創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」26話 恋人たちはノマド .ad(アンドラ公国3)
25話のあらすじ
メリチェイ教会で、ジョニーと絵美の前にアンドラ公国の新たなガーディアン、天使(土地神)が現れた。マドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷で得た雪解け水から生まれた真っ白な毛の子羊は、名前を「アンドラの子羊(エル・サイ・アンドラ)」と、自ら名乗ったのだった。
26話
場所: 地球、アンドラ公国(ドメイン .ad)
記録者: ジョニー マイジェンダー: やや男性 18才
出身地: ブリテン 趣味: ネコとたわむれること
教会の暗がりのなかで、誕生したばかりの白い子羊の毛がきらきらと輝いている。こうした奇跡を可視化できる万能通信アイテム、コミュニ・クリスタルを配られたひとびとや、見守っていた神父さんたちのあいだに歓声が沸いた。
「おお、素晴らしい……主のご降臨のようではないですか」
メリチェイ教会の神父さんが、感極まって静かに十字を切る。
『ぼくら子羊は、神の子イエス・キリストの象徴のすがたでもあるからメェ! そのすがたの描かれ方としては、心臓から血を流しているときもよくあるメェ。でもぼくは、食べられたり、心臓から血を流すのはちょっと嫌だメェ~。せっかく新しく生まれたのに!』
「あはは、大丈夫だよ。さすがに23世紀の現在で、土地神さまを食べようとするひとはいないと思う! ええと……エル・サイ・アンドラさま?」
絵美が子羊のジョークに笑い、名を呼ぶのにどうするかすこし困った顔をした。
『アンドラさん、でいいメェ!』
「アンドラさん」
僕も子羊の名を呼ばせてもらう。
『君たちは? どこから来たのかメェ』
「僕はジョニー。ロンドンに住んでいました」
「あたしは絵美。日本生まれです」
『フムフム。絵美ちゃんの故郷、日本のことばなら、ぼくはアンドラ山(さん)で、よりふさわしい呼び方だメェ?』
「あはは! 確かに、渓谷の雪解け水からお生まれになったんですもんね!」
絵美が笑う。この子羊……いやアンドラさん、か。かなりジョークが好きみたいだ。
「子羊アンドラ、誕生を祝福してそのお体に触れたいという者たちがおるのですが……」
神父さんがそっとやって来て、守護者の誕生を見守っていた周りのひとびとの思いを代弁した。
『構わないメェ!』
「おお……ありがたいことです」
許しを得て、神父さんを初めに、コミュニ・クリスタルを配布されたひとびとが次々にやって来てアンドラさんに触れた。
「あれ……アセンションちゃんのときもそうでしたけど、触るのは基本的にダメ、って西アフリカの海の神、アグエさまがおっしゃっていたような気もするんですけど。ママ・マリア、そのあたりは?」
僕は気になったことをママ・マリアに聞いてみた。
『我が子イエスが復活したときも、疑い深いトマスは、イエスが十字架に付けられたとき、出来たわき腹の傷に触れて確認したわ。守護者や死んだひとびとの体を、三次元世界の物質化をして触れさせるということが、あまりこちら側、わたしたちの世界で良くないとされているのは、アストラル・サイド、目に見えない心の領域でもある永遠の四次元以上の世界を、軽々しく扱ってほしくはない、そして有限の領域である三次元世界のひとびとがいつまでも、肉体や物質という滅びるものに対して触れていたいという未練を作ってはいけないという思いがあるのだけれど……。それでも触れてほしい、とこちら側の者が望めば、大丈夫。今日のアンドラさんみたいにね。わたしもそのくらいは、目をつぶるわ』
子どもたちが、きゃっきゃっとはしゃいでアンドラさんのくるくるとした真っ白な毛に触れるのを見て、ママ・マリアは目を細めた。
「子羊アンドラ、そして火星滞在経験者のジョニーさんと絵美さん。我が国アンドラの、新たなガーディアンの誕生を祝福いたします! 食堂にささやかなお昼ご飯をご用意しておりますので、どうぞお越しください」
ひととおり、ひとびとが子羊に触れて満足したのを見たあとで、神父さんが僕たちに声をかけた。
「えっ、お昼ごはんだって! やったね、ジョニー」
「うん。ひと仕事して、僕もちょっとおなかがすいてきたよ」
僕と絵美は快く、神父さんの申し出に応じたのだった。
(続く)
次回予告
新しく誕生したアンドラ公国の守護者、アンドラさんとともに、昼食会となったジョニーと絵美。ふたりは、郷土料理に舌鼓を打った……。6月中旬ごろの投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより本田しずまるさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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