちから、撮影手法や視点、音響などについてお話されています。

インタビュアーは月永理絵さんです。このインタビューは2023年12月1日、渋谷にて行われました。

月永理絵さんプロフィール
エディター&ライター。個人冊子『映画酒場』の発行人、映画と酒の小雑誌『映画横丁』の編集人。『朝日新聞』 『週刊文春』『CREA.web』『りんご大学』『CINEMORE』他にて映画評やコラムを執筆。書籍や映画パンフレットの編集などをしています。
https://twitter.com/eiga_sakaba

清原 惟さんプロフィール
1992年生まれ、東京都出身。東京藝術大学大学院の修了制作作品 『わたしたちの家』がPFFアワード2017にてグランプリを受賞、ベルリン映画祭フォーラム部門での上映を皮切りに、18の海外映画祭で上映。国内でも劇場公開され、大きな話題を呼ぶ。 2014年に『暁の石』、2015年には『ひとつのバガテル』でも入選している。第26回PFFスカラシップの権利を獲得して制作した本作『すべての夜を思いだす』が、商業映画デビューとなる。


――まずは、前作『わたしたちの家』から本作に至るまでの経緯を教えていただけますか。

清原:『わたしたちの家』をつくったあとに、PFFスカラシップに応募してこの企画が通ったんですが、実は当初考えていた物語は今とはかなり違う内容でした。世代の異なる三人の女性の話という点は同じですが、舞台は一軒のホテルで、宿泊客や従業員などそれぞれにまったく別の形で過ごす女性たちの一日を描く、という話でした。前作では一軒の家を舞台に二つのパラレルな世界を描いたので、今度はより大きな場所を使うことで、パラレル度具合をより複雑なものにしてみたかったんです。
 ただ、実際にロケハンを始めてみると、限られた予算のなかで理想的なホテルを見つけるのは想像以上に難しいと気付かされました。そうしているうちに、今度はコロナ禍が訪れました。感染が拡大するなかでロケハンに行くのが難しくなったうえに、観光業であるホテルはコロナ禍で大きな打撃を受けていた。私が当初考えていた話は、閉業を迎えるホテルの最後の一日を描くもので、今それを描くならコロナのことを踏まえずには撮れない。そうした製作上の困難がいろいろあり、これは企画を変えるしかないと、もう一度初めから考え直すことになりました。その後多摩ニュータウンを舞台に考えた話があって、そこで兵藤公美さん、大場みなみさん、見上愛さん、という三人の主演が決まりました。ただこれも諸事情で中止となり、舞台と主演三人をもとにまた企画を立て直して、と進めるうちに、ようやく今の形で撮ることが決まった、というのがこれまでの経緯です。

――今の企画になるまでに、企画は二転三転されたんですね。

清原:ただ、その間もタイトルはずっと『すべての夜を思いだす』で変わらなかったんです。世代の違う三人の女性たちが触れ合うようで触れ合わない、という話の構造も残っていました。話自体は大きく変わったけれど、作品の根幹はずっとつながっていたのかなという気がします。

――今の映画の舞台として登場する街は多摩ニュータウンですよね。

清原 はい、今回は多摩ニュータウンという街自体をひとつの空間として撮りたいと考えて、その中でもわりと初期に造成されたエリアを使っています。ここは自分が幼稚園くらいのときに住んでいた街で、私にとって原風景的な場所でもあるのかもしれません。あとはやはりコロナ禍を経験してから、外に出たい気持ちが大きくなってきたように思います。実際に撮影するときも狭い室内より外の方が安心できるし、街へと出ていって、散歩をするように撮影をしたいという思いが強くありました。

――外の空間を撮るうえで、カメラの置き方や対象との距離の置き方も大きく変わっていったんでしょうか?

清原 それは変わりましたね。『わたしたちの家』のときは、室内でカメラが置ける場所が限られてしまうことを逆手にとったアプローチが多かったけれど、外に出てみると、どこにでもカメラを置けるし、どんな距離感で見ることもできる。無限の可能性が出てくるんです。前作が家にあわせた視点だったとすれば、今回は人の視点という要素が重要になるなと気づきました。
 今回、ロケハンと言いながらほとんど散歩みたいにみんなで街を歩く時間がたくさんあったのですが、そこで撮影監督の飯岡幸子さんが撮ってくれた写真がどれも本当に素晴らしくて、ああ、この人が見ている世界を見たいなと思えました。映画をつくるために視点を選ぶというより、私たち自身がここにいることから映画の視点を見つけていく。今回の映画はそんなふうにつくっていったような気がします。

――清原さんだけでなく、飯岡さんの視点もこの映画の大きな要素になったわけですね。

清原:同様に、音響の黄永昌さんとの作業も映画にとって大きなことでした。黄さんは、撮影の合間に気づくといつもふっと姿が消えていて、その間にみんなの見えない場所で素材となる音を録音していました。この映画には、そうやって黄さんが集めた街のいろんな音が積み重ねられていると思います。

ーー後半に続く


補足

飯岡幸子さんは、濱口竜介監督の『偶然と想像』や現在公開中の杉田協士監督『彼方のうた』など、様々な作品の撮影を行っています。

また音響を担当した黄永昌さんも同様に『彼方のうた』、2023年に上映され大きな話題となった『王国(あるいはその家について)』などの音響を行いました。

後半は、多摩ニュータウンにおける「死」を町の施設と共に論じたり、清原さん自身が体験した偽造された記憶についてなどです。ぜひとも楽しみにお待ちください。


出演:兵藤公美 大場みなみ 見上 愛
遊屋慎太郎 能島瑞穂 内田紅甘 奥野 匡 川隅奈保子 中澤敦子
佐藤 駿 滝口悠生 高山玲子 橋本和加子 山田海人
小池 波 渡辺武彦 林田一高 音道あいり 松本祐華

第26回PFFスカラシップ作品  
製作:矢内 廣、堀 義貴、佐藤直樹 
プロデューサー:天野真弓
ラインプロデューサー:仙田麻子
撮影:飯岡幸子
照明:秋山恵二郎
音響:黄 永昌
美術:井上心平
編集:山崎 梓

音楽:ジョンのサン&ASUNA
ダンス音楽:mado&supertotes、E.S.V
振付:坂藤加菜
写真:黑田菜月
グラフィックデザイン:石塚 俊
制作担当:田中佐知彦 半田雅也
衣裳:田口 慧
ヘアメイク:大宅理絵
助監督:登り山智志

監督応援:太田達成
監督助手:岩﨑敢志
撮影助手:村上拓也
照明助手:平谷里紗
美術助手:庄司桃子
美術助手:岡本まりの
衣裳助手:中村祐実
制作進行:山口真凛
制作応援:小川萌優里
制作デスク:鈴木里実
デジタルマネージメント:望月龍太
ロケーションコーディネーター:柴田孝司
車輛部:多田義行

撮影応援:西村果歩
照明応援:本間真優
美術応援:登り山珠穂
衣裳応援:松岡里菜
メイク応援:桑原里奈
スタジオエンジニア:大野 誠
カラーグレーディングオンライン編集:上野芳弘
オンライン編集:野間 実
デジタルシネママスタリング:深野光洋 高津戸寿和
CG合成:細沼孝之
ポスプロコーディネー:中島 隆
タイトル制作:津田輝王 関口里織

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