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「過去未来報知社」第1話・第80回

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>>第79回
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<<第1回

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「撮影、もうすぐ始まりますね」
 マネージャーに言われ、アカシは読んでた本から顔を上げた。
「台詞、入ってますか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。俺、記憶力だけはいいから」
 再び本に目を戻すと、アカシはぼそり、と言う。
「そう言えば昔、あそこで映画撮影があったんだって?」
「ああ、50年ぐらい前ですよ。
 しかも、公開されなかったって」
「……なんか、あったりして?」
「やだなぁ、アカシさんまで田中さんの言うこと、
 真に受けるんですか?」
「田中さんと言えば、諸国漫遊の特典映像撮るからって
 撮影にくっついてくるって言ってたけど」
「そうですねぇ。あの番組も長いから。
 商店街紹介だけだと、間がもたないんじゃないですか?」
「……そういうことなのかねl」
 ぱた、と本を閉じるとアカシは軽く目を閉じる。
「寝ちゃ、だめですよ。もうすぐ本番なんだから」
「ほんと、細かい仕事、増えたよな」 
 うっすらと目を開けると、アカシは小さく伸びをした。
「映画撮影が始まったら、そんなこと言ってられませんよ」
「六合か……」
「アカシさん、そろそろリハ、お願いします!」
 呼びにきたスタッフの声に、アカシは腰を上げた。
「何か、面白いことでも起きるといいんだが」


「何か面白いことがおきそうな気がする」
「やだなぁ。暗闇で含み笑いしないで下さいよ」
 倉庫で備品を整理しながら、谷口は田中の低い笑い声に抗議した。
「分ってるな、カメラを誰に向けるのか」
「アカシでしょ」
「違うわ!」
 谷口は書類ケースに挟んだ古い写真をバンバン叩く。
「こいつだよ! この女!」
 びし、と指差した先には笑美の顔。
 50年前の撮影風景の中に呆然と佇む笑美がいた。
「……本当に、同一人物なんですかねぇ」
「このジャケット。このメーカーのこのジャケットは
 去年発売されたもんだ。50年前には、ない!」
 声を張り上げると、田中は胸を張る。
「次の撮影で、何かが六合におきーる!」
「僕は平穏無事に特典映像の撮影をして、帰りたいんですけどね」
 盛り上がる田中をよそに、谷口は何回目か分らない深いため息をついた。、


>>第81回

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