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成功体験
成功体験が怖いと思う。不意に母にそんな話をした。深く考えていたわけではないが、どうしても聞いて欲しかったのだと思う。食事中にほとんどと言っていいほど言葉を発さない私が急にこんな話をし出すものだから、母は驚きと興味の混じった表情と共に箸を止めた。時計は夜8時を刺していた。
完璧主義は悪いものなのかな。
「自己満足の範囲に留めることが出来るのであれば、それは素晴らしいことだよ。」
何事も完璧にこなすには時間、労力、メンタルが必要になる。こなした後の見返りが原動力になるから頑張れるの。
「それがジレンマなんだろうね。見返りをモチベーションに完璧を追求する。やがて成功した時に思い通りの見返りがないと、気を病んでしまう。他人って残酷だよ。」
成功体験って怖いと思う。1度成功体験をしてしまうと、二度と失敗が出来なくなるから。完璧主義になる割に努力が出来ないと失敗を恐れてハードルを下げることしかできなくなる。他人からの評価さえなければ失敗なんか気にしないのに。他人からの評価がなければ動き出せない。
「ある海外のミュージシャンの言葉で、『ライブをした時に、自分よりも下手な演奏しかできない客は拍手を送ってくれない。どうしようもなく悔しくてやめたくなる。だが音楽が誰にも評価されなくても結局は音楽をやっている自分が好きなんだと思う。』というものがある。評価されなくても気を病まずに表現出来るものがあるんじゃないかな。」
私は歌うのが好きで絵を描くのが好きでゲームするのが好きで踊るのが好きで演技するのが好きで運動が好きで喋るのが好きでインターネットが好きで、それなのに全部楽しくない。誰と競うわけでも、義務でもないのに認められないと辛いんだ。
「1種のスランプみたいなものかね。アグレッシブだね、それだけ沢山のことに挑戦できてなお満足しないのは羨ましいよ。きっとまだ運命の出会いを果たしていないんだね。でもそれこそ運命の出会いを果たさないうちに成功体験をしなくて良かったじゃない。これからも広いアンテナをはりながら生活するといいよ。」
ざっとこんな内容だった。母は器用貧乏で完璧主義なことをコンプレックスに思っている私を気遣いながら、尚且つ悩み解決の助けになるような事を話してくれた。1000文字程度の文章を書いてまとめた今なら尚更、母の言葉に重みを感じることが出来る。本当に自分の好きなこと、それとの運命の出会いはまだ果たしていないけれどいつか自分が自分を評価できるように、また失敗を恐れない完璧主義者になれるように今以上の好奇心と行動力を持って生活したいと思う。
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