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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」6話 200年後は孤独じゃなかった

5話のあらすじ

姉のローズに続き、ボーイフレンドのジョニーの両親が病に倒れたとの知らせを受けた絵美。疫病退散の御利益がある神さまスサノオノミコトと、妖怪のアマビエに治してもらえるように古来の神々や万物の意識とコミュニケーションを取ることが可能な「コミュニ・クリスタル」を使い、彼女は病気の治癒を願う。そして、ジョニーも彼の文化圏で病気の治癒を引き受ける癒しの大天使、ラファエルを頼ることに……。ここからはジョニーの記録。

6話

日時: 2222年2月10日 フルートの日(火星自然創生コロニーにて)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 15才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること


どうしよう、絵美との話を終えて、僕の胸で心臓がとても速い鼓動をたてている。病気の治癒を天使に願うだって!? 子どもじゃあるまいし、願って何になるんだ? という皮肉な心が沸き起こる。

だけど、僕は見てしまった。絵美の求めに応じて、絵美にゆかりのある神さまスサノオノミコトと、疫病退散を行ってくれるという妖怪のアマビエが現れて、アストラル・サイド、つまり向こう側から僕の両親のために働いてくれるところを。

日本の神さまや妖怪がいるんだから、天使の方々だって、そりゃいるだろう。いつも本当に見守ってくれているとするなら……やってみよう、絵美の助言どおり、病気を癒す大天使ラファエルとのコンタクトを。

僕は意識を集中した。天使がどんな格好をしているかなんて想像がつかないけど、やっぱり翼と輪っかを持っているんだろうか?

『ジョニー』

僕の頭の中に、涼やかな声がした。

「……ラファエル?」

『はい。あなたがわたしたちに助けを求めることを、ずっと待っていましたよ』

目の前に、翼を持った古めかしいローブ姿の美しい中性的な青年が現れた。教会のステンドグラスなんかに描かれている、典型的な天使の姿だ。

「……ほんとに、いるんですね」

『はい』

「だったら、なんで善人を先に救わないんですか!? 僕の両親みたいな人間のクズの前に、善人が報われるなら、まずローズ姉さんが助かるべきじゃないですか」

『大いなる神さまの定(さだ)めがあるのです。イエス・キリストが十字架にかけられたように、善人は、周りのひとびとにその死をも捧げることがあります。あなたの姉ローズは、魂としてそれを選んだということです』

「クソッ! やっぱり神さまなんてろくなもんじゃないや」

胸がムカムカした。僕は両親が大嫌いだけど、同じくらい、神さまだって大嫌いなのかもしれない。天使は? 僕のことを御見通しなら、そのもやもやとした、いまいち見えない存在に対する不信感も分かるはずだ。

『ジョニー。あなたが、死んでほしいほど両親を憎んでいたのは、心の在るところのこちら側には届いていました。だからこそ、その願いが今叶おうともしているのです』

そうだ。僕は今でも両親が死んでしまえばいいと思うくらい憎い気持ちと、死んでほしくない、治ってほしい気持ちの狭間で揺れている。だけど……。口では「人間のクズ」なんて言ってしまったけれど、1ミリどちらかに針が動くとするならば……本当に1ミリくらいの、気持ちで、生きて会いたいという心が残るんだ。

「親が死ねばいいなんて考えを持っている僕も、愚かな息子だったんです。まだ、こうしてラファエルの姿を見ても信じられない気分だけど……本当に出来るのなら、僕のバカ親たちを助けてください」

『了解しました。ご両親のことは任せておいてください、ジョニー』

ラファエルは優しい微笑みを見せて、ふっと姿を消した。

地球の故郷に心を向けて、僕は祈る。まるで子どものときのように。

何時間かが経ち、僕の腕時計型の「コミュニ・クリスタル」に光る文字列が浮かび上がった。マッシモ、とある。ああ、ろくでもない両親の代わりに、よく面倒を見てくれていた団体で、僕の担当をしてくれているひとだ。

姿が個人コロニーのリビングルームに浮かぶ。短く切った髪に、鍛えていそうな筋肉のついた体。それでいて、グレーの瞳と物腰はとても柔らかい、いいひとなんだ。

「マッシモさん」

「ジョニー。あのアマビエというアートセラピーは効果抜群だね! 二人とも回復の兆しが出てきたよ」

「本当ですか!? ……良かった」

峠は越したことを知り、つい口から出た言葉に、僕は自分でも驚いた。良かっただって!? 死ねば良かったんじゃないのか!? アストラル・サイドにある意識、心の奥底は、本当に分からないもんだ。

「おや、ずいぶんと素直になったじゃないか、ジョニー?」

「ええ。今回のことで、天使のラファエルを頼ってみるくらいには」

「なるほど。火星に行って、成長したんだなぁ」

マッシモさんが感慨深げな表情で僕を見た。

「はい。ちょっとは、マシな人間になったみたいです」

と、僕は答えた。

「そうさジョニー。自分は弱いままに、それをさらけ出して誰かに頼ることが出来てこそ、ひとの成長なんだ。火星に生きるひとびとと、地球に残るその家族の連絡を取るためだけに『コミュニ・クリスタル』はあるんじゃない。現在は主にその目的で使われているがね。ガーディアン・フィーリングの技術は、見えない世界のさまざまな意識体ともコミュニケーションを取れる。家族の仲というのは、特に子どもと大人と言う時代の価値観がまったく異なる世代が家族としてともに暮らすわけだから……。案外、お互いにそれぞれの正しさを主張して、他人よりも心が疎遠になってしまうことだってあるんだ。君と、君の両親のようにね。硬直した親子関係は、特に子どもにとって大きな心の傷となってしまうから、もちろん私のような現実世界での支援団体のメンバーも力になるが、悩みや苦しみをすべてご存知の、目に見えない天使たちや神さまだっていつでも君を見守っている、ということを感じるためにガーディアン・フィーリングを使っていいんだよ」

「……でも、やっぱり僕は、神さまなんて大嫌いです」

「それでいい。ガーディアン・フィーリングの技術で確かにいると証明されても、恐怖と無知とのなかで『いない』と声高に叫ぶ偽物の科学信奉者の考え方から卒業して、素直に『嫌い』と言えるようになったのは、大した進歩だよ」

マッシモさんが優しく微笑んだ。ああ、ホログラフじゃなくて、本当の彼に会いに……そして、クソッタレな両親の様子を見に、故郷に帰るのも悪くないな、とほんのすこしだけ思うことが出来た。

(続く)

※ 癒しの大天使ラファエルさまは、お名前が「神は癒す」という意味で、昔から医療従事者や難病治療を目指す科学者など、ひとを癒す役目のひとびとの守護者として信仰されてきました。また、あらゆる旅行者の守護者ともされているので、この夏、旅行するひとびとにどうか病魔が襲い掛からないよう願います。

次回予告

場面は地球に変わり、記録者はマッシモに。病気から回復したジョニーの両親を諫めるのも彼の役割で……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからGomashioさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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