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妊娠中の片頭痛予防に対する鍼治療の安全性

背景

 妊娠中はエストロゲンや内因性オピオイド濃度が高く、ホルモンの変動が少ないことから、片頭痛発作は一般的には起こりづらい状態である。片頭痛をもつ女性の60~80%は妊娠後期にかけて改善するが、8~10%では悪化もしくは片頭痛発作が残るため、治療を要する。片頭痛の急性期薬や予防薬の多くは妊娠中は禁忌であり、また妊娠中の片頭痛患者における安全性に関するデータは乏しい。
 鍼治療は片頭痛の予防的治療として科学的なエビデンスがあり、また急性期発作に対する鍼治療の有効性もその他の薬物治療と同等の効果があり、かつ副作用が少ないことが報告されている。しかし、対象を妊婦とするとデータは少ない。妊娠初期の悪阻と片頭痛を持つ患者を対象とした研究では、片頭痛の強度・頻度と吐き気などの悪阻を緩和する可能性が報告されているが、妊娠中の鍼治療の安全性については質の高い報告はない。文献調査では、副作用は稀で軽微な副作用のみとされているが、母体や胎児の合併症とは相関していない。これらのデータは、鍼灸治療と早産や死産との間に関連性がないと報告した後方視的検討で裏付けられた。
 本研究では、妊娠中の片頭痛における鍼灸治療の安全性と、早産と局所的・全身的な一過性の症状および神経症状との関連性を明らかにすることを目的とした。

方法

対象:片頭痛もちの妊婦68名

【介入基準】

  • 国際頭痛分類第3版にて、片頭痛と診断

  • 片頭痛治療のためのみの鍼治療を受けている


【鍼治療】
鍼治療は5年以上の経験のある鍼灸師から受けた。治療時間は30分、使用鍼はSingle-useのもので0.25×0.25 mmを使用した。
経穴は以下の通り;GB20(風池)、GV20(百会)、GB14(陽白)、Ex1( 印堂)、Ex2(太陽)、LR3(太衝)、PC6(内関)、ST36(足三里)、CV12(中脘)

(深さ、得気の有無などの詳しい記載はなし、イタリアの鍼の論文はあんまり手技を書かない印象)

【統計解析】
連続変数は平均値±標準偏差(SD)で表し、カテゴリー変数は頻度(%)または観察数(n)で表す。グループ間比較はStudent's t testで行い、鍼灸治療が正期産と早産に及ぼす影響は回帰分析で分析した。


結果

 68名のうち47名は事前にインフォームドコンセントを取得でき、出産6週間以内に鍼灸治療の安全性についてのアンケートに協力してもらった。
本研究の解析対象は47名(32.4±3.62歳、25-39歳)である。
 鍼治療は妊娠14~36週で受け、47名中33名(70.21%)が初産婦だった。
全体のうち12名(25.5%)でリスク要因が認められた;妊娠高血圧症3名、妊娠糖尿病3名、前置胎盤2名、子癇前症1名、妊娠性肝内胆汁うっ血(cholestasis of pregnancy)1名、多胎(双子)妊娠1名

(何回数えても11名なのだけど…論文記載通りにします。)


分娩については47名中28名が経膣分娩、3名が誘発経膣分娩、16名が帝王切開だった。

前兆のある片頭痛(Migraine with aura; MWA、14名、29.78%)よりも前兆のない片頭痛(Migraine without aura; MWoA、33名、70.21%)の方が圧倒的に多かった。


平均妊娠期間は38.7±3.35週であった。早産(37週よりも早く出産)だったのは47名中7名(14.9%)で、以前より全例リスクのある妊娠とされていた。
妊娠期間は鍼灸治療回数(10回以上、10回未満)、年齢(30歳以上、30歳未満)、リスク妊娠の有無でそれぞれ2群に分け検討した。
本研究の仮説は、鍼灸治療の回数が多いほど、妊娠の最終段階への悪影響(鍼灸刺激による子宮収縮)が生じる確率が高まるとした。結果として、二群間で有意差は認められなかった。しかし、早産は鍼灸治療10回未満の群で多く見られ、その原因はおそらく妊娠関連合併症によるものであった。回帰解析の結果、鍼灸治療回数と出生時の妊娠年齢の間に有意な相関は見られなかった。


有害事象においてもEuropean Commission guidelineに基づき評価を行った。このガイドラインでは以下のように評価する;
Highly common(インシデント>1/10)
common(>1/100 and <1/10)
uncommon(>1/1000 and <1/100)
rare(>1/10000 and <1/1000)

最も多かった症状はRelaxation(19.1%)だった。Highly commonだったのは、刺鍼部位の疼痛、内出血、知覚異常、commonに分類されたのは血腫、灼熱感、めまい、眠気、吐き気であった。刺鍼部位の一過性の疼痛や知覚異常は得気との関連もあり、治療に必要な感覚である。

本研究では、治療の有効性が示唆された: 72.3%の患者が、発作の頻度と時間が少なくとも50%減少したと報告し、85.1%が発作強度の減少が見られた。


【本研究の限界】

  • サンプル数の少なさ

  • 対照群がない

  • 観察的な後方視的研究であるため、想起バイアス(recall bias)と回答の偏り(response bias)がある


結語

本研究の結果から鍼治療が妊娠中の片頭痛患者に対して安全であるかもしれない可能性が示された。10回以上鍼治療を受けた群では早産や重篤な副作用との関連は認められなかった。早産の発生率は一般集団で報告されている11%とほとんど同じであった。医療法的問題を避けるために、妊娠初期において早産や流産のリスクがある女性には、鍼治療を薦めない。今回のデータに基づくと、妊娠後期の防げない合併症は鍼治療の禁忌ではない。これらのデータを確認するために、より大規模なサンプルを含む前向き研究が望ましい。


****独り言メモ****

  • 元々MWoAの方が患者数が多いから、多めに出るのはわかるけど、妊娠中というファクターをかけてもこの結果なのか。なんとなくMWAのが重症な人が多くて治らないのかな、なんて思ってたから意外

  • 助産の授業に使う論文

  • めちゃくちゃ個人的には妊婦さんにCV12(中脘)!?!?となった。

  • 妊娠という難しい時期にこうした後方視的研究ができるのか!と。前向きの介入しかないと思っていたので、これならハードルも少し下がる。

  • 日本の出産年齢等を考えるとまた少し違うと思うので、あくまで外国で、30歳未満・以上で区切っているデータ。




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