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「過去未来報知社」第1話・第45回

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>>第44回
(はじめから読む)<<第1回
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「残念だな~、私の美貌が全国に放たれると思ったのに~」
 夕飯の秋刀魚をつつきながら、三宅は口を尖らせた。
 ちなみに、本来のメニューは塩焼きなのだが
「魚本来の味を楽しみたい」
 と三宅は素焼きを食べている。
「えみみんんだって、出たかったでしょ?」
「TVになんか映りたくありませんよ。
 ……映ってない筈だし」
 スタッフにしつこいぐらい「許可してない人は撮るな!」といい続けたせいか
 チェック用に見せられた画面には笑美は映っていなかった。
「結局、保険だったんじゃないですか、保険。
 なんかあったときに使うための」
 ちまちまと出っ歯で秋刀魚を齧りつつ、根津は言い捨てる。
「三宅さんがカメラの前にやたらと陣取るから、
 使える絵が撮れなかったんじゃないか、とも思いますけどね……ひっ!」
「んー、なんかまた、可愛いこと言ってる?」
 秋刀魚を口にくわえた三宅が、根津を背後から羽交い絞めにする。
「お、お行儀悪いですよ! 三宅さん!」
「だって、あんまり可愛いから……食べちゃいたいぐらい」
「た、助けてー!」
「あら、にぎやかね」
 台所からネコが盆を持ってやってくる。 
 三宅はとびあがって席に戻り、根津はほっと息を吐く。
「大家さんは、本当に部屋から出てこないんですね」
 盆に乗った夕飯を見て、笑美は首を傾げる。
「六合荘の中ぐらい、歩き回っても大丈夫な気がするけど。
 ……ひょっとして、余所者の私がいるから?」
「いや~、えみみんが来る前からこの調子だよ」
「僕も一緒に食事をしたことはありませんね」
「そうそう」
 ネコははんなりと笑う。
「それに余所者、なんて悲しいこと言わないで。
 笑美さんはもう、六合荘の家族なんだから」
「家族……」
 笑美は久々に自分に向けられたその単語を、そっと噛み締めた。
「家族といえば……、今日はいませんね、あの男」
「ああ、ケイちゃんね」
 秋刀魚を食べつくすと、三宅は軽く頬を掻いた。
「なんか、昼過ぎに出かけるの、見たなぁ」
「この街に行くところなんてあるんだ、あの人」
 笑美は慶太のムサイ姿を思い出す。
 考えてみれば、笑美は慶太の名前しか知らない。
 一体、どんな用事があって六合に来たのか、
 その用事は済んだのか。
「最初に会った時は、なんだこの毛むくじゃら、と思ったけど……」
 そういえば、あの髭と髪を整えたら、どんな顔になるのだろう。
 笑美は想像してみる。色々な顔が脳裏をよぎる。
 しかし どの顔になっても納得できるし、できない気がした。
「……すれ違っても、気がつかなさそう」
 クスクス笑う笑美を、三宅と根津が不思議そうに見ていた。

>>第46回

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