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ワクチンのニュースの間違いを正していくのはとっても面倒という話

皆さまこんにちは。
バイオ、ヘルスケア関連について分析する記事を書いているしゅー(@SU_pharma)です。

ぼくは製薬会社で科学的な情報を取り扱うMedical Advisorというお仕事をしている関係で、新型コロナウィルスワクチンについて興味を持ち(投資をするためということもありますが)たくさんの情報・論文を見てきました。

一方で日本の報道、特に週刊誌などの報道を見ると、明らかに科学的に間違えた報道が多いのが気がかりで、多くの報道機関はワクチンは危ない、副反応がひどい!という論調の記事を作為的に作っているのが気になるところです。

今回のnoteでは、その中でも特に内容が悪質であったものを取り上げて、何が間違えているのかについて、考えてみよう!というのが趣旨となります。
ただ、つっこみどころが多すぎるので、いくつかをピックアップする形になってしまうことを先にお伝えさせていただきます。

参照する記事Yahooニュースに掲載されたワクチン接種後350人超が死亡!「死亡例リスト」にみるリスク要素は?という記事になります。

それでは、早速気になる箇所を見ていきましょう。

国内での新型コロナウイルスワクチン接種が始まってから約4か月、高齢者の半数が1回目の接種を終えた。その一方で、6月23日に開かれた厚労省の専門部会によれば、国内で2月17日から6月18日まで、ワクチン接種後に死亡が報告された事例はファイザー製354人(※)、モデルナ製1人の計355人に達する(モデルナ製は5月24日に接種が始まったため、報告数は少ない)。

この文章で重要なことは、ワクチンが原因と特定されて死亡した人数ではなく、老衰や基礎疾患のために死亡された可能性が排除できていないこととなります。

総務省の資料によると65歳以上の高齢者(以下「高齢者」)人口は、3617万人となっています。この半数が接種したので、およそ1800万人が接種したこととなります。

高齢者は様々な併存疾患(糖尿病、心血管疾患、癌など)を有している方が多いため、ワクチンを打たなくてもお亡くなりになるリスクの高い方がたくさんいます。

参考までに厚労省のHPには、年代別の死亡理由top5が記載されていますが、基礎疾患で亡くなられている方が多いことがわかります。

また、高齢者の死亡数は実際どのぐらいなのか厚労省の資料から平成30年度の死亡数を見てみましょう。

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65歳以上での死亡数は、こんなにたくさんいるんです。4カ月が経過したということで、1/3の期間、そして半数の数としても300なんて数値はそりゃ自然に死ぬでしょ、という数値であることは想像できるかと思います。

また厚労省では、このワクチン接種後に死亡した方の理由についても調査をしており、277件の死亡を調べた結果、ワクチンと症状名との因果関係が否定できないもの(つまりワクチンが原因と思われるもの)は0件でした。

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この記事の終盤に下記のような文章があります。

驚くのがワクチン接種との因果関係だ。厚労省の専門家は6月13日までの277例を評価。ワクチンと症状名の因果関係について〈認められない〉が5件、〈情報不足などにより評価できない〉が275件、〈否定できない〉は、なんと0件だ(3症例は評価が分かれ、総数が一致しない)。厚労省は因果関係はないと判断しているようだが、本当なのか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が言う。「ワクチン接種の翌日から数日後に死亡するケースが集中しています。もし、持病がある人がたまたま接種後のタイミングで亡くなっているのであれば、ここまで偏らないはずです。接種と死亡に何らかの因果関係がある可能性は否定できません。厚労省がすべきことは、実態を調べて、最新のリスク情報を公開し、ワクチン接種による死亡を極力少なくすることです。因果関係を一切認めずに、次の対策に生かそうとしない姿勢を貫けば、信頼が失われるだけです」

実態を調べて、最新のリスク情報を公開し…の部分ですが、しっかり厚労省のHPには医師のコメントも記載されています。一例は以下の通り。

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今後も厚労省のHPにはアップデートされると思いますので、ワクチンを投与した後の死亡数ではなく、ワクチンと因果関係が否定できないものの数を見ることで、ワクチンが原因で亡くなられた方の人数を把握することができることは覚えておいても損はないと思います。

では、次の気になる文章に行きましょう!

ファイザー製の接種後に亡くなった354人を年代別にみると、最も多かったのは80代の139人で、以下90代(93人)、70代(68人)が続く。高齢者から優先的に接種が始まり、接種数が若い世代より圧倒的に多いので当然ではあるが、高齢者特有の「弱点」が影響した可能性もある。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんが指摘する。
「高齢になるほど体力が低下し、臓器の持つ生存力を示す『予備力』が低くなります。そのため高齢者ほど強めの副反応が出た際に体が持ちこたえられず、結果的に死に至りやすくなります」
 若い世代に目を転じると、10代の死者は0人で、20代は4人、30代は3人、40代は8人、50代は6人だった。

この上昌広さんはこのような記事の常連ではあるのですが、今あるエビデンスは高齢者ほど特有の併存疾患が原因となり、新型コロナウィルスに罹患すると入院・死亡率が若年と比較して圧倒的に高いため、ワクチンを打ちましょう、というが現在高齢者を優先的に接種している理由かと思います。

この方針は日本だけでなく、アメリカやヨーロッパでも実施をされており、たとえ副反応が高齢者が少し高いとしてもリスクベネフィットの観点から高齢者に最もベネフィットがあると考えられています。

また、上記高齢者の死亡者数を見てもわかる通り、高齢者は死にやすい、という自然の原理も理解できるかと思います。

若い世代に目を転じると、10代の死者は0人で、20代は4人、30代は3人、40代は8人、50代は6人だった。
 そのうち新潟県内の病院に勤務していた25才男性は、4月23日にワクチンを接種し、その4日後に自殺した。男性に精神疾患の既往症はなく、通常に勤務していたが、接種後にいきなり変調をきたし、自ら命を断った。接種と自殺の因果関係について厚労省の報告書は、「否定も肯定もできず、同様の有害事象の収集に努めるべきと考える」としている。
 3月23日には、26才の女性看護師が福岡県内の自宅にて遺体で見つかった。女性は4日前にワクチンを接種し、夜勤に向かう準備をしている最中に倒れたとみられる。死因は小脳からの脳出血と、くも膜下出血と診断された。既往症や基礎疾患はなかったという。クリニック徳院長の高橋徳さんが指摘する。
「その女性は基礎疾患がないとされましたが、CTで脳内の石灰化が見つかり、“自覚症状はなかったが疾患はあったのでは”と指摘する医師もいます。もともと脳に疾患があり、ワクチンによる炎症が最後のひと押しになった可能性もあります。
 若い世代の接種が本格化するのはこれからです。この先接種が進めば、若い世代でも一定数の死者が出ると考えられます」(高橋さん)

ここもツッコミどころ満載ですね!!!
25歳の男性、26歳の女性ともに主治医からワクチンとの因果関係がある、という情報がないにも関わらず、ワクチンとの因果関係があるかのように記載するのは良くないかと思います。
25歳の男性については、自殺で亡くなられていますが、昨年度で2万人以上の方が不幸にも自殺で亡くなられています。ワクチン接種後に亡くなられる方を探すことは十分に可能だと思います。また、CTで脳の石灰化が、と書かれていますが、これは死亡後に脳のPET scanでもしたのでしょうか。よく状況が理解できず、コメントしかねます。

そして、下記の科学的根拠(エビデンス)のレベルの図を見てほしいのですが、ここで述べられているものはすべて症例報告というヒトにおいて最も科学的根拠の乏しいものとなります。

つまり、1人の症例についてつらつら述べてもたまたまでしょ!となるわけです。
その点、ワクチンの第3相臨床試験は4万人規模の上から2つ目のランダム化比較試験です。
ランダム化比較試験を複数まとまたメタアナリシスの次にエビデンスレベルの高いものになりますので、やはり臨床試験の結果を重視すべきかと思います。

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ちなみに、この原因がワクチンだとコメントされているクリニック徳院長の高橋徳さんは400名の反ワクチン派の医師が集まって記者会見をした医師の一人のようです。

お金をもらっているのかどうか、わかりませんが、反ワクチン派の人に聞けばワクチンは危ないぞ!という答えが返ってくるのは当たり前ですよね。

では、次いきましょう。

基礎疾患もリスク要因だ。厚労省は接種に際し、「心臓、腎臓、肝臓、血液疾患などの基礎疾患がある人は注意が必要」としている。死亡例を見ると、基礎疾患がある人が大半を占める。なかでも多かったのは、高血圧(82人)、糖尿病(50人)、アルツハイマー病・認知症(44人)、心不全(40人)、脳梗塞(38人)だ。
 5月28日には、糖尿病の持病がある兵庫県神戸市の73才女性の容体が接種後に急変。呼吸が荒くなった女性は病院に緊急搬送されたが、接種から3時間半ほどで死亡した。
 医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、高血圧や糖尿病、脂質異常症や肥満などの生活習慣病を持つ人の接種に注意を促す。
「コロナワクチンは接種後に血栓が生じるリスクが指摘されます。生活習慣病は動脈硬化が起こりやすく、血栓が生じた際に血管が詰まりやすいので注意が必要です」

現在、わかっていることは、基礎疾患を持っている患者さんは健常人と比較して新型コロナウィルスに罹患した場合の予後が悪いということです。

CDCによると、高齢、糖尿病、心血管疾患、慢性腎臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など様々な基礎疾患はCOVID-19の予後を悪くすることが知られています。
糖尿病の患者さんはもともと心血管疾患のリスクが2-4倍高いといわれていますし、神戸市の症例の場合は73歳とご高齢です。
もともとハイリスクの方が普通にお亡くなりになったことをあたかもワクチンが原因という形で書くことに大きな違和感を覚えます。

また、医療経済ジャーナリストの室井さんのコメントにはコロナワクチンは接種後に血栓が生じるリスクが指摘されている、と書かれています。
これは、日本では使用されていないアストラゼネカやジョンソンエンドジョンソンが開発したDNAワクチンでして、日本で使用されているmRNAタイプのワクチン(ファイザー/バイオンテック、モデルナ)ではこの点は問題ないだろうということになっています。

他にも色々ありますが、一番ひどかった最後の文章も見てみましょう!

しかし、高橋さんは、「コロナワクチンの死亡率の高さには注意が必要」と指摘する。「厚労省の資料では、2018年には5200万人がインフルエンザワクチンの予防接種を受けて、副反応による死亡例は3件でした。一方のコロナワクチンはこれまで2400万人が接種して355人の死亡例があり、“死亡率”はインフルエンザワクチンのおよそ250倍です。メリットがリスクを上回るからと接種をすすめる医師もいますが、接種に際しては年齢、性別、基礎疾患の有無などのリスクをきちんと把握し、接種によるメリットと比較したうえで判断を下すべきです」(高橋さん)

この比較はひどいと思います。
インフルエンザでの副反応による死亡は3件。コロナワクチンの死亡は355件と書かれていますが、少なくとも厚労省のデータによると、COVID-19のワクチンの副反応で死亡された患者さんは0人です。

死亡数については、同じ条件で比較したものを比べることが重要で、これはもちろん第3相臨床試験の結果(プラセボ群 vs ワクチン群)を比較すべきです。結果は、ワクチン群で2例、プラセボ群で4例の死亡が確認されましたが、すべての患者でワクチン、プラセボとの因果関係が否定されています。

またアメリカの5月からのCOVID-19による死亡者を見ると、18,000人以上の死亡者のうち、ワクチン投与終了者は150人となっており、99%以上がワクチン投与を終了していない方となっている結果でした。

この結果にCDCのDirectorであるDr. Rochelle Walenskyさんは「ワクチンは本当に効果的で、COVID-19による成人の死のほとんどは(ワクチンによって)防げるものであった」と述べています。

デルタ株が蔓延する日本において、ワクチンを打つかどうかについては強制力がありませんので、個人の判断に委ねることになります。

ただ、ワクチンを打った方の因果関係が不明の死亡者数で危険を煽るのはフェアではないと断言できます。

重要な考え方として、ワクチンをはじめ、あらゆる薬剤や医療行為には有害事象が発生する可能性があります。
そして、ワクチンを打つことのベネフィット、リスクを天秤にかけて判断することが重要です。

もうmRNAワクチンができて随分と時間が経つので、忘れかけているかと思いますが、ワクチン開発の目標は発症予防50%でした。
今回のmRNAワクチンのように、90%以上も予防できる大きな大きなベネフィットを有するワクチンを短期間で開発できたことは本当に素晴らしいことだと考えます。
これまでのところ、副反応は許容できる範囲であり、アレルギー体質の方など、一部の方を除くと多くの一般市民はベネフィットがリスクを大きく上回ることが考えられます。

この科学の大きな進展をくだらない利害関係によって否定したり、ベネフィットを隠すような行為はやめてほしいと思います。

このニュースのコメント欄には、まだ臨床試験が終わっていない、などという事実に反するような記載もありました。

正しい情報を伝えることは難しいですが、報道機関、面白おかしく記事を書く週刊誌も含めて、そのあたりの襟を正して報道することを切に願います。

以上となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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