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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 三話「明智光秀、悩む」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人となって一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。

助左衛門(すけざえもん) 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

二話のあらすじ

本能寺の変で武将としての人生は終え、可愛がっていた黒人侍の弥助を助けアフリカの地へ行くことを決める信長公。天使に連れられ本能寺を離れました……。

三話

……いかがいたすべきか。

明智光秀は困惑した。本能寺の炎が止むまで、建物や敷地を残らず徹底的に調べたが、信長の遺体は見つからなかった。おそらく炎によって燃え尽きたのでしょう、と家臣が言った。

光秀の今の問題は、目の前にいるひとりの男だ。獅子奮迅(ししふんじん)の勢いで光秀の兵を散らし、ほかの信長の手勢は早々と戦死したが、その男……黒人侍の弥助は、最後の最後まで戦い抜いていた。そして力尽き、光秀のもとに沙汰を仰ぐこととなったのだ。

「敵ながら、天晴(あっぱ)れな男よ」

光秀は敵であった弥助を褒めた。背の高い真っ黒な肌をした異国の侍は、捕らえられてもなお、怒りの矛先を光秀に向けた。

「なぜ、殿さまを裏切った!?」

はっきりと聞こえる日の本の言葉を口にする弥助。

「戦乱の世とはそのようなものだ、隙があれば裏切り、裏切られる。私もそのように倣(なら)い行動を起こしたまでのこと」

光秀は弥助の問いに、冷静に応じた。が、頭の中は。

……まさかこの戦いで異国との問題が発生するとは……。上様の南蛮好きに、死んでまで振り回されるとはな。

そう、弥助の処遇のことを目まぐるしく考えていた。

弥助は宣教師がこの日の本に海を渡って連れてきた従者だ。珍しい漆黒の肌と、実直で聡く陽気な性格を気に入った信長が交渉してもらいうけ、自分の家臣として採用した。ゆくゆくは城持ちにするとも言っていたくらい、信任は厚かった。

……討ち取れば、南蛮人たちとの貿易に支障が出るやも知れぬ。

淡い天下取りとなった光秀にも、貿易によって日の本の国を発展させようという強い意志はある。信長が行った、自由な商売を認める楽市・楽座の治世を自らの代で終えようというつもりは毛頭ない。

この異国の黒人侍が、どのように南蛮人たちとのつながりを持っているかは分からないが、ただの敵兵として討つ、という処理をするわけにはいかないだろう。

「弥助。そなたの処遇は、南蛮寺(教会)に任す。……誰か、この者をキリシタンの者たちのところへ連れて行け」

「はっ」

縄で縛られた弥助を、兵たちが引き立てていく。

「む……?」

光秀は、しばし目を疑った。連行される弥助のあとを、ぺたぺたとした足取りで小さな緑色の小鬼(こおに)が付いて行くのを見たのだ。

「……気のせいか?」

目を凝らしてみると、やはり、いる。しかし戦後の処理をこれから短期間で膨大にこなさなければならない光秀にとって、それはささいなことだった。

信長の手勢はほとんど討ち果たされたが、弥助は光秀の采配により命を長らえ、本能寺のほど近くにある南蛮寺へと渡されることになったのだった。

(続く)

次回予告

四話は、本能寺の近くに建てられた南蛮寺(教会)で、信長と弥助は再会を果たします……。どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりK.zakiさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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