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「過去未来報知社」第1話・第82回

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>>第81回
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「過去未来報知社の仕事って、
 あんなカウンセリングみたいな感じなんですか?」
 食器洗いを手伝いながら、笑美はネコに聞いてみる。
「どんなのだと思ってたんですか~?」
「そりゃあ、呪文唱えたり、水晶見たり……」
「それは別のお仕事でしょ」
 ネコはカラカラと笑った。
「そんな力、若旦那にはありませんよ。
 大旦那にだって、あったんだか、どうだか」
「そんなもんですかねぇ……」
 水切りカゴに洗った食器を並べる笑美に、ネコはおっとりと笑いかける。
「東谷さんだって、そんなこと言ってないでしょ?」
「『六合町・人生相談所』みたいなもんだって言ってましたけど……」
「あら、ちゃんと伝わってるじゃないの」
 イマイチ腑に落ちない風情の笑美に、ネコはうんうん、と頷く。
「そうねぇ。例えば物理的に何かが道を塞いでいて先に進めないなら、
 移動なり爆破なりでどかすけど、そういうわけにはいかない事が多いでしょ?」
「……それで済むことの方が、少ないですね」
「お医者さん、みたいなものかなぁ」
「医者?」
「その痛みが何が原因で起きているかを探って、
 それをどうにかできる人を呼ぶ、みたいな」
「診察と手術は別、みたいな?」
「そうそう!」
 ぱん、と胸の前で手を合わせると、ネコは微笑んだ。
「その上でやっつける必要があればするけど、
 想像妊娠みたいなのだったら、別の手を考えないとね」
「……もう少しマシなたとえ、ないですか?」
「一番近い話だと思ったんだけどなぁ」
 ネコは困ったように頬を掻いた。
「とりあえず、凡その話は飲み込めたし
 あとは来週の撮影を待つばかり、じゃないかしら?」
「なんでそこで撮影が出てくるんですか?」
 笑美は手を止めて顔を上げる。
「ああ、だって……」
 何かを言いかけて、ネコは言葉を止めた。
「だって?」
「まぁ、その時が来たら、分るわよ」
「ちょっと、いいか」
 ネコの声を遮るように慶太が顔を覗かせる。
「あ……」
「あら、お帰りなさい。ご飯終わってしまったのですが」
「外で食べてきた」
 ネコを軽く拝んで言うと、慶太は笑美に顔を向けた。
「今、いいか?」
「……なんでしょう?」
 問い返す笑美に、慶太はぐるり、と首をめぐらせる。
「……いい月が出てるんだが、外にでないか?」
「そと?」
「あら、素敵」
 はしゃいだ声を出すと、ネコは笑美の背中を押した。
「いってらっしゃい。月夜のお散歩」
「え? え?」
 笑美の背を押すネコの目に、深い色が宿る。
「きっと、行かないと後悔する」
「……え?」
「ほら、行くぞ」
 戸惑う笑美の腕を慶太が掴む。
「え?」
 意外なほど強い力で引っ張られ、笑美は軽くつんのめった。


>>第83回

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