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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 三十九話「マカオの市場で」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

三十八話のあらすじ

海の女神、媽祖まそさまと、守護聖人のアントニオ氏から聖パウロ天主堂にて、悪しき教えを広めるファルソディオをなんとかしてほしいという依頼を受けた信長公一行。つかの間の茶と菓子のひとときを楽しんだのち、市場にいるというその男、ファルソディオのところへと行くことにしたのでした。

三十九話

ガヤガヤと、市場の通りを行くひとびとの声が聞こえてくる。ポルトガル人の商売を目当てに、内陸や近接の土地から来た明の国のひとびとや、さまざまな土地からやって来た船乗りたち。市場には生鮮食品から、陶磁器、絹、おそらく海と陸とのシルクロードを使って届いたであろう香辛料や土地色の豊かな雑貨や家具に至るまでがところせまし、と並んでいる。

信長は、先頭に仮初めの船長であるジョアンを行かせ、自分たちの用意した商売品の中でも、とびきりのうつわと日の本の扇を弥助と助左衛門に持たせて後ろに控えさせた。そして自分はジョアンのそばに控える従者のかしらのふりをしつつ、さまざまなものとひととが行き交う市場を子どものようにはしゃいだ顔を隠せないまま、見ている。

「日の本の外は広くて大きいのう。かような珍しきものが山とあるわい」

ポルトガルから伝わった南蛮ものの鉄砲を始め、さまざまな商品を見てきた信長だが、ここ澳門マカオには、世界のすべてが集まっているように感じた。

『ファルソディオは、あっちです』

すっかり人混みにまぎれたひとりの青年として、ついてきたアントニオが市場の通りの先を案内する。

屋台や店の立ち並ぶ一角、豪奢ごうしゃなビロードのカーテンが降りた簡易小屋のようなところがあった。

「ファルソディオさま……おられますか?」

「おお、オルガニストのアントニオか」

威勢の良いポルトガル語が、ジョアンの耳に入ってきた。ビロードのカーテンをあげて、中からその男、ファルソディオが出てくる。白地に金の糸の装飾が施された、立派な司祭ふうのころもを身にまとい、恰幅かっぷくが良く、頭をり上げた男だった。年は、信長と同じくらいだろうか。周りには、屈強そうな男たちがすぐにやってきてガードをする。信長一行には、男たちに赤黒い角が生えているのが分かった。

「……すきはなさそうじゃの」

「そうですね、上さ……いえ、信春」

ひそっと、信長とジョアンが言葉を交わす。

「この者たちは? その少年は我らの仲間のようだが、そこの珍妙な頭の髪の毛のふたりの奴隷と、黒人奴隷は?」と、ファルソディオが一行を値踏みするように見て言う。

「日の本の商品を仕入れ、澳門にやって来た商人です。彼らの髪のかたちは『マゲ』といって、日の本の文化ですよ。初めましてこんにちは、ファルソディオさん」

ジョアンは努めてにっこりと笑った。

「は、ジパングか! 金が湯水のように出ると聞いて行ってみたが、なんの、大嘘もいいところだった! 銀の産出のほかには大したものもないところだな。大きくて、はるかに古い文化と伝統を持つこの地に比べれば、僻地へきちもいいところだ」

ファルソディオは尊大に鼻で笑う。きらびやかな司祭ふうの姿は、その尊大さをさらに醜悪なものにしていた。

「そんなこともないですよ。お時間をください。僕が仕入れた品を、まずは見てみて頂ければ」

淡々と商談をするジョアン。

「ふむ、白人の仲間から言われれば、仕方がないな。いいだろう、見せてみろ」

ファルソディオはジョアンによしみを感じ、応じたようだ。

「信春、茶器と扇を」

ちょっとだけ船長の姿が様になり始めた少年が命じる。

かしこまってござる。弥助よ、頼むぞ」

信長は仮初めの従者のかしら役に徹した。

ファルソディオは、まず進み出た弥助をさげすみに満ちた目で一瞥いちべつすると、茶碗を受け取った。

(続く)

※ 鬼といえば、中国の昔の文化圏では幽霊のようなものを主に示すことが多かったのですが、物語のなかでは神話や伝説をミックスして、澳門でも日本の鬼を登場させてみました。

次回予告

ファルソディオの、鑑定結果は……。

どうぞ、お楽しみに~。

これまでのお話のあらすじとリンクはこちら↓

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりNAOKIBLOGさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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