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「過去未来報知社」第1話・第63回

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>>第62回
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 クロがソレに気がついたのは、
 ちょっと街が騒がしくなってきた朝だった。
 クロ、というのは商店街の魚屋の店主が自分を呼ぶ名前だ。
 本当は黒に灰が混じったゴマ模様だし、
 もういい年なのでそんな子猫のような呼ばれ方は好まないが、
 新鮮な魚のきれっぱしの魅力の前では大した事はないので
 甘んじてその呼び方を受け入れている。(呼ばれてニャア、と
 答えてやると、切り身の大きさが変わるのを知っているのである)
 
 いきなり人間の数が増える事は珍しいことではない。
 時々わっ、と増え、そしてばっ、と減る。

 人間たちには「縄張りを守る」という意識があまりないらしく
 人が増えるとなぜか喜ぶ。
 いきなりクロたちの食い扶持が増えたりもするので、
 あまり野良を気取らない仲間たちは、その日を楽しみにしているやつらもいる。

 クロはといえば、毎日通っている家があるので別段食べるものには困っていない。
 魚屋のような「別宅」は数軒あるし、
 たとえその別宅で物をもらえなくなったとしても
「姐さん」の所へいけば、うまい食事にありつけるのである。
 但しそれも、クロが「お役目」を果たしていれば、である。
 姐さんは千里眼である。サボれば一発でバレる。
 それにクロは姐さんが大好きなので、
 元から姐さんの頼みごとをいい加減にするつもりなどなかったのである。

 だからその日も、あやしげな物が入り込んでこないか
 魚屋の隅からじっと人間どもを観察していたのだった。
 
 クロは街の見張りを一匹でやっているわけではない。
 これでも街の若い衆を束ねる立場にいるし、子供たちだっていっぱいいる。
 そのうちの三毛の娘がまたいい加減に町周りをしているのを見て
 クロは小さく舌を鳴らす。
 人間の食べ物が好きな娘は、すぐにお役目を忘れてしまう。
 しかし、今日は違ったようだ。
 クロも娘とともに、ソレに気がついた。 
 なんだ、あれは。
 なぜ、人間たちは、あんな異物を平気で自分の縄張りに入れるのだ。
 この距離でも、娘が全身総毛だっているのが分かる。
「おい、クロどうした」
 魚屋の店主に呼ばれて、クロは自分が小さく唸り声を上げているのに気がついた。
 背を撫でようとする店主の手をすり抜け、クロは六合荘へ走った。


>>第64回

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