「過去未来報知社」第1話・第36回
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>>第35回
(はじめから読む)<<第1回
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「結局、何も起きなかった……、いや、起きまくった?」
恵比寿の小料理店で行われた慰労会に半ば無理矢理引っ張り込まれた笑美は
グラスと一緒に首を傾けた。
「妖怪には会わなかった気がする」
同じく枡箱の酒を煽りながら、どうでもいい、と言った口調で答える慶太。
「出なかったから、いいのかなー」
「面倒ごとはないに限る」
「なんだろうね、この覇気のない若者どもは!」
不意に背中を強く叩かれ、笑美と慶太はむせる。
「あら、しかもこの子はジュースじゃないか!」
「お酒、飲めないんだから仕方ないじゃないですか!」
「飲めない奴にやる必要はない」
噛み付く笑美に、涼しい顔で杯を重ねる慶太。
恵比寿はやれやれ、と首を振る。
「なんだい、折角お膳立てしてあげたのに、進展ナシかい」
『は?』
唱和する笑美と慶太に、真っ赤な顔をしたサンタが覆いかぶさる。
「あれだけムードがある場所に二人でいて、何もおきなかったんかい!
そりゃあ、兄ちゃんの甲斐性がないよ!」
「ちょっ! くさっ! 酒くさっ!
ってか、こういうキャラでしたっけ?」
「酒癖悪いんだよ、その人」
カウンターで恵比寿の嫁と語り合っていた若詐欺がゆったりと言う。
こちらもかなり杯を重ねている筈だが、涼しい顔をしている。
「お膳立てってことは、妖怪は嘘?」
「いや~、どうだろうね」
揃って笑美から視線を反らす三隠居。
ぷるぷると震える笑美。
「このクソ寒い中、こっぱずかしい着ぐるみ姿で
数時間無料奉仕した結果が……嘘?」
「いや~、いい若いモンがクリスマスの予定もないみたいだったし」
「あんたとこの兄ちゃんじゃ、なんか全く何も起きそうにないし」
「いいんですよ! 別に何もおきなくても!
あなたも何か言ったらどうですか!」
「どうでもいい」
立ち上がってがなりたてる笑美に対して、
我関せずという風情で飲み続ける慶太。
「酒が飲めれば」
「あー、もう! どいつもこいつも!」
髪をぐちゃぐちゃにかき回すと、笑美はスタスタと歩き出す。
「おや、どこに行くんだい?」
「帰ります! 明日があるんで!」
「明日は誰にでもあるよ?」
「そうでしたね」
笑美は引きつった笑いを浮かべて引き戸に手をかける。
「でもこれで、六合の雰囲気はつかめたんじゃないのかな」
ぴたり、と笑美の手が一瞬止まる。
「六合はね、もともと商人が都に行く途中に休憩していた場所なんだよ。
あの巨木の下にね。
で、いつしか人が住み着くようになって町ができた。
もともと住んでいた住民はいないんだよ」
穏やかな若詐欺の声が、賑やかな店内でなぜかはっきりと聞こえる。
「だからね、皆何かと言うと集まって騒ぐんだ。
家系ってもんがないからね。そうしないと、一人ぼっちだらけになってしまう。
だからね。外から来たからって、別に気兼ねをすることはないんだよ」
「ごちそうさまでした!」
ピシャリ! 音を立てて引き戸を開閉して出て行く笑美。
三隠居はその背中を穏やかな笑美で見送っていた。
>>第37回
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