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前兆のない片頭痛に対する灸治療の有効性と安全性:ランダム化比較試験

背景

 前兆のない片頭痛(Migraine without aura: MWoA)は最も一般的なタイプの片頭痛であり、アメリカでの有病率は約28.4%、中国では4.2~14.6%と報告されている。片頭痛は生活の質に甚大な影響を与えるが、疼痛コントロールに鍼灸治療が用いられてきた。
 Penetrating moxibustion(透熱灸のようなもの?)は古代中国での治療をベースに新しく開発されたお灸の技術である。これは経穴に対し、43~45℃にコントロールした刺激を与えていく。患者の皮膚が赤くなり、汗をかき、熱さがより深く浸透していくのを感じるまでお灸を行うものである。
 本研究では、MWoAに対するPenetrating moxibustionの安全性と有効性を検討する。


方法

選定基準は以下の通り

  1. 2~4に当てはまる発作が少なくとも5回ある

  2. 頭痛の持続時間は4~72時間以内(無治療もしくは介入しても効果なし)

  3. 以下の特徴のうち少なくとも2つは当てはまる(①片側性、②拍動性、③強い痛み、④日常生活に支障がある

  4. 以下の特徴のうち少なくとも1つは当てはまる(①吐き気と/または嘔吐、②光過敏と/または音過敏)


介入基準は以下の通り

  1. MWoAの診断基準を満たす

  2. 18~65歳未満(初発発作が50才以下)

  3. 月1~6回の頭痛発作があり、かつ1年以上の罹病期間がある

  4. patients with Gan(Liver)-yang hyperactivity syndrome of head wind in Chinese Medicine (肝経の過剰な活動がある頭痛持ち???)

  5. 神経学的所見はなく、頭部MRIもしくはCTが正常

  6. 頭痛ダイアリーをつけることができる

  7. インフォームドコンセントが取れる


【治療について】
使用した鍼(鍼も使うの?)は0.30×25 mm、艾はグレードAのものでStick上で大きさは18mm×200mmである。

治療群には、下記経穴に対し治療を行なった;
DU20(百会)、GB20(風池)、SJ20(角孫)、SJ5(外関)、GB40(丘墟)、KI3(太渓)

Manipulationとして、SJ20には横刺で12.5mmまで刺入した。
両側SJ5、GB40、KI3は直刺にて12.5mm施入した。DU20とGB20以外の全ての経穴では得気(De-qi)を起こすこととし、得気後は30分置鍼を行なった。
また同時に患側のDU20とGB20にPenetrating moxibustionを行なった。術者の片手の中指と人差し指でGB20とDU20の患者の髪を分け、もう片方の手で一端に火のついた艾Stickを当て、お灸を据える。局所の皮膚が赤くなり、汗をかき、熱感が浸透するのを感じるまで、30分以上行なった。

 コントロール群ではmildなお灸を行なった。選穴や刺激方法は上記治療群と同じだが、DU20とGB20へのお灸の方法は、一端に火のついた艾Stickを経穴に向け、皮膚から2cm離して15分間、患者が局所の皮膚に温感を感じるまでとする方法をとった。
治療頻度は4週間、週に3回で、全被験者は治療終了後4週間と16週間にFollow-upを行なった。

(ということは、お灸はDU20とGB20だけで、その他の経穴には得気が得られるほどに鍼をし、二群で違うのはお灸の刺激量だよ、とのことかな)


【評価】
効果判定:”Guidelines for Clinical Research of New Chinese Medicines”に基づき以下のように判定した。

  • 治癒(Cure):痛みは消失し、一ヶ月の経過観察後にも痛みがない状態

  • 著効(Markedly effective):頭痛の症状消失後、一ヶ月で再発するが、治療前と比べて頭痛頻度が50%以上減少している

  • 有効(Effective):治療前と比べて頭痛頻度が25~50%に減少している

  • 無効(Ineffective):治療前と暗いべて頭痛頻度の減少が25%未満

その他、疼痛強度はVisual Analogue Scale(VAS)、痛みの程度は4段階、Migraine Specific Quality of Life Questionnaire(MSQ)を取得した。


【安全性評価】

以下の4段階

  • Level 1:鍼治療による副反応がなく安全

  • Level 2:比較的安全で、副反応があっても鍼治療をそのまま継続できる

  • Level 3:鍼治療中の失神など中程度の副反応があり、適切な治療後に鍼治療を継続できる

  • Level 4:副反応により試験打ち切り


結果

治療群30名、コントロール群30名となり、ベースラインに二群間の差はなかった。
 治療の効果判定については、治療群で有意に高い結果だった(P<0.05)。頭痛強度やVASスコア、MSQについては両群ともに介入前と比較すると介入後で有意に良くなる結果だったが、治療群の方が良い成績だった。

 安全性評価については、両群で4名が治療終了時に血腫が見られ、またコントロール群1名で空腹で治療を行なったため失神の前兆のような症状が見られた。全例、適切な治療により回復した。
 安全性評価レベル1は、治療群で28例、レベル2が2例、対照群でレベル1が27例、レベル2が3例であった。安全性評価については、両群間に有意差はなかった(P>0.05)。

結論

Penetrating moxibustionはMWoAの治療において効果的に痛みを和らげ、患者のQOLを向上させることができ、治癒効果は温灸より優れていた。


感想と自分メモ

  • 片頭痛を対象に"お灸"を用いた珍しいRCT

  • お灸の刺激量以外は同じ治療をしているので、今回用いたPenetrating moxibustion(透熱灸みたいなジャンルなのか…?)のが温灸よりいいだろうとのこと

  • 施灸部位を増やすのもいいのか?刺激量の問題?

  • やっぱり灸だけでのコントロールは難しいと思って、このプロトコルなのかなあ?

  • 個人的には、interictal / ictalなのかは記載がほしい(月に1~6回の発作がある人だと、週3回治療したら何処かではictalになりそう)

  • 発生した有害事象を見てもやっぱり"元々の頭痛の悪化"という記載はなく、片頭痛に対してはもはや急性期・予防的どちらにおいても介入した方がいいっていうのをもっと鍼灸師側に浸透させる必要がある





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