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「過去未来報知社」第1話・第61回

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「撮影、来週だって?」
「そうなんですよ。これが意外と大変で!」
 両脇に持った大荷物をドサッ、と置き、笑美は肩をぐるぐると回した。
「役場の書類って、持ち出していいのか?」
「ああ、これ? 事務書類じゃないですよ。
 昔のパンフレットとか、新聞記事とかのコピーです。
 誰でも見られますよ」
 笑美は荷物から一枚チラシを出してみせる。
「『渓谷の叙事詩』近日公開!」
 の文字が躍っている。
「随分古いチラシだな」
「50年前に六合で撮影があった映画のチラシです。
 今回のロケが、そこと同じ場所なんですよ。
 で、資料が欲しいって、TVスタッフの人に頼まれちゃいまして」
「へー。TV局の方が資料がありそうだけどな」
「結局公開されなかった映画なんで、あっちでは保管してないみたいなんですよ」
「公開されなかった?」
「それが、なんか主演女優が行方不明になったって話で」
「行方不明……?」
「なんでも、撮影中にいなくなっちゃったらしいですよ。
 それで、映画が公開できなくなっちゃったみたいです」
「……そんなことがあったのか」
「六合でねぇ……って、どうしました?」
 声色に異変を感じ笑美が見上げると、
 蒼白な顔でチラシを見ている慶太の姿があった。
「そうか……。アレが初めてじゃ、なかったのか」
「アレ?」
 ハッと笑美を見下ろすと、慶太は慌ててチラシを笑美の手にねじこんだ」
「いや、そんなことが近所であったと思うと、ビックリだな」
「……何かあったんですか」
「別に」
「そんな棒読みで答えられると、余計に気になるじゃないですか」
「ほんとうに、なんでもない」
 言い捨てると、慶太は階段に向かう。
 ふと、足をとめ、笑美を振り返る。
「来週の撮影、行くのか?」
「行かなきゃならないでしょうね」
 肩をほぐしながら、笑美はため息をつく。
「街ロケはみんな行きたがるのに、ちょっと町外れになると途端に嫌がるんだから」
「ねぇ、よせば?」
 玄関を開けて入ってきた三宅が、珍しく真面目な顔で声をかけてきた。
「よす?」
「ロケに行くの。なんか嫌な予感がする」
「予感? なんの、ですか?」
「ロケっていうか、暫くここを出ないほうがいいかもしれない」
「何言ってるんですかー。仕事だってあるのに」
「それどころの話じゃないかもよ」
 三宅は自分の体を抱きしめて、ブルッと震えた。
「大家さんに、みてもらった方がいいんじゃないかな」
「みてもらう?」
「未来か、過去を、さ」
「は? 何、冗談を……」
 言ってるんですか。そう言おうとした笑美は言葉を飲み込んだ。
 三宅の目が、金色に光っているように見えたからだ。
「悪い事は言わないから、さ」
「わ、分かりました」
 その光に気おされるように、笑美は頷いた。
 慶太は黙ってその様子を見ていた。
 

>>第62回

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