「過去未来報知社」第1話・第49回
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「もう、信じませんからね」
三隠居の顔を見るなり、笑美は書類の上から叫んだ。
「まだ、何も言ってないわいな」
「若いのに、すっかり疑い深くなって」
「嘆かわしいねぇ」
「誰のせいですか」
三人は揃って茶を啜る。
「ただ、世間話しにきただけだって」
「役場はお達者クラブじゃありません!」
「まぁ、まぁ、街の人たちの声を聞くことも大切だよ」
「……課長は一緒に茶を啜ってないで、仕事してくださいよ」
「僕がやるより、右輪瓜君がやる方が早いからね」
笑美はわざとらしく肩を落とす。
確かに東谷ときたら、真美の言う以上に機械オンチだった。
いや、オンチ、というよりは相性がとことん悪いとしか思えない。
東谷が触ると、なぜか正常だったパソコンは狂うし、
コピー機はトナーを噴出す。
極めつけはコーヒーメーカーさえ、爆発する始末。
試してみた笑美は自分の愚かさを呪い、分かってるならやるなよ、と
東谷を軽く恨む。
パソコンは先日やっとメンテナンスが終わって返ってきたところだし
(だから仕事がいつも以上に山積みなのだが)
コーヒーは、コーヒーミルで豆を挽いてペーパーフィルターで淹れている。
コーヒー依存症の笑美は、もう何度キッチンと事務所を往復したか、分からない。
よくこれで今まで回っていたものだ、と笑美は驚く。
もっとも、こういう職場だからこそ、
余所者の自分にも門戸が広かったのかもしれないが……。
「笑美ちゃんは、本当にパソコンを打つのが早いねぇ」
「おいおい、打っているのはキーボードでパソコンじゃないよ」
「同じじゃないのよ~。まったくこれだからリーダーは」
リーダーって呼ばれるようになったのか。
恵比寿が若詐欺の肩をバンバン叩いているのを見て、笑美は苦笑する。
「で、一体、前はどこで何をやっていたんだい」
サンタの言葉に、笑美の手が一瞬止まる。
「それだけパソコンがうまいんだ。やっぱりそういう関係かい?」
「えっと……」
笑美はのろのろとキーボードを打つ。
「そんなに仕事ができるのに、六合くんだりまで」
「何が『くんだり』だい。六合馬鹿にするんじゃないよ」
「してないよ。そんなこと」
言い争うサンタと恵比寿を尻目に、若詐欺は茶碗を置いて立ち上がる。
「リーダー、もう戻るのかい?」
「そろそろ店が心配になってきたからね」
「楽隠居するんだ、って正月に言ってたじゃないか」
「まだまだあぶなっかしくてね」
若詐欺は二人を促して立ち上がらせる。
「じゃあ」
「また来るわ」
「もう、来なくていいです」
聞こえないフリで部屋をでていく二人。
若詐欺もそれに続き、ふと振り返る。
「別に、昔の事は無理に話す事はないからね」
「え?」
肩ごしに手を振ると、若詐欺は鼻歌を歌いながら出て行った。
「いい街だろ?」
茶碗を片付けながら、東谷が呟く。
「だから、俺もここにいるんだけどね」
「え……」
キッチンに消えた東谷の声は、妙に強く笑美の耳に残った。
>>第50回
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