「過去未来報知社」第1話・第65回
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「なんですか、その装備は」
東谷の格好を見て、笑美は呆れた声をあげた。
東谷は、まるでどこぞの山岳登山隊の如く荷物を積みあげて
満足気にポン、と叩く。
「登山部から借りてきてやったぞ」
「エベレスト登頂に挑戦するわけじゃ、ないんですよ」
一方の笑美は、ジャンパーにジーンズ。
よれた小さなナップザックという軽装だ。
「そりゃあ、映画の画面的には大雪山みたいなことになってるみたいですが、
実際に撮影するのは、六合の裏山なんですから」
笑美は荷物の端をつまみ上げる。
「こんな雪山で使うようなテントとか、いりませんから!」
「いやいや、何が起こるかわからないぞ~」
東谷は神妙な顔で言った。
「なにしろ、50年前には……」
「女優が行方不明になってるって言うんでしょ?
あれ、若い男優と逃げた、とか、そういう話なんじゃないですか?」
「なんのゴシップ記事読んだの」
「読んでません。そんな方向性じゃないんですか?」
東谷は真面目な顔をして声を潜めた。
「……飯島さんの前でそういう話しちゃ、ダメだからね」
「ファン、とかですか、もしかして」
そういえば年代的にも会いそうだ、と笑美は頭の中で計算する。
「そういえば、今日の下見も立ち会うって言ってましたけど……」
「やあ、おはよう。いい朝だね」
「なんですか、その装備は」
役場前で若詐欺……飯島をみた笑美は、思わず同じ言葉を発した。
完全な雪山装備に、一抱えほどもあるリュックを軽々と担いだ老人が
にこやかに手を振っている。
「あ、この荷物? 大丈夫だよ。僕は鍛えているからね。自分で持てます」
「そうじゃなくて!」
疲れたように笑美はため息をつく。
「まったく、課長といい、わか……飯島さんといい……」
「そうだよ、笑美ちゃん、そんな装備でいくつもり?」
「あなたの土地は、どこの秘境ですか!
この街の人の自然感覚、おかしいでしょ!」
「いや、まあ……、確かに他所の人にはわかりにくいかなぁ」
やや引いた目線で視ている撮影隊の面々の視線に、
やや恥ずかしそうに飯島は頬をかいた。
「僕も、50年前は先代の格好を見て馬鹿にしてたし」
「50年前? 飯島さん、50年前の撮影にも参加されてたんですか?」
「そう、その時僕はまだ余所者だったけどね」
飯島はそういって笑った。
どこか懐かしそうな微笑だと笑美は思った。
>第66回
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