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「過去未来報知社」第1話・第69回

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>>第68回
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「この辺りに来るのは、久々ですね」
 飯島は周りを見渡して微笑んだ。
 商店街を抜けた先、クリスマスサンタ騒ぎの大木の向こうには
 ちょっと都心に近いとは思えない自然が広がっている。
 目隠しをされてつれて来られたら、まさかここが
 都心から電車で一時間弱で来られる土地とは思わないだろう。
「凄いですね。私、こんな場所、初めてです」
 笑美は眼下を流れる渓流を見てつぶやく。
 町ではあまり聞こえなかった鳥の声や、何かの遠吠えも聞こえる。
 大木を堺に、まるで世界が二分されているようだった。
 笑美は大きく空気を吸い込む。
 清々しい気が、体の中を洗い流してくれるような気がした。
「ここでは、まるで時間の流れが止まっているようですよ」
 道端の花に目を細め、飯島はつぶやく。
「最初に来た時と、同じです」
「最初に来たとき?」
 飯島はにっこりと笑美に微笑む。
「私はね、ここの人間じゃないんですよ。
 大分前に、移り住んだんです。
 飯島の家には養子でね」
「お婿に入ったんですか?」
「だったら、良かったんだけど……」
 遠い目をする飯島。
 何か問いを拒絶するような空気があり、笑美はそれ以上聞けなかった。
「映画の撮影も二度目なんですよ、知っていましたか?」
「ええ、東谷課長に聞きました」
「そうですか。教えられていますか」
 飯島は老人とは思えない脚力で前をいく。
 笑美は小走りでなんとかついていく。
 後方にロケ隊がへばっているのが見えた。
「あの、飯島さん、もっとゆっくり歩いたほうが」
「知っていますか、六合の50年周期の話を」
「え?」
 いつしか飯島の顔からは微笑が消え、凛とした厳しさが宿っていた。
「50年周期?」
「六合にはね、50年間隔で、やってくるんですよ」
 飯島は立ち止まって笑美を見る。
「今年もね、やってきていますよ」
「映画……の話じゃないですよね」
 笑美の問いに、飯島は黙って見つめ返した。


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