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3人問答

哲学者「私が考えなくてはいけないことというのは、なんだろうか?」
社長「はあ、そんなことも決まっていないんですか。学者というのは。売り上げのことだったり、採用人数のことだったり、株主説明会の準備もあって私は忙しいんですがね」
放蕩息子「女のこと。それから、今日の酒はどこで飲むかということだよ。それ以外に何かあるか?」
哲学者「普遍的なことについて考えなければならぬ。お前たちが欲しているものの、その奥にある本当のものを」
社長「はあ、ほんとうのもの...。私にとって本当のものとは株券ですよ。そして、経常利益です。そして、偽物であって欲しいが、税務署です」
放蕩息子「俺にとっての本物は、酔った時の景色さ。最高にハイ!って状態になって、何したって楽しいのさ。おっさん達も一緒にビートに合わせて踊ろうぜ。「本当の」景色が見えてくるぜ〜」
社長「おっさんて君、君20代後半くらいだろ?俺はまだ30なんだけど...。そんなに違わないのに、親御さん大変だなあ」
放蕩息子「あれ、そうだべ!?俺は29だからほとんど変わらんなあ」
哲学者「そうか、本当のものとはお前達にとって、最も強調された部分なのだな。では、人生にとって最も強調されるもの。放蕩の酒、社長の財産、うーむ、「快楽」だろうか?」
放蕩息子「いやいや、舐めてもらっちゃ困るよ。哲学のおっさん。俺だってねえ、酒をプライド持って飲んでるのよ。わかるかい?周りの子が7個は下で構成された飲み会に行って、終始浮き続ける気持ちが?俺は意外とそういうの耐えて行ってるのよ。快楽ってわけじゃないぜ?」
社長「そんな思いするなら、行かなければいいのに...。ところで、私も財産を眺めて楽しむようなタイプではないですね。とにかく次の投資に回しますし、社員に多く還元できるような経営を心掛けていますからね。正直言って、財産目当てならさっさと社長引退してますよ」
哲学者「ふーむ、となると、快楽と苦痛、だろうか。ところで、君たちは何か悩みはないかね?」
社長「悩み、ですか。そうですね、悩みは尽きませんが、特に最近は娘がね。品行方正、名門私立に入れたまではよかったんですが、すっかりグレてしまいまして。今では金髪に染めて他校の男と付き合って朝まで帰ってこないこともしばしばですよ。はぁ...まったく」
放蕩息子「お、いいジャーン、娘さん。ハッピーなんだろ?それが一番さ。俺はさあ、親がそろそろまともに働けって、親のグループの子会社をいろいろ勧めてくるわけ。俺がスーツ着てるなんて想像できる?そんな決まりきった人生送るなら死んでやるね!」
社長「君、うちの会社じゃ絶対に採用しないな...。働かせてくれるなんて、優しい親御さんじゃないか。でも、私からすれば毎晩飲み歩く方がよほど辛い。全く社会に貢献していないし、年々酒を飲める量は減っていくだろう?」
哲学者「当人にとっての悩みが、ある者にとっての祝福である、か。どうやら私が考えるべきことは、奥にあるそのもの、本当のもの、つまり「物自体」ではなかったようだ。むしろ、どこからの立場でものを見るか、どんな生活を為しているのか。そんな、人間の中にこそ、私の考えることがあったようだ。これを「共同主観」と名付けよう。そうであるならば、私はそろそろ行かなければならない」
社長「どこへ行かれるんですか?大学?」
放蕩息子「いやいや、酒場だろ」
哲学者「知の宝庫、嘆きの壁へ」
2人(ああ、哲学者っていうのは、本当に視野が狭いなあ)

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