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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」37話 恋人たちはノマド ~幕間の真菜たち~

36話のあらすじ

アラブ首長国連邦の新たな守護者、火星探査機のマーズホープオービター、アル・アマルを呼び起こし、子どもたちに火星の経験を伝えるという仕事を終えたジョニーと絵美は、オフタイムで屋内スキーも楽しんだあと、旅立ちの時刻を迎えたのだった。そして場所は変わり、地球。家族みんなで絵美へのコンタクトを宇宙人たちの技術を使って、行おうとする真菜がいた。

37話

場所: 地球、日本

記録者: 真菜(マナ)  マイジェンダー: 女性 21才

出身地: 日本  趣味: ドリームゲーム


『それでハ、みんな、集まりましタ?』

わたしの友だち、リトルグレイが小さなUFOでうちの古い日本家屋の庭にやって来た。光るUFOを庭にとめて、縁側に集まっていたわたしたちに声をかける。

「は、はい。こんにちは、グレイさん」

お父さんがとても緊張しながら、集まったわたしの家族、お父さんとお母さん、父方のおじいちゃんおばあちゃん、母方のおじいちゃんおばあちゃんを代表して返事をする。今日は妹の絵美の旅先、アラブ首長国連邦からアフガニスタンへ移動する途中の飛行船から、コミュニ・クリスタルで連絡が来る予定があるのだ。

コミュニ・クリスタルで同時にコンタクトがとれるのは、物理的な三次元世界の人間は三人までだから、わたしだけ、もしくはお父さんとお母さんだけで絵美に応じるのもちょっと寂しい。

そうグレイに相談したら、わたしに貸してくれた「全天21星連合」という宇宙人のグループとグレイが作った黒いペンダントがあれば、それを中心に半径10メートルに入るひとは、VR(仮想現実)のドリームゲームのなかにいるような感じで同時に通信もできるし、そのみんなでVRの宇宙船に乗って宇宙旅行も出来るヨ、と答えてくれた。

23世紀の万能通信アイテム、コミュニ・クリスタルは万物の意識や、古来の神さまがたや妖精、天使たち、シリウス、アルデバラン、アークトゥルスといった宇宙人たち、そして死んでしまった大切なひとたちと映像と言葉を通してコミュニケーションがとれるけれど。それに加えて、23世紀の今はドリームゲームというヘッドギア型の大きな装置がないとできないVRの技術も、宇宙人たちの技術だと、コミュニ・クリスタルのような小さな機器とも兼用ができてしまうみたい。

それなら、絵美にみんなで会おうと、今日は家の縁側に、地球のわたしの家族がそろった、というわけ。絵美のコンタクトはコミュニ・クリスタルからになるので、その通信とわたしの持つ黒いペンダントの通信を重ね合わせるには五次元以上の領域の宇宙人の力が必要だということで、グレイは、五次元領域の集合意識をもつシリウス星人を連れてくると言っていた。

『みんな集まったヨ、ラミコッドさン』

グレイが告げると、ピカピカと光るUFOのなかから、もうひとり宇宙人が降りてきた。きらきらと光る七色の長い髪をした、中性的な美しい顔立ちのひとだ。

『こんにちは、絵美さんのご家族のみなさん』と、ラミコッドさん、と呼ばれた宇宙人が挨拶をした。

「あら、綺麗な方ね! こんにちは」

ああ、面食めんくいのお母さんが、ものすごく反応してる! 200年以上昔の韓国ドラマに始まって、ドリームゲームでそれぞれが個別に娯楽を楽しむ時代が来ても、テレビでドラマを見る、という行為にこだわっているお母さんらしい。

『絵美さんのお母さまですね。今日はよろしくお願いいたします。それでは、みなさん、そろそろお時間となりますので、絵美さんとの通信を始めましょう』

ラミコッドさんは、ふわっと手を前に出して、複雑な指の動きを宙に描いた。

『お姉ちゃん、元気?』

うちの庭に、今は飛行船に乗っているはずの絵美が現れる。コミュニ・クリスタルでの通信だ。火星から地球への帰りをコールドスリープで眠っていた妹は、16才のままの若さで、21才になったわたしに比べたら正直に言うとうらやましいとも思う。

「おお、絵美ちゃん!」

「絵美ちゃん! 元気そうで、なによりねえ」

久しぶりに家族で集まった興奮もあったのだろう、うちのおじいちゃん、おばあちゃんたちが口々に孫の絵美へ声をかけた。

『おじいちゃん、おばあちゃん! ……って、あれ!? みんながいる』

絵美が映像の姿で驚いている。

『こんにちは、絵美さん。すこし、お手伝いをさせて頂きました』

ラミコッドさんが絵美に微笑む。

『あー、宇宙人さんたちの技術なんだ! すごーい、家族みんなでいっしょにお話ができるなんて、夢みたい! ありがとうございます』

『まいどどうモ! 真菜さんに渡したペンダントがあっテ、ラミコッドさんが手伝ってくれれバ、絵美さんも真菜さんも、そして絵美さんと真菜さんの家族みんなモ、絵美さんはメタルクラッド飛行船の旅行先から、真菜さんは真菜さんの家族といっしょニ、さらにみんなで宇宙への家族旅行もできちゃうヨ』

グレイは無表情で言ったけど、これは面白がってる口調だ、というのは友だちのわたしには分かる。

『ええ、ほんとに!? 旅行中に旅行ができちゃうんだ』と絵美。

『せっかくですから、このおうちの縁側で、記念写真を撮りませんか、みなさん』

ラミコッドさんが、また宙で指を動かすと、その手に小さな四角の機械が現れた。確かそれは……200年以上前の通信アイテム、スマートフォン、スマホだ。写真や動画を撮影できるんだっけ。

「はい、ぜひ! こんなふうに家族で集まれる機会は、感染症のことが落ち着くまでなかなかありませんでしたし、娘の絵美とは特に、離れていましたから」

お父さん、なんだか嬉しそうだ。

『それでは、縁側にみなさん集まってください』

ラミコッドさんに促されて、妹のホログラフも、わたしたちも縁側に集まる。

「あらあら、宇宙人さんたちもぜひご一緒に映りましょうよ」

お母さんがずけずけと誘った。

『いいノ?』

「お父さん、いいわよね」とお母さん。

「ああ、宇宙人といっしょに映った写真なら、みんなに自慢できてしまうな、ははは」とお父さんが笑った。

『分かったヨ! それでは、グレイも映るネ』

『はい、私もおともさせて頂きます』

グレイとラミコッドさんが了承して、スマホはその場で宙に浮いたままになり、ふたりの宇宙人が縁側に並んだわたしたちのところへとやって来た。

『はい、それでは撮りますよ……。1+1は?』

「「にー!」」

パシャリ、と懐かしい音がして、スマホがカメラのシャッターを切った。

『今日はすごくうれしいな! お姉ちゃん、ありがとね』

縁側で、隣に座った絵美のホログラフが礼を言う。

「……グレイとラミコッドさんのおかげだから。わたしは別に、なにも」

『ううん、おじいちゃんたちやおばあちゃんたち、お父さんとお母さんのことをお姉ちゃんがしっかり助けてくれてるから、出来ることだよ』

「スペースデブリをリモートで拾う仕事をするとき、長くかかりそうだったら福祉のひとたちに、おじいちゃんやおばあちゃんをお任せすることもあるし、家事のヘルパーさんを頼ったりもしてる。もう、ひとりだけで家のお手伝いをしてるわけでもないから、大丈夫」

『それでも、おじいちゃんたちとおばあちゃんたちの孫で、お父さんとお母さんの子どもは、お姉ちゃんだけだよ、今のうちには。あたしは当分帰れないし……』

「そうかな。こうやって、これからみんなでコンタクトが出来るなら、そんなに寂しいことはないかも。絵美、旅先で体を壊さないようにね」

『うん! ありがとう』

わたしたち家族と、絵美とのほんとうに久しぶりにみんなで集まった縁側での話は、限られた時間をあっという間に過ぎてしまいそうだった。

(続く)

次回予告

ジョニーと絵美の乗ったメタルクラッド飛行船は、大天使ジブリ―ルとともにアフガニスタンへ到着……。5月中旬の投稿を予定しています。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりkeitaさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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