一番の恩恵
『あなたの落としたZIPPOライターは、この金のですか? 銀のですか?』
夢を見ているに違いない。駅前のみんながときどき待ち合わせの場所にもしている噴水に、うっかりライターを落としてしまった俺は信じられないものを見た。
ローブを身にまとった女性が現れて、金のライターと銀のライターをもって、そう聞いてきたのだ。
おお、これは! あの超有名な「正直に答えたら、神の恩恵が与えられる」っていう泉の女神の斧のやつ、だよな?
にぎやかな駅前の、小さな噴水にも女神がいるとは思わなかったが。
いわゆるふつうの当たりさわりもない人生を送ってきた俺に、ビッグチャンスが巡ってきたらしい。
「落としたのはふつうのライターですけど、誕生日プレゼントに彼女からもらった特別なやつなんです」
俺は、噴水から現れた女神に正直に答えた。これで金と銀のライターがもらえりゃ、万々歳だ。
『ふふ、正直者ですね。あなたには、女神のわたしから一番必要な恩恵を贈りましょう』
噴水の女神は、にっこりと笑って金と銀とのライターは持ったまま、水の中に消えていってしまった。
お、おい! それもくれるんじゃないのか!? 話が違う。
ガックリと気分を落とした俺が足元を見ると、噴水に落としたはずの俺のZIPPOライターが置いてあった。俺はよく知らないんだけど、彼女が大好きなキャラクターの絵柄のやつ。
そのキャラが、彼女のようにドンマイ♪ って笑ってる気がする。
まあ、この記念のライターが戻ってきただけでも良しとしよう。
気を取り直して俺が家に帰ると、彼女が遊びに来てくれた。おお、これが恩恵ってやつかな?
さっそくこの不思議な話をしてみると。
「良かった、わたしのプレゼントしたライターを放って、金と銀のほうだ、って言うようなひとだったら、わたしも別れてたよ」
彼女からそんな言葉が。やべえ、一番の俺の恩恵って、やっぱり機嫌のいい彼女がいることだったんだな。女神、大切なライターを返してくれてありがとう、修羅場にならなかったことは、確かに一番必要でした。
おしまい
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより九十九屋さんたさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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