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「過去未来報知社」第1話・第26回

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>>第25回
(はじめから読む)<<第1回
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「で、一泊させてもらったわけ?」
「はあ、行く場所もなかったし、夜も更けてましたので」
 東谷に茶を淹れながら、笑美は答えた。
『話もまとまらないし、泊まって行けば?』
 と言ってくれたのは大家……ではなく、勿論ネコだった。
 ネコの言葉に完全に臍を曲げた大家は狸寝入りを始めてしまい、
 もう、にっちもさっちも、どうにもならなくなってしまったのだった。
「多分もう店じまいしたいんじゃないかと思います」
「えー、それだと困るんだよな~」
 東谷は茶を啜りながら眉をしかめる。
「ご長寿会の暇つぶしの矛先がこっちにきちゃうじゃないか」
「……それが大家さんに仕事をさせたい本音ですか」
 朝から総合課に押し寄せた三人組を思い出し、笑美も眉をしかめた。
 白い髭を蓄えた細身の老爺と、恵比寿様のようにふっくらした老婆。
 更に「実は一番年上で」と告白して笑美の度肝を抜いた
60そこそこにしか見えなかった70後半の男性が1人。
 六合長寿会と名乗った三人は、
朝から三時間も話し込んで去っていったのだった。
「まだまだ来るぞ~、大家が仕事をしないと分かったら。 
 嫌だろ、そんなの」
「確かに」
 いや、仕事がしたくないわけではない。
 彼らの相談事は「仕事をしようにもしようがない」話ばかりだったのだ。
 やれ、幽霊が出る、とかやれ、宇宙人が来た、だの
世間話の中に普通に現われるそんなものを、
一体役場にどう処理しろ、というのか。
 一番手がつけやすそうだったのは、増殖している猫の話だったが、
 微妙に都会化していないこの六合町で、
 自由に歩き回っている家猫と野良猫の区別をつけるのは至難の事だし、
 そもそもそれは、保健所の仕事のような気もする。
「もう少し、分かりやすい相談ないんですかね。屋根の雪下ろしとか」
「雪なんて一粒も降ってないけどね。
 そもそも、分かりやすい相談は他に窓口があるから」
 確かに。
 喉まででかかった言葉を笑美は飲み込む。
 確かに地域課とか戸籍課とか、ちゃんと役場には細かく分けられた窓口がある。
 それに対して「総合課」とは、今更だがかなりざっくりした分類である。
「総合課って、一体いつからあるんですか?」
「そうだな~。俺が子どもの頃に出来たんじゃなかったかな。
 そうそう、確かあれは六合荘の前の大家がいた時の話だ」
 また六合荘か。
 ふてくされた大家の横顔を思い出し、笑美は首をかしげた。
 六合荘と六合町。
 まるで人から隠れるように建っているあの建物が、
 この町の中心のように思えてきた。

>>第27回

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