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「スーパーマリオ」って、これ、筋トレだよな。~スーパーマリオブラザーズ35周年に寄せて

さて、今年の書初めは何を書こうか。

我が家では毎年正月三が日に書初めをする。息子が小学校で提出を求められる書初めがきっかけで、家族全員で書初めをするようになった。

各々が今年の目標を書くのだが、「昨年の目標を達成できないと、今年も同じ目標を書かなければならない」独自のルールがある。

「今年の書初めは何を書こうか」ということは、つまり昨年の目標を達成した、ということだ。

僕が昨年掲げた目標は「60キロ台」だった。実は、これを達成するのに3年かかったのだ。

1年目、「筋トレをする」
結局、2週間坊主で終わった。

2年目、「やせる!」
「ほら1キロ痩せてるよ」と、78キロだった体重が77キロになったと主張したが却下された。

そして、昨年の目標となる。目標を具体化することで自分を追い込んでみたわけだ。

2年間も「やせること」を目標にしている自分に嫌気が差したのもあるが、これにはバスケットボールを再開したことが大きい。跳んで、走って、止まって跳んで。バスケは歳を重ねるごとに拷問のスポーツとなる。40歳を目前にして「またバスケやらないか」と同級生からチーム加入の誘いを受けたのだ。

重い腰をあげ、いよいよ練習に参加した初日、僕は肉離れを起こした。

僕は結婚をして体重計が60キロの目盛りを超えると、そこからは子どもの成長の如く、気づくと65キロに、気づくと70キロ台になっていた。70キロ台の国境を超えるのはどういうわけか簡単だ。だが、60キロ台の故郷へ帰るの道は想像以上に険しい。それは過去2年の経験で分かっていた。それでも、今年こそはっ!

昨年1月3日、1年で10キロを落とす「60キロ台」への挑戦がこうして始まった。

* * *

本格的に筋トレをはじめた僕は、ついにプロテインを摂取する。ついに、だ。プロテインは違法薬物のように怪しい飲み物だと思っていた。これを飲むと数日でムキムキになるんだと。もちろんそんなことはなく、プロテインは食事だけでは足りないタンパク質を補うものでしかなかったし、肉体改造には必須アイテムだと分かった。

それからは筋トレの後にプロテインを飲み、1日または2日カラダを休めながらも、プロテインだけは朝晩と飲んだ。これを週2回のペースで続け、半年たったくらいだろうか、バスケの練習後に乗った体重計が69キロを示した。


体重が60キロ台と70キロ台の国境を行き来できるようになったころ、テレビコマーシャルでスーパーマリオが35周年であることを知る。

「スーパーマリオ」って、これ、筋トレだよな。

ふと、そんなことを思った。僕にはあの世界観がどうにも筋トレに見えてきたのだ。

たとえば、「ブロック」。マリオはブロックを壊す。ブロックを壊していくと、たまにそこから「スーパーキノコ」が現れる。そのキノコを食べるとマリオは大きくなり、「でかマリオ」となる。

ブロックを破壊し、キノコを食べ、でかマリオになる。この一連がプロテインを飲んで筋肉が徐々に大きくなる自分の姿と重なった。

筋トレはこんな破壊と成長の繰り返しである。マリオがブロックを壊すように、筋トレをすることで筋肉を酷使し、壊す。そして、キノコでマリオが大きくなるように、破壊された筋肉はプロテインを栄養に大きく生まれ変わっていく。

こうなると、マリオは誤って敵に触れてしまったとしても、1度ではやられない強さを身にまとう。僕も気づくと、でかマリオなっていた。ウォーミングアップのドリブルシュートで1試合終えたほどの疲れを感じていた自分が、チームの中で1番、2番を競うほどに動けるようになっていた。

では「コイン」はどうだ。これは体重だな。ステージにちりばめられているコインを最初はやっきになって集めたことだろう。だが、ステージを進めていくとコインを見逃しても気にならなくなる。それよりもステージクリアの達成感を得るために、とにかくマリオを前へ前へと進めるようになる。

体重もそうだった。はじめは体重計ばかりに乗っていた。しかし、筋トレをやり込むほど体重は気にならなくなる。なぜなら、ここまでくると引き締まっていくカラダを目で見て感じられるからだ。体重計より筋肉を鏡で見ていた方が断然気持ちよくなる。


ところで、今回僕が筋トレを長く続けることができたのは、なぜだと思う? 決意が堅かったからか? いや、違う。「ファイアマリオ」になることを覚えたからだ。

ファイアマリオになるためには、でかマリオ状態でブロックの中から「ファイアフラワー」を見つけなければならない。ファイアマリオになると、吐き出す火の玉で敵を倒すことができる。これにより遠くの敵も倒すことが可能となり、マリオの進むべき道がグっと開かれてくる。

僕のファイアフラワーは「NTC」だった。

僕の筋トレはNTCと出会うことで加速した。Nike training club、略称「NTC」。スマホアプリだ。トレーニングメニューを音声でリードしてくれる。さらには、トレーニング中「あともう少しです。がんばってください!」と応援してくれる。「もう無理。もうできない」と思う絶妙なタイミングでそんな応援を入れてくれるのだ。トレーナーが隣に立っていてくれる感覚だった。

僕はNTCによって用意されたメニューを、ただただ信じ、ひたすらに前に前に進んだ。結果、カラダからどんどん筋肉が浮き上がり、力がみなぎっていった。今ならきっとあのブロックさえも壊せるんじゃないかとさえ思った。


さぁ、やっとクッパ城に到着した。

筋トレにおいてもボスがいる。やはり、ボスは強い。だから、筋トレが長続きすることがない。筋トレにおけるボスは何だ。自分自身だ。

「今日は腰がまだ痛いからやめとこ」

「明日は時間ないからやめとこ」

「もうそこでやめてもいいんじゃないか」

クッパ城の先に待ち構えているクッパが炎を吐き出してマリオを陥れようとするように、自分の中のクッパがそう甘い言葉を吐き出してくる。改めて見た初期のクッパは笑っているように見えた。吐き出された炎も、そんな甘い言葉を乗せた吹き出しに見えた。

それでもマリオはクッパに立ち向かう。ピーチ姫を救うために。

筋トレで救うべき「ピーチ姫」、これもやはり、自分自身だった。

甘く囁く自分に打ち勝った先にも「自分」がいた。でも、これまでの自分とは違う自分だった。みるみると引き締まっていく自分。鏡に映る自分はステージをクリアしたご褒美、ほら、助けに来たぞ、ピーチ姫!

* * *

筋トレを1年続けて分かったことは、筋トレは単純に肉体改造の手段に収まらないということだ。筋トレは自分と向き合うための時間だった。これまでの食生活を見つめなおし、生活リズム、歩き方まで意識するようになった。1週間後の、1か月後の、1年後の新しい自分と出会うために。

スーパーマリオも同じだ。よしっ! くそっ! と試行錯誤を繰り返し、前回の自分を塗り替えていく。そして、いつか8面のピーチ姫を救えるようにクッパに立ち向かい続ける。そこに待つ至極の達成感のために。

スーパーマリオも自分自身との向き合いだった。

あの時、コマーシャルを見ながら、筋トレとスーパーマリオがこうして重なった。


さて、今年の書初めは何を書こうか。

僕は「スーパーマリオ全クリ」と書いた。
今年もまた僕は、自分自身と向き合ってみようと思う。

スーパーマリオブラザーズ 35周年 おめでとう。

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