「過去未来報知社」第1話・第66回
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「え~、本格的な撮影は来週に入ってから、になりますが
今日は地主の飯島さんのご進言もあり、
下見、というか事前設置というか、まぁ、そんなことです」
撮影スタッフの視線が集まる中、
やや緊張の面持ちで笑美は説明する。
本来は公報課の仕事になるが、春の交通安全の準備で忙しいとかなんとか
理由をつけて、やっぱり押し付けられたのだった。
これも、全体的に年齢層が高い役場職員の傾向かもしれない。
都会の役場だったら、我先に、と若い職員が名乗りを上げただろう。
笑美は、といえば、できれば表に出るようなことはしたくはないのだが
この職場を失うわけにもいかず、ゴネながらも大人しく従うだけだ。
田舎の役場も意外と静かではいられないのだな、と、
少し計算違いだったかな、とTV騒動からこちら、笑美は思っていた。
「あの~、映像特典のためにカメラ回していいですか?」
カメラスタッフが手を上げる。
「役場のスタッフは映さないで下さい」
きっぱりという笑美。役場スタッフといっても、笑美しかいないのだが。
飯島がおっとり答える。
「土地や皆さんを映す分には構いませんが、僕も映さないで下さいね」
笑美は飯島の顔を見上げる。
「……飯島さん、カメラに魂は吸い取られませんよ?」
「知ってます。いつの時代の爺だと思っているんですか?」
やや呆れた顔で言うと、飯島は遠い目をする。
「面倒ごとはごめんなので」
その様子を離れた場所から見ている二人の男。
キャップを目深に被り、腰をかがめていかにもあやしい。
「……あの爺さん、どっかで見たことがあるような気が」
「田中さ~ん、本当に大丈夫なんですか? もぐりこんじゃって」
部下の谷口が、ハンディカメラを持ってこそこそ囁く。
「いいんだよ。どうせ同じ系列の局なんだし、
アカシと俺たちは長い付き合いなんだし」
「……今日は前日設営みたいなもんだから、
キャストは誰もいませんけどね」
「お、出発するみたいだぞ」
田中はこそこそと、でもやたらと目立つかに歩きで一行を追いかける。
「だめだ、こりゃ」
ため息をつくと、谷口はその後を追った。
>>第67回
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