人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 五十一話「歌と踊り」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
五十話のあらすじ
偽司祭の悪鬼ファルソディオをなんとかするため、浄化の虹の竜を呼び出す12の秘宝を世界に求めて冒険と商売の旅を始めた信長公一行。東洋の少年神哪吒さまに導かれ、台湾の東に浮かぶ緑島へと上陸します。そこにはアミ族の村長さんと巫女さんが待っていました。
五十一話
ドム、ドム、ドン!
民族衣装の頭飾りと服とに身を包んだ、女性ふたりが持った縦長の棒が地面を打つ。そのリズムに乗って、若い男女が十人以上は現れて、真ん中に燃える火の周りへと進んだ。
棒を持った女性の歌が響く。祈りの声ともとれるような調べだ。
十人以上の若者たちは男女に分かれ、男性たちは揃って力強く大地を踏む。女性たちはしなやかな風のように体を弾ませ、同じ手や足の動きを舞う。
信長、弥助、ジョアン、助左衛門の四人は、大地と風のリズムを表現したかのような歌と踊りに、すっかり魅了されていた。
リズムに、すでに体を小刻みに応じさせているのは弥助だ。
「それでは客人がたも、ご一緒にどうぞ」
村長のオラドが告げると、弥助は心底うれしそうに、踊りの場に入った。見よう見まねで、すぐに覚えたアミ族の踊りを舞う。
「客人がたには、良い踊り手がいらっしゃいますね」と巫女のティダルが微笑んだ。
「俺らも踊るで、ジョアン」
「う、うん、助左くん。僕、上手くできるかなあ」
音楽と言えば、教会のオルガン演奏や唱歌など西洋のリズムに慣れているジョアンがすこし、しり込みをする。
「蘭丸よ、かような場の踊りとは、こころを明るく出来ればそれで良いのじゃ。参ろうぞ」
信長の声に従い、弥助のあとに、三人も続いた。それほど多くの動作を必要としないその歌と踊りは、信長、ジョアン、助左衛門もなんとかだんだんと様になっていく。
歌と踊りが盛り上がってくると、アミ族の若者たちは輪になって手をつなぎ、踊り出した。そのなかに四人も入れてもらう。ひとの輪は右へ左へ、そうしてやがて、歌の調べが終わり、踊りも一段落となった。
「にぎやかな歓迎の宴を、儂らのために開いてくださり、誠にありがたきことにござる」
信長一行と、村長のオラドや巫女のティダルの言葉を、宙に浮かぶ哪吒が通じさせているらしく、オラドはにこやかに答えた。
『せっかくの宴ですから、客人がたも故郷の踊りなどいかがですかな』
「ぬう、それでは儂も踊りましょうかな。故郷の日の本にて、よく舞ったものじゃが。蘭丸よ、扇はあるかの」と信長が意気込んだ。
「はい、上様。こちらに」
ジョアンは贈答用に持参した品物から、信長に扇を渡す。
「それではひとつ、これより舞いまする」
パチリとはぜる炎を前に、静かに見守るアミ族のひとびとの視線を受けて信長は扇を持って歌い、舞い始めた。
「人間五十年~、下天のうちをぉ~、比ぶればぁ~、ゆめまぼろしのぅ、ごとくなりぃ~、ひとたび生をうけぇ~、滅せぬもののぉ、あるべきかぁ~」
(続く)
※ アミ族の歌と踊りの描写は、YOUTUBEにて「アミ族」の検索で出てきた動画を参考にしています。
※ 信長公が今回のラストを飾った節は、幸若舞「敦盛」の一節です。公が尾張の地の小さな領主であったころ、大軍勢で攻めてきた今川義元公の一報を受けて桶狭間の合戦に臨むとき、公はこの一節を歌い、舞ってから戦に行ったというお話が「信長公記」に残っています。
次回予告
信長公の「敦盛」に始まり、一行はアミ族のひとびととこころを通わせます。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより人生の旅人 鈴木 匠さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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