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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」7話 200年後は孤独じゃなかった

6話のあらすじ

万物の意識や、古来の神々とコミュニケーションが取れる「コミュニ・クリスタル」を使い、ジョニーは病に倒れた両親の治癒を大天使ラファエルに願った。願いは聞き届けられ、彼の両親の容体は峠を越す。ここからは、地球でジョニーとその両親の面倒を見ている支援団体職員マッシモの記録。

7話

日時: 2222年2月13日 (地球、ロンドン)

記録者: マッシモ  マイジェンダー: 男性 26才

出身地: イタリア南部  趣味: 筋肉作り


火星にいるジョニーと「コミュニ・クリスタル」での通信を終え、彼が心底憎んでいた両親の治癒を大天使のラファエルに願ったと知り、私は嬉しくなった。少年は成長が早い。言葉によるモラルハラスメントを両親から執拗に受けていた彼のことだ、今すぐ完全に両親のことを赦(ゆる)すことなど出来はしないだろうが、その入り口が心の中に出来ただけでも大した進歩だ。もっとも、火星で最近出来たガールフレンドとの付き合いが、彼の成長を助けた可能性も高いが。恋はそれをする人の幅を広げる。

彼のわだかまりは、これからすこしづつ解けていくのを見守るとして、問題は彼の両親だ。峠を越してから数日経ち、容体は「コミュニ・クリスタル」を使えるまでに回復しているから、これからのことを話す必要があるだろう。

私は、ブレスレット型の「コミュニ・クリスタル」を使い、病院に隔離中であるジョニーの両親にアクセスした。病後のやつれた彼らの姿が浮かび上がる。

「ごきげんよう、ザック、ナターシャ」

私は二人の名を呼んだ。

「ああ、なんだあんたか」と横柄な態度のジョニーの父、ザック。

ジョニーの母、ナターシャはその横でかすかに微笑み、挨拶した。美人だが、すこし表情が暗い印象を受けた。

「あなたがた二人の病が癒えて何よりでした。……ローズ嬢のことは残念でしたが」

「まったくだ! 親思いで優しいあの娘が死ぬなんて……」

ザックは憔悴(しょうすい)した様子だった。

「あの子の兄が病弱だったので、下の子たちが食べるものや着るものには人一倍気を使っていたんですよ。どうしてこんなことになってしまうの」

ナターシャも落ち込んだ表情を隠さない。

「俺たちに1ポンドも渡さず、火星なんかに行ったあのバカ息子がくたばれば良かったのに。わざわざデザイナーベイビーとして金をかけて生んでやり、いいものを食べさせて、着させてきた恩をこれっぽちも返しやがらない」

「……そのとおりよ、ザック」

(……だめだ、こいつら)

もしも「コミュニ・クリスタル」でジョニーが二人の言葉を聞いたなら、そんな言葉を吐いたであろうことが予測できた。

「あなた方が行ったジョニーに対する遺伝子操作は、犯罪の域でした。容姿、知力、運動能力すら人よりも秀でたものを求め、彼が成長して凡人だと分かれば執拗にモラルハラスメントを行った。それなのに今更恩に着せようとするのは、あまりに身勝手ではないですか? そして、ローズ嬢やジョニーに良いものを与えていたのは事実ですが、収入源がポーカーで勝ったお金やローズ嬢のお金というのは、感心出来ることではありませんね」

「うるさいうるさい! ローズは俺たちの娘だ。ジョニーもな。子どもの金を、親が管理するのは当たり前じゃないか」

「そうよ、ギャンブルだって立派な投資なんだから。わたしたちが決める使い方で、何が悪いの?」

「血縁関係があるだけで、法を逸脱(いつだつ)した遺伝子操作を行い、子どもの人生をめちゃくちゃにした犯罪者のあなた方には、反省し良い親となる義務がある」

私はすこし強い口調で告げた。ザックは眉をつり上げ、ナターシャは顔面を蒼白にした。

「ふたりの子どもが先に死んで、まだ分からないのですか? ジョニーはあなた方のおもちゃじゃない。今や火星の自然創生コロニーに行った、私たちの街ロンドンのヒーローです。成人年齢ではないが、既に立派な大人としての分別がある。年を重ねただけで、金銭的にも生活をもローズ嬢に頼っていたあなた方ふたりよりも、よほどね」

「なっ……馬鹿にしやがって」

「馬鹿にされる生き方をしてきたから、当然その扱いを受けている、ということです。ローズ嬢は優しかったから、そうしたあなた方を許し愛して支えてきたのだろうが、ジョニーは違う。あなた方と言う束縛を心底憎んでいる。そして、子どものころから我々の保護下で育ってきた。あなた方の勝手にはさせない」

「余計なことよ……!」

「いいえ。大人の年齢を迎えても、性格や金銭や、生活に至るまで問題を抱える親の元で苦労する子どもたちに対して、親代わりとなるのが我々の仕事です。一体、親の社会性の乏(とぼ)しさが理由で、誰にも言えずに苦しみぬいてひとり死んでいった子どもたちが、どれほどいるとお思いですか? ジョニーはあなた方に任せていたら、自殺かあなた方を殺すか分からない精神状態にあった。ザック、あなたはジョニーに対してくたばればいいと思っていますが、ならばどうしてジョニーが同じ思いをあなたには向けないと考えるのですか」

「ジョニーは、俺たちの子どもだ」

「ええ。しかし、既に我々の大切な子どもでもある。しかし……今回のことで、ジョニーはあなた方の病気が癒(い)えるように『コミュニ・クリスタル』で大天使ラファエルを頼ったそうですよ」

「神さま嫌いで、そんな存在はいないと思いたがっていたあの子が……?」

ナターシャが驚きの表情を見せる。

「心の奥底では、ジョニーもあなた方を愛したいと思っている。今は他人どうしよりも信頼関係の無いあなた方とジョニーには、我々が橋渡しの役目を担います。当面、ジョニーの親の役目は我々にある。あなた方はリハビリテーションを受けて、少なくとも金銭、生活の態度を改めてから彼の親を名乗ってください。そして……ジョニーとともに、あなた方の治癒を願った彼のガールフレンドにも、親として顔がきちんと見せられるような状態になることを、我々も願っていますよ」

私は彼らとの「コミュニ・クリスタル」の通信を終えた。これでいい。次は、ジョニーに心配は無いと告げなければ。通信相手を切り替えて、ふたたびジョニーにアクセスする。

「あ……マッシモさん」

「やあ、ジョニー。君の親御さんたちに、親としての権限は我々にあることを念押ししておいたよ。火星で稼いだ君の収入には手を出させないから、安心してくれ」

「……先回りしてくれたんですか!? あのバカ親たちとは、正直当分口を聞きたくなかったから……。マッシモさん、ありがとうございます」

「いやいや。君の稼いだお金も、可愛いガールフレンドのために使うとあれば喜んで使われるだろう。火星の生活をじっくりと楽しみたまえ」

「はい!」

いい返事だった。ガールフレンドとの仲も良好なようだ。通信を終えて、いつかジョニーがそのガールフレンドと共にロンドンに戻ってくる、あるかどうかは分からない未来のいつかの日を、挽(ひ)きたてのコーヒーを口にしながら私はすこし夢に見た。

(続く)

次回予告

8話は、地球の日本。絵美の姉、真菜(まな)は、若くして火星自然創生コロニーのメンバーとして活躍する妹に、大きな引け目を感じながら生きていた……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからぽんずさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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