「過去未来報知社」第1話・第58回
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セピア色の光の中で、若い男女が笑いあっている。
どこかはにかんんだ様子には、二人の間にある微妙な関係が如実に現われている。
周囲に広がる渓谷は、自然の色を色濃く残している。
遙か頭上には、天を貫くような大木が立っている。
女性が男性に微笑みかける。
その顔を見ると、飯島の頬には自然と笑みが広がるのだった。
「旦那様」
控えめな声が、襖の奥から聞こえる。
「撮影隊がきておりますよ。
楽しみにされていたようですが、よろしいのですか?」
天井から降りたスクリーンを見ながら、飯島は安楽椅子に背を預けて答えた。
「いいんだよ。私が用があるのは、来週なんだから」
「旦那様、本当に行かれるつもりなのですか?」
「行こうと思っているのではないよ。私は行くんだよ」
襖の向こうから、諦めにも似た嘆息が漏れる。
「……そこまで、曄子お嬢様の為にしてくださらなくても、よろしいのですよ」
飯島は喉の奥で笑う。
「皆さんは、いつも何かを勘違いされているようだが」
ぷつん、とスクリーンに映っていた映像が消え、スクリーンが上がる。
飯島は庭に面し襖を開け、外の光を部屋の中に入れた。
光が差し、暖炉の上の写真立てを照らす。
そこには、今スクリーンの中にいた男女が微笑んでいた。
「私は、自分のため以外に動いたことなんて、ないんだよ」
>>第59回
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