人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 五話「信長公たちと、司祭フランシスコ」
登場人物紹介
織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人となって一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。
助左衛門(すけざえもん) 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。
四話のあらすじ
天使に救われ、本能寺近くの教会(南蛮寺)で弥助と再会をした信長は、日の本に船に乗って迷い込んできたゴブリンとも出会い、ゴブ太郎と名付けてはるかアフリカへの旅を始めることを決めたのでした。
五話
フランシスコ・カリオン司祭は、目を疑った。明智勢の兵から処遇を任され、縄を解き放った弥助を、彼が失った主君のために祈るといいと礼拝堂を使わせたところ……。白と黒の翼を持ち、宙に浮いた天使。見たことのない日の本の者。一本の角を持った緑色の肌の小鬼が増えていたのだ。
「て、天使だ……」
司祭は跪(ひざまず)き、アーメーン、と祈りの言葉を口にした。
『フランシスコ・カリオン。あなたに、この者たちのことを託します。アフリカから連れてこられた弥助が、故郷へ帰ることが出来るように計らいなさい』
天使ナナシがおごそかに告げる。
「しかし……弥助は従者でした。ふたたび我々のもとで働かせることでは、良くないのでしょうか?」
『……主がいつ、白人は有色の奴隷をこき使い、自分たちは贅(ぜい)を尽くし、楽をしても良いと決めたのですか? 神のもとにひとびとはすべて愛すべき子羊であり、困っている者がいるのならば肌の色を問わず隣人として助けとなる、それでこそ主の教えではありませんか。司祭のあなたが弥助は奴隷で当然と考えてどうするのです』
「は、はい……しかし私は一介の司祭の身。出来ることには限りがあります。この件では、我がイエズス会の実力者、ルイス・フロイスに処遇を良く計らっていただけるように致します、天使よ」
司祭は天使ナナシを見上げ、祈りを述べるような面持ちで誓った。
『頼みましたよ、フランシスコ・カリオン』
天使ナナシは、ぱさりと翼をはためかせた。
「なんと、おぬしはルイス・フロイスを知っておるのか」と信長。
「……あなたは?」
怪訝な顔で司祭が問う。
「うむ、弥助の仲間じゃ。ルイス・フロイスと会ったこともある侍でな。これは話が早くなりそうだのう」
「なんと、同士ルイスとも面識が……。ただ、今は本能寺で織田信長公が討たれるという事件があり、明智光秀公の手勢がどうなるかが分かりません。同士に会うのも危険なこととなります。ここに来て頂けるよう手配は致しますが、しばらくはこの教会に留まってください、ええと……侍どの、お名前は?」
司祭に聞かれて、信長は思案した後に答えた。
「そうじゃな、小田信春(おだのぶはる)と申す」
「おお! かの織田信長公によく似た名前ですね」
「うっ……そうかの?」
タラリと、信長は内心冷や汗をかいた。
弥助と信長は、本能寺近くの教会にてルイス・フロイスの来訪を待ちながら、しばしの滞在をすることとなったのだった。
(続く)
次回予告
本能寺の変から二週間が経ち、明智光秀と羽柴秀吉が対峙した山崎の戦いが終わり、京の都は平和を取り戻しました。司祭フランシスコ・カリオンの求めに応じ、本能寺近くの教会にやって来たルイス・フロイスと、信長たちは会うことになります。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりKawai_photoさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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