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迷走神経刺激と頭痛の関連


本日の内容は、いくつかのReviewを読んで、私がまとめたものの紹介になります。

***以下まとめ***

経皮的迷走神経刺激は以下の二つに大別される

  • transcutaneous auricular VNS(taVNS):耳介部を刺激

  • transcutaneous cervical VNS(tcVNS):前頸部を刺激 

以前よりあった侵襲的な(手術を必要とする)VNSは、implanted VNSやinvasive VNSなどと表記され、iVNSと略す。侵襲性のない上記2つのVNSをnon-invasive VNSとし、nVNSと略される場合もある。


EVENT study
目的:慢性片頭痛の発作予防にtcVNSの実現可能性、安全性、忍容性の検討
対象:慢性片頭痛59名
デザイン:ダブルブラインド、sham-control study
介入:2分の刺激を5~10分間隔で2回毎日指定された時間に右前頸部に行う
指定時間①:起床後1時間以内
指定時間②:①から6~8時間後
指定時間③:②から6~8時間後
安全性:機器のトラブルでの脱落・中止はなかった。最も多い副作用は上気道症状と胃腸症状だった。
結果:予防的に継続してtcVNSを行うことにより、頭痛日数の減少が得られた。2ヶ月の継続では頭痛日数はベースラインから比較して-1.6日、8ヶ月の継続で-7.9日となった。

Silberstein SD et al.  Neurology. 87(5): 529-38, 2016


PREVA study
目的:慢性群発頭痛の急性期・予防療法としてのtcVNSの有効性の検討
対象:慢性群発頭痛
デザイン:前向き、多施設共同、オープンラベル、ランダム化比較試験
介入:2分間の刺激を5分間隔計3回、毎日指定された時間に右前頸部に行う
指定時間①:起床後1時間以内
指定時間②:①から7~10時間後
急性発作が出た場合には3回目のVNSも許可されたが、その際は次の刺激までは2時間以上あけることとした。
結果:標準治療のみでは週の発作回数が-2.1日減少に対し、tcVNSを追加した群では-5.9日となった。

Gaul C et al.  Cephalalgia. 36(6): 534-46, 2016


臨床上は効果が認められているが、その詳細な機序については明らかではない。現在言われている仮説などのまとめが以下の通り。


頭痛に対するVNSの作用機序

  1. 侵害受容の調整

  2. 神経伝達物質の調整

  3. 皮質拡延性抑制への影響

  4. 自律神経性作用



侵害受容の調整


基礎研究①
:求心性迷走神経刺激により三叉神経・三叉神経視床ニューロンの反応を直接変化させる。
基礎研究②:VNSを24時間・2mA・20Hz・0.5msパルス幅・20/18秒でON/OFFとして刺激したところ、三叉神経領域に注入したホルマリン液の反応がsham刺激と比較して減少した。
基礎研究③:10Hz連続VNSは硬膜への電気刺激によって誘発される三叉神経反応を48%のニューロンで抑制した。しかし、VNSによって促進されるニューロン活動が29.5%、刺激に無反応のニューロンが22.5%存在した。

刺激強度や速度によって異なるタイプのニューロンの閾値があり、それらの影響でばらつくのか、もしくは下行性疼痛抑制系の関与などが示唆されている。

 また中枢への影響を示唆する報告として、三叉神経-自律神経反射の活性化に対するnVNSでは、視床下部、海馬傍回などいくつかの中枢構造が著しく抑制される。


神経伝達物質の調整

 δオピオイド受容体の活性化を介したオピオイドシステムの影響が示唆されている。(ここ詳しくない&苦手なので、めちゃくちゃ割愛、、、)


皮質拡延性抑制への影響

基礎実験が2つ有名そうなのがありましたので紹介。どちらも同じLABのもの(神業みたいな手技だと思います)

ラットを用いた基礎研究その1
目的:tcVNSとiVNSでのCSDへの影響を検討する
tcVNSでの結果:CSD感受性の有意な低下
CSD発生に必要な電気刺激強度もtcVNS後は約2.5倍(閾値が上がった)
CSDの伝播速度も低下し、その効果は3時間持続
iVNSでの結果:CSD感受性の有意な低下
刺激側は右迷走神経に電極留置
刺激15分ではSham刺激と差がないが、90分ではCSD頻度・閾値ともに有意な改善
またそれらは刺激側・非刺激側ともに似た結果だった(両側性に反応が見られる)

Chen et al.  Pain. 157(4): 797-805, 2016  


ラットを用いた基礎研究その2
目的:VNSがCSDに影響を与えるメカニズムについて検討する
実験結果①:頸部迷走神経を中枢側・末梢側でそれぞれ切断し、CSDへの影響を検討したところ、末梢側切断では切断前(無傷)と比べて変化なく、CSDへの影響が見られたが、中枢側切断ではVNSの効果は完全に遮断された
実験結果②
:NTS(延髄孤束核)に薬剤投与で神経伝達を遮断した状態ではCSDへ影響は見られなかった。
実験結果③:ノルエピネフリン、セロトニンをそれぞれ枯渇させた状態で検討したところ、それぞれでCDS抑制が減少し、2つとも枯渇させるとVNSの効果は完全に消失した

Morais A et al.  Pain. 161(7): 1661-1669, 2020



どちらの論文も、目的と結果がわかりやすくて、最高でした!
解剖の復習にもなりました!


知れば知るほど、奥が深い迷走神経の世界。
私たちの分野にも関わりが深い神経だと思いますが、わからないこともたくさん。
うつやてんかんに効果的なメカニズムについてもおおよそ同じと考えられていますが、iVNSは薬剤抵抗性てんかんには保険適応があり、もう少し色々な知見が収集されているのだと思います。


とりあえず、このnoteは一回ここまでにして、今度は疾患別にまとめてみようかしら…




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